「───今日何度目かは知らんけどありがとう神様仏様にその他諸々ぉ!!!」
アズサは長いセリフを噛まずに言い切って即座にスラッグを数発叩き込むのだった。
流石は強化人間の反応速度と言わんばかりに回避するも、シールドを削る力が極めて強いスラッグは掠ったり本体に当たらないだけでも脅威だ。
そして、薄くなったシールドを貫くは、あの中量機の一撃。
先程、真人間でありながら空中発射をやらかした相手は、平然と真人間らしく構えの姿勢でレールキャノンを当ててきた。
機体装甲値があまり余裕のない減り方をする。
元から薄い装甲であり、『空力カウル』という酷いあだ名があるが……
「私が……追い詰められてる……?」
久々に緋那はコックピットの中で冷や汗が出ているのが分かる。
強化人間の力があるとはいえ、油断しすぎるような事はした覚えはない。
<新人敵スワン1>
『ナイスや!!ナイスやでカスミちゃん!!!』
<新人敵スワン1>
『いえ……!』
今だってオープンチャンネルで堂々と会話している、初々しい姿を見せる相手なのは要所要所での動きで分かる。
「まさか……『例のアレ』ってこと?」
それに追い詰められている事実。
なら……と緋那は改めて気を引き締める。
「このまま……!」
一番の脅威はなくなった。
スラッグガンを発射しながら、ブレードで本体を仕留めるべく一気に機体を近づかせるアズサ。
瞬間、B-REXがとった行動、
それは、前進
「向かってきた!?」
「素人」
本人の考えていた間合いが崩れると思った瞬間に足を止める。
その行為を見てほくそ笑みながら、緋那の操作でB-REXは強烈なブーストチャージを叩き込む。
そこで終わらない。
ブーストチャージの勢いのまま、B-REXは真上へと跳躍。
ホームランタイガーを踏み台にして飛び上がったままましたのホームランタイガーに、アサルトライフルと思えない威力のARM-150Dの大型徹甲弾を叩き込み、衝撃で足止めとシールドの削りを行う。
ダダダダダダ!!
<新人敵スワン1>
『ぐっ……!』
<新人敵スワン2>
『今助けに……!?』
そうはさせない、とライフルを撃つ手をやめず背部のミサイルを起動。
ボボボボ、と放たれた4発のミサイルが着弾し中量機を足止め、そして腰の格納スロットに備えられた武装を掴んで引き抜く。
高速回転して光る刃。
チェーンソーのように動くは、『レーザー発信器』。
「くらえ」
────ギュルァァァァァァァッッ!!!!
振り下ろされた、アヤナミマテリアル性『レーザーチェーンソード』、電3型が、防御シールドを貫通させその刃でホームランタイガーの右腕部を肩から切り離す。
「ヒッ……!?」
この時アズサは、ヤバい予感で刃を見る前に何故か身体が反応してくれたおかげでコックピットへの直撃が避けられた。
<機体AI音声>
《右腕検出不能。危険です》
「言われんでも分かっとんねや……!」
あまりの出来事に小声しか出ない中、相手は追撃の刃を振るってきていた。
しかも左腕のアサルトライフルでカスミの機体を牽制しながらである。
「ヒッ!?!」
とっさにスラッグガンを構えたが、その腕の半分ごと切り裂かれる。
<機体AI音声>
《機体攻撃能力、損失》
「言われんでも分かるわぁ!!!」
もはや一瞬で丸裸。
もう勝てると言う気持ちも起きない。
これがトップランカー
追い詰めたはずのこちらがもう逆転されているほどの強さ。
(無理や……さっきまでのはマジモンのまぐれか……!!)
やはり自分はまだまだ新人だ、と自省するも遅く、
相手のレーザーチェーンソードが一閃し────
<ブリジット>
『───私を忘れるなぁぁぁぁぁぁっっ!!!』
瞬間、真横から飛び出す重量機。
もう武装のないサンダーボルトリバイブが、ブリジットがあの赤いeX-Wへブーストチャージを叩き込む。
<緋那>
『な……!?』
<ブリジット>
『トドメは誰か!!』
だが直後、その胴体を回転するレーザー発信器が貫く。
<ブリジット>
『ぐぅ……!!
なんのぉ!!』
<緋那>
『これで生きてるの……この距離でコックピットを避けた……!?
ダメコン上手すぎ……予想外……!』
<ブリジット>
『翼が1/3になっても飛べる攻撃機の名前……なのよコレ……!!』
ギギギ、と限界の軋みを響かせるも、なおB-REXを押さえ込むサンダーボルトリバイブ。
「っ!!」
瞬間、アズサも自機の前脚二つを振り上げてブーストチャージした。
ちょうど2機がかりで一機を押さえ込む形だ。
「カスミちゃぁん!!!
