[短編版]PILOT GIRLs/EXCEED-WARRIOR

来賀 玲
来賀 玲

教習用教材映像『初心者傭兵のためのなぜなにスワン 最終巻:いよいよ醜いアヒルの子卒業ですね!!』

公開日時: 2021年10月11日(月) 18:29
文字数:3,802





 ────誰が最初に言い出したかは分からない。






「訓練終了後に貰った教育動画、見る?」


 迎えの大型輸送艇の中、無線封鎖のためSNSも動画サイト閲覧も禁止のせいで、暇だったのもあったのかもしれない。

 自然と輸送機の人員輸送用スペースの中で、それの上映会は始まっていた。


          ***





(軽快で楽しそうなファンファーレ)


『3、2、1、どっかーん☆』




『初心者傭兵のための、』


『『なぜなにスワン!』』



『はっじまっるよー!!』




(両脇からジャンプしたかのように飛び出してくる、ディフォルメされたファンシーな感じのする、OL風女性と変な灰色の鳥のアニメーションが挟まれる)






『みにくいアヒルの子のみんなー!!

 独立傭兵のボランタリーチェーン総帥の!

 フォルナ・ミグラントでーす!!』



『不細工なヒヨッコども!

 ワガハイことガア軍曹の元、よくもまぁ今までついてきたものだな!!』



(出てくる実写のOL風のメガネの女性と、なんだか鬼軍曹っぽい灰色の変な鳥の人形が喋る)



『今日でこの映像も最後!!

 これを見て、醜いアヒルの子だったあなたも、はれて独立傭兵、スワンとして飛び立つのです!!』



『甘ったれた根性はここで捨てろ!!

 もはや我々教える立場の人間が貴様らを守る必要も無くなったわけだ!!』



『そんな最終巻まで見てくれた皆さん醜いアヒルの子たちに送る最後のテーマは、こちらぁ!!』





eX-Wエクスダブル初心者スワンの為の、初出撃のススメ!》




(子供のような複数の声によるポップなテキストの読み上げ)




『ここまで生き残ってきた貴様ら不細工なヒヨッコ共も、いよいよ戦場へ飛び立つ時が来た!!


 人型汎用換装兵器『エクシードウォーリア』、

 eX-Wエクスダブルの受領は済んだか!?

 整備は終えたな!?』


『ガア軍曹さん、でも整備はギリギリかもしれないですよ〜?

 だって、脚とか武器とか下取りに出して別のに変えてる醜いアヒルの子だっているんですから〜♪』


『なんだと!?!

 そんなことはありえない!!


 なぜなら、貴様ら不細工なヒヨッコ共にはeX-Wエクスダブルなんぞ買える金はない!!


 その最低限の機体ですら、貴様らが普通に働いたならば10世紀近く返すまでかかる金がかかっているからだぁ!!!』




(背景に爆発と共に表示される『380000cn』の文字。※38万カネー。ヤバイ負債額)



『インフレだー!!

 とは言いますが!!

 ちゃんと立派なスワンちゃんとして傭兵稼業をこなしていけば、大体3ヶ月で完全返済可能な金額なんですよー!!』


『ガハハ!良かったなヒヨッコ共!!

 まともに働いていればお前らクソにも良いことはあるようだな!!』


『どうせ、最初のミッションに選ばれるのは3つの系統です!!


 あらゆる陣営のスワン達を統括する『ローエングリン機関』も、(意外と)鬼じゃありませんから!


 単機で格下の『MWマシンウォーカー』相手の掃討を行うか、


 同格規模の武装組織への、大規模軍事作戦行動の補佐か、


 まぁそんな二つに一つな優しいミッションを与えるのが普通ですから〜♪』



(逆関節に二つの連装対空砲が付いた箱のようなMWと、人型だがずんぐりむっくりしているMW、さらに戦車や戦闘機が背景に映し出される)



『お前達に与えられたeX-Wエクスダブルは、中古や型落ちとはいえ一通り使える物だ!


 頭部のレーダー範囲と精度は悪くなく、内蔵FCSも初心者ならこの程度で充分なものを使っている!


 武器も堅実なバーンズ・アーマメンツ社製の実体ライフルに安心のミサイルに、まぁカウンターウェイト代わりの微妙なグレネード、アヤナミ・マテリアル社製の低出力レーザーブレード!


 まぁ癖は無いですし、何より!


 あなた達が今手に入れられるジェネレーターに負荷が最も少ないパーツ構成ですからね!』



(てってててててーん♪という音楽と共にフォルナ・ミグラントの指し示す手に合わせて出てくる、バーンズ・アーマメンツ社製ジェネレーター:GM-02Cの文字とジェネレーター)



『いいか!?

 eX-Wで最も高額で、最も手に入りにくいパーツがジェネレーターだ!!

 カタログで見た通り、性能の良いジェネレーターはeX-Wの他パーツを揃えるのと全く同じ値段になるのだ!!

 最低限戦闘に耐えられるジェネレーターですら、お前らヒヨッコ共にはもったいない!!』


『最初に配布されたコア、レッグ、アームのパーツも、最安値とはいえバーンズ・アーマメンツの堅実でジェネレーターに優し〜〜〜〜い、そこそこ使えるパーツですからね!

 ああ、ヘッドだけ同じ値段帯でも、求められる性能が違う物は沢山ありますし、サポートAIシステムも無難な奴を用意してあります!

 安いからって与えただけじゃないんですよ?





