[短編版]PILOT GIRLs/EXCEED-WARRIOR

来賀 玲
来賀 玲

MISSION 08 :寒空でも白鳥は飛ぶのを辞めない

公開日時: 2021年10月11日(月) 18:51
文字数:5,159

「怖がらないでよ。出すもの出せば命ぐらい助けるからさ」


 ハイレーザーライフルを片手に、ブルーカナリアの中からそう言い放つソラ。


<ミレニアム構成員>

『ヒッ……!

 こ、この恥知らずのアバズレ共が……!!』


<マリア>

『はっはっは!!笑えるぅ!!

 その恥知らずのアバズレ共に囲まれて泣きながらおしっこ漏らしている良い歳した大人が言うだもんさ!!』


 そしてよりジリジリと武器腕のレーザーブレードを近づけて、痛ぶるように表皮に傷をつけていくサヴェージファング。

 そう、もはやテロリストは……水を売る為の不法占拠者は彼一人。

 生殺与奪権はこちらにある。


「さっさとどっちかに決めて貰、」





<機体AI音声>

《敵eX-W、急速接近!!

 上です!!》



 だが、次の瞬間、天井がくり抜かれて真上から落ちてくる。

 慌てて後ろへアサルトブーストで回避したブルーカナリアとサヴェージファング。

 その目の前、ソラ達と最後のテロリストの間に赤い機体が降り立つ。


<ユカリ>

『B-REX!?

 ランク15、緋那・オーグリスがもう!?』






<緋那>

『────状況は最悪だけど、まだ依頼主は残っているか』



 赤いeX-W────ランク13、B-REXから響く声。



<緋那>

『任務失敗同然な状況。

 せめて報酬を出せる人間は守ろうか』


 タタタ、と間髪入れず左手のアサルトライフルが放たれる。


<ユカリ>

『そんな……!もう追いついたと!?」


<ソフィア>

『見ての通りだ!!撃ちまくるしかない!!』


 火力の高い2機の攻撃が始まるが、瞬間B-REXは射線から跳躍して回避し、上からミサイルを降らせる。


<ミレニアム構成員>

『────ハハハ!!いいぞ!まだ私にも運が回ってきたようだ!!』


 そうしてB-REXに手間取る間に、スケアクロウを動かしてテロリストが逃走を始める。


<エルザ>

『逃げられる!?グッ!?』


 追いかけようとしたコリシュマルドへ、上空からアサルトライフルの雨が放たれる。

 エルザはとっさに左腕のエネルギーシールドを展開して耐えるが、振り下ろされたギュルギュル唸るレーザーチェーンソードは後ろへ跳躍して避けるしかできない。



<ミレニアム構成員>

『よくやったぞスワン!!まさに報酬分の働きだ!

 そのまま引きつけていろ!!私さえ生き残れば組織なんぞいくらでも再建できる!!』


 ふと、一同が格の違いというものを肌で感じる動きを見て止まっていると、テロリストがそう言い出し始める。


<マリア>

『逃げる気!?目の前に金があるのに!!』


<ユカリ>

『金どころか成功報酬もなくなりますよ!!』


 慌てた二人の機体から、チェーンガンと武器腕の榴弾砲が放たれる。


 恐ろしいことに、相手はチェーンガンをブレードから光波を出して全弾かき消し、同時に起動したミサイルで正確に榴弾二つを当てて爆発、無力化した。



<機体AI音声>

『この動きは……強化人間にしたって鋭すぎる……!』


「これが……ランカーeX-W……!


 そして、逃走するMWを背に着地し、ほんの少し機体を傾けて頭部で見るように頭を動かす。


<緋那>

『……で、依頼主さんはどうする気?』


<ミレニアム構成員>

『本社へ戻りしだいここを侵攻するよう進言する!!

 水資源をみすみす見逃しはしない!!

 ここの天然水は、我が陣営の貴重な収入源だ!!

 ここが焦土になろうとも、手に入れねば!!』


<緋那>

『…………』


 その時、ソラはここだ、と思って右腕にゲイルスケグルのハイレーザーを放った。

 後ろの依頼主を守る必要があるなら、避けるはずがない、と。


 ドヒャア、と真横にアサルトブーストしたB-REXの背後で、


「え……?」


 あの、テロリストの残党の乗るスケアクロウの左半分がハイレーザーに焼かれて、片脚が根元から失い爛れた半身のまま崩れ落ちる。


<ミレニアム構成員>

『ぐぁぁ……!?』


<緋那>

『おっと……ゴメン』


<ミレニアム構成員>

『何故だぁ!?貴様裏切る気かぁ!?!』


<緋那>

『侵害だなぁ……まぁこっちのミスだけど。

 安心してよ、』


 無線から響く妙なわざとらしい返答達。

 ガシンガシン、と再び5機に向き直るB-REX。


<緋那>

『すぐに、この新人のアヒルっ子5機を沈めて依頼を完了させる』


 そして、わざわざ広域通信でそう宣言する。



<機体AI音声>

《敵機体は、軽量逆関節と高出力ブレードを装備!