 安いくて低性能で売れない商品なんて、強欲で傲慢なこの世界の企業が出す訳ないですから〜♪』





(おぉぉっと、やっちまったぜ☆とでも言いたげなポーズをフォルナ・ミグラントとガア軍曹が見せる)






『まぁそんな訳で!

 これから始めてにして、最も大変な任務を受ける醜いアヒルの子ちゃん達も、与えられた機体を最大限に活かして戦えば、きっと勝てる!


 とは言い切れませんが、まぁ一回ぐらいミスったって死にはしませんって!!』



『なぁに!負け続けても、オーグリス機関に頼めばタダ同然で強くはなれるぞ!

 どうせお前みたいな醜いアヒルだ!

 多少『強化人間プラスアルファ』になった所で見た目なんぞ変わらん!!』



          ***




「でも死ぬほど痛いぞ」


 たまたまビデオを見ていた訳アリそうな強化人間が言うと、すかさず誰かのツッコミが来た。


「怖い実体験言うの辞めぇや!」


 今時聞かない化石的な日本の方言の綺麗なツッコミだったせいか、周りで笑いが漏れる。


          ***



『しかし、この通り前に出て失敗しても安心な態勢は整っています!!

 若者よ、恐るな!!


 今こそ、初のミッションへ踏み出し、


 醜いアヒルの子は、傭兵スワンとして空へ羽ばたいていくのです!!』



(左斜め上の謎の光を見て、画面はフェードアウト)


(やがて現れる、巨大な『終』の文字…………)













『あ、所で映画のスタッフロールで立たないタイプの皆さーん?


 ここまで聞いて何かおかしいと気づきません?』




(と、黒い背景の左からひょっこり現れるフォルナ・ミグラント)



『私、『最初のミッションに選ばれるのは3つの系統です』と言って置いて、


 2つしか説明してませんよね?』


(と、わざわざ先ほどの内容を番号付きで書き出した背景と共にそう話す)



『実は、これの他にもう一つ、


 恐らくですけど、『料金全額前払い』の依頼、ありませんでした?』



(なぜか、こそこそ話をするようなドアップ)



『それ受けちゃいました?

 受けちゃいました??

 あー、受けちゃいましたかー…………



 あのですね?


 そのミッション、『罠』です』




         ***



 え、と周りがどよめく。

 言葉通りのミッションを今受けて移動中だったからだ







『なんで、他と大差ない内容なのに、

 全額前払いなんだと思います?


 恐らく、『合同軍事演習に参加するスワン募集』とか、『なんらかの軍事組織のMWが足りないので力を貸して欲しい』『スワンのeX-Wなら簡単な任務』とか書かれてません?』





 さらに周りがどよめく。





『はい、心当たりがある人!!

 そして呑気にこんな映像見て移動中の皆さーん!!


 ええ、そこでどよめいているおバカな『カモ』の皆さんですよぉ?


 あなた方まんまとハメられた訳でーす!!



 その任務、ガチの軍事侵攻作戦な上に、


 あなた方は恐らく敵のもっとも深い所へ浸透して戦う事になりまーす!!!』




 ズガァン!!!


 外から炸裂する爆音。

 映像は、まるでそれを聞くように耳を当てているフォルナの姿に変わる。


『ああ、多分ですけど、対空砲の射程内入りましたね?

 いやいや、聞こえてませんよ、これただの記録再生ですもん!


 でもぉ、分かっちゃうんですよねぇ〜〜???


 だって、そんな全額前払いミッションだなんて、割のいい仕事な訳ないじゃないですか〜???


 キャハハハハハハハハハ!!!』



 耳に触る笑い声は、次々外から聞こえる爆音にかき消されない悪意を持つ。




『皆さん、今どんな顔してます?

 青ざめてます??


 でももう遅いんですよぉ……間も無く来ますよ?


 騙して悪いが、で始まる、


 本当の任務の内容が』





 ─────巨大輸送艇は、ビービーと音を立てて揺れ始める。



『───スワン達、騙して申し訳ない。


 これは演習ではなく実戦である。

 目標地点へ到着した……死にたくなければ、降下の準備を頼む』



 さぁ、と青ざめる皆の顔の中、記録映像の『クソ女』は、こちらの様子を見ているんじゃないかという具合にひとしきり腹を抱えて笑い転げた後、す、とこちらに顔を向ける。


『さぁ、醜いアヒルの子ちゃん?


 ここであなたは、ただの射的のためのカモか、

 本当のスワンになるか、分岐点になりますよ?


 どうせ前金でジェネレーター以外のパーツ、いい武器いい機体パーツ、揃えたんですよね?


 それが黒こげになって無駄になる所、

 想像して笑ってまーす!!


 キャハハハハハハハハハ!!!!!!』





「──────ざけんなやぁ!!!!


 全部当たっとる!!!!

 全部その通りやないかぁぁぁぁぁ!!!!」




 醜いアヒルの子の悲痛な鳴き声を、警告音と砲火がかき消す。

 ここは戦場、地獄の一丁目。


 いまだ灰色の毛の雛鳥達も、飛び立たなければ撃たれる場所。



          ***


「やっぱり……誰も教育映像とか見ないか」


 一人、今までの流れをコックピット近くで見て聞いていたソラが呟く。


 素早く、足からうつ伏せになってコックピットへ滑り込み、ハッチを閉めて自分のeX-Wの立ち上げを始めた。


          ***

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