 高機動接近戦に気をつけなさい!》


「…………」



<機体AI音声>

《ソラ!?》


 ソラは何かが引っかかっていたが、そんな事を気にしていられる程度の相手ではない。

 すぐさま思ったより重い威力のアサルトライフルが飛んでくる。


<マリア>

『ガチタン!近くから、盾と足止めやんなさいよ!!』


<ソフィア>

『言われる筋合いが、

 と言える場合でもないか……!』


 すぐさま、両腕のマシンキャノンを起動し、ブースターを蒸してB-REXへ向かうヴェンデッタスリー。

 ソフィアの駆るガチタン機体に対して、B-REXは臆することなく距離を詰める。


 だが瞬間、ヴェンデッタスリーを踏み台にして上空を舞うサヴェージファングの姿が見える。

 とっさに迎撃しようとした緋那の目に、クルリと一回転してのが見える。


 ガシャン!


 とっさにその質量を避けたB-REXに狙いを定め、獣のような機体の両腕のレーザーブレード二つが振り下ろされる。


 バシィィン!!


 雷に似たような音は、レーザーブレードとレーザーブレードがぶつかり合い、『鍔迫り合い』のような形でエネルギーが干渉して起こる爆音。


 そう、その場ではバチバチとエネルギーを散らし、お互いの防御シールドが干渉し合うような距離でレーザーブレードでの壮絶な文字通りの鍔迫り合いが起こっていた。



<緋那>

『やるじゃんか。

 ただ……私のB-REXの方が、強化人間専用のこのフレームが!』


 ギギギギギ……!

 軋む金属、唸るサーボモーター。

 内部で膨れあがる人工筋肉とともに、徐々に両腕で抑えるサヴェージファングが片腕相手にパワー負けして抑え込まれていく。


<緋那>

『パワー負け、するとでも!?』



 説明しよう。

 B-REXの元となったフレームを作ったオーグリス機関は、企業以外で唯一eX-Wフレームを開発している公共の機関である。


 当初から参考協力はアヤナミマテリアルであり、紙同然の装甲と機動戦に耐えられるフレームというコンセプトは同じだが、オーグリス機関はさらにそこへ『強化人間プラスアルファの神経接続操縦による違和感のない反応速度』を求めた結果、しなやかな動きとそれを可能にする人工筋肉のパワーを併せ持ち、


 結論から言えば現行フレームで最も駆動系の馬力が強く、腕相撲で大抵のeX-Wのフレームを圧倒できるパワーがある。


 それに対して、サヴェージ・ファングを構成するフレームは、コアと脚部がカチューシャクラート製。

 宇宙へ打ち上げ、宇宙から降下作戦を行うため、重量とコストを下げるための軽量かつ単純な構造の信頼性ある逆関節フレームは、レイシュトローム陣営の中ではパワーがあるだけで、後ろから数えた方が良い程度の馬力しかない。


 致命的なのはその両腕武器腕ブレード。

 モットーが『人型には拘らない』エンフィールドラボラトリー製、それは全陣営企業最低の駆動系の馬力を意味している。


 片腕相手に、両腕のパワーで対抗しきれない。

 追撃の説明を入れれば、そのパワーを支えるジェネレーターの出力すらおそらく違う。


 徐々に、レーザー刃がサヴェージファングの頭部パーツへと迫っていく。



<マリア>

『………………ククク……!!』






<マリア>

『元から、真面目に戦うつもりなんてないわよ、!』






 その時言われたセリフに、一瞬神経接続を介してパワーが弱まったB-REX。

 振り向く頭部は、嫌な予感の正体を神経接続を介して内部の緋那・オーグリスへ伝えた。








「─────やっぱり、機体の装甲は限界だったんだ!」





 その瞬間、マリア意図を理解していたソラが、ブルーカナリア左腕のマシンガンを構え、ストライクブーストで脇まで迫っていた。


 B-REXの複眼の光がそれに気づいたようにこちらへ移動した頃には、MGM-1000Aの圧倒的な火力が襲いかかる。


<緋那>

『チッ!?』


 しかしB-REXも、中の強化人間の反応速度全てをかけた動きでマシンガンから吐き出されるの徹甲弾の雨を跳躍して避ける。


 だが、そこへ一歩下がったマリアの操作で、サヴェージファングの両腕が胸部の前で交差する。






 ニィ、とコックピットの中でマリアが笑う。


「驚け、強化人間プラスアルファ


 瞬間、サヴェージファングの武器腕、『AM-B1『』』が両腕を振り下ろした瞬間、レーザーブレードが光波を放つ。





 この武器腕はかのエンフィールドラボラトリーが何故か古生物の名前を付けた『皮肉の最新作』だった。


 同じ生物の名前を持つ機体へ飛ぶ光波。

 一瞬で機体シールドを引き剥がし、装甲の限界値までのダメージを残す。


<緋那>

『チィッ!!』


 B-REX左背部の『赤蠍星十三式ANTARES-13』が開き、4連装のミサイル全てがサヴェージファングに降り注ぐ。

 ボンボン、と断続的な爆発に巻き込まれ、大きくのけぞってそのまま地面に倒れた。


「ちょ、マリアちゃん!?」


<マリア>

『ジジ…………ジ-…………

 …………ん念でした。報酬の分け前は貰うわよ』


 やがて、無線から雑音混じりに聞こえるマリアの声。

 無事な様で内心ソラはホッとした。


<緋那>

『殺すつもりだったのに無事か……やっぱり……』


<マリア>

『ハッ……!!

 死んでたまるか!!私は……私にはアンタらにあるはずの物が何もない場所で生まれて……!

 ここから這い上がるのよ……!!

 何ぼさっとしているわけ!?

 とっととその死にかけ機械女を殺せぇ!!』


 中々過激なセリフだったが、それを合図に先に再び動いたのはB-REXだった。

 ミサイルを展開して残りの機体を牽制。攻撃を再開する。


「ぐっ……!」


<ソフィア>

『まだ動くと言うのか!?』


<マリア>

『この場で簡単に諦めるバカがいるわけないでしょうが!!


 お前らも金なり何なり欲しくて、奪いたくて!

 それでスワンをやっている!!お前もアイツも!!

 暴力で手に入れられるモノ、金という力、コネ、なんだって良いわよ!!

 必死に手に入れようとして、蹴落としてでも必死に今戦っているのは誰よ!?



 この場にいるスワン全員でしょうが!!』



 一瞬、その場の人間全てが、マリアの言葉に耳を傾けて動きを止める。


<マリア>

『相手も命かけてるんだから甘えんな!!

 私でも、隣の奴でもいい。誰であろうと、踏み台にしてでも勝つつもりではいなさいよ!!!


 じゃなきゃ……なんで私がアイツの為なんかに赤字になる様なことしてんのよクソッ!!!』





 そうだ。

 ソラも、その場全員も、今になってようやく、心で理解する。





 自分たちは今人を殺して金を得ようとしている。

 大義名分なんてない。

 どこまでも、どこまでも自分の都合のために。




 分かっていたはずなのに……今思い出したのだ。








「…………フフフ♪」





 だが、ひょっとしたら遅すぎたのかもしれない。

 そう思ったのは、次に起こった出来事の後だった。



<緋那>

『────やっぱりさ、』


 緋那・オーグリスは笑った後、そう無線を通じて語りかけて来た。







「────私は私の気持ちに正直になって戦った方がいいよね」


 コックピットの中で、緋那は唯一手動のスイッチのカバーを外す。



<新人スワン>

『何のつもり!?』


「君らが知る必要のないことだよ。

 ただ、君たちのデータが欲しい。絶対に。

 ついでに被験者になって欲しい。出来れば。




 じゃあ、奥の手使おうか」




 カコン、とツマミを回した瞬間、スイッチ付属の表示が『LOCK』から『OVER DRIVE』へ変わり、直後網膜とコックピットモニターいっぱいに『COUNT:120』の文字が現れる。









<ソフィア>

『何をする気だぁ!?』


 直後、ヴェンデッタスリーの背部グレネードが火を吹く。

 放たれたグレネードはB-REXの直撃コースとなり、



 真っ白に、バチバチと放電する様なエフェクトと共に現れた防御シールドに阻まれて威力が相殺される。



「!?」


<ユカリ>

『まずい!!アレはまさか!?』


 直後、ストライクブーストを起動して一気に距離を詰めるB-REX。

 手始めにヴェンデッタスリーへレーザーブレードを向け、とっさなのか後ろからやってきたヒルダのコリシュマルドが、エネルギーシールドを展開して前に出る。


 ズバン!!


 直後放たれた極太の光波ブレードが、コリシュマルドを袈裟懸けに切り裂き、後ろにいたヴェンデッタスリーの装甲を傷つけ背部レーザーキャノンを切り裂く。



<ヒルダ>

『……ぁ……!?』


<ソフィア>

『お嬢様!?!』





<緋那>

『これで二人。

 怖がらないで、負ける時間が来ただけだから』




 ズルリ、と落ちる機体の上の部分の向こう側、


 赤い魔装竜の青い複眼が、こちらを見ている。






「さぁて、ケリを付けようじゃないか」




          ***

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