撃ってくれるなぁ!?!」
通信機に向かって思いっきり叫んだと同時に、間髪入れずカスミ登る機体背中のレールガンがこちらを向く。
「……調子乗んな」
だが瞬間、聞こえる地の底から響くような声と共にズバッと回転する光の刃がホームランタイガーの前脚を切り裂く。
二つの残骸を飛び出すB-REX。
そこへ、カスミの乗るチワワエンブレムの中量機が肩のレールガンを向けて迎え撃つ。
瞬間、緋那が選んだ武装は『電』。
回転するレーザー発信器へ、神経接続を通して周波数とエネルギー供給の細かい調整数値を送る。
ギュルルルル!!
唸りを上げて回転し、その光を強める電の刃。
空中で、B-REXが電を振るった瞬間、
回転する円状のレーザーが電から放たれる。
強化人間が使える特殊な動作である『レーザーブレード光波』が、驚いて立ちすくんでしまったカスミの機体の右側を、
レールガンとスナイパーライフルを斬り裂く。
「────ッ!?」
<機体AI音声>
『右腕部、右肩部武装検出不可能』
半ば切り落とされた右腕部を見て、カスミはコックピットの中で冷や汗をかいていた。
一瞬で武装が消えてなくなった。
ガシャン、と少し先に赤い機体が降り立つ。
誰が見ても絶望的な状況だった。
「…………さて、どうする?」
無線は開かず、緋那は無言で相手を見る。
────面倒くさいという思いもある。
ここまでやって、折れてくれた方が気が楽だ。
思えば、あの中量機は色々良くやった……将来が楽しみで、つまり今戦ったら本当に殺すことになる。
緋那・オーグリスは戦闘狂ではない。
強化人間の素晴らしさは広めたいが、わざわざ酷いダメージを与えたいとは思わない。
それに、思うところもあって任務にやる気はない。
出来れば動かないでそのまま任務を放棄してほしい。
────チワワエンブレムの中量機が、レーザーブレードを持ってこちらへブーストを始めた。
「……そんな気がした」
レーザーの一閃は性格無比だ。
緋那はB-REXの機動性を活かして避けられたが、冷や汗が出る。
アレだ。
相手は『例のアレ』。根拠は無いが、そうだと生身の脳の部分が、本能を司る部分が告げている。
(まぁそんな相手は知らない事情どうでもいい……今は、)
やられる。
相手の動きがいい。
お気に入りのライフルの得意な射程距離なのに当たらない。
上下の軸を意識した移動。
自分の機体の得意な動き、それを最大限活かした反応速度。
それに追いついてくる……肉薄してくる。
(今だけは……!)
敵のブレードは安くても強いアヤナミ製。
装甲が薄い機体では受けられない、避けるしか無い。
だが、こちらもただ動きのいい機体というだけでは無い。
(今この瞬間は、)
相手の前で飛び上がるB-REX。
避けようとしたその肩に、開いた脚部のクローが掴みかかる。
(力こそ全て)
重量を乗せて相手のバランスを崩して倒す。
足蹴になったその機体へ電の回転する刃を振り下ろした。
ギュルルルルァァァァァァァ!!!
二つに分かれる中量機eX-W。
上下に別れたうちの片方、上半身のカメラアイが力なくB-REXに視線をむける。
<緋那>
『……強かったよ、スワン』
B-REXは背を向けて、ストライクブーストを起動。
<緋那>
『できれば、次は被験者として会いたいけど……
次もきっと戦場だよね、全員。
……また、ね』
恐らく、敵の本拠地へと向けて飛んでいく。
「はーっ、はーっ、はーっ……!!」
長く黒い前髪を、ようやくかき分ける。
彼女───チワワのエンブレムのeX-Wパイロットのカスミは、ようやくその顔をあげる。
「生きてる……生きてるんだ……私……!」
震えるパイロットスーツのグローブに覆われた手を見て、小さく呟く。
「でも……なんだろう、この気持ち……」
ぎゅ、と手を握る。
瞬間、ゴンゴン、と外から何かを叩く声にビクンと姿勢を正す。
「お客さーん!!終電でっせー!!
あ、電車ない地域?生きとるかー!?
死んどったら死んでますって言いやー!!」
「え、あ、この声って……!」
慌てて、機体のハッチを開ける。
「お!なんや偉いお人形みたいなべっぴんさんやん!!」
そう言ってひょっこり顔を覗かせる、あのホームランタイガーのスワンは、
なんと……銀っぽい白の長い髪に金色の瞳、布面積少ないパイロットスーツの下はかなりのナイスバディだ。
「ゲノム変異人間!?」
「うわ、開口一番で酷い言い方ー。
そらまぁ、なんかご先祖様はそういうの弄ってたらしいけど、ウチの魂はソースどっぷり大阪の味やで?
って、そっちの方が貴重やーん!!」
「あ……ごめんなさい」
「あーはいはい、東京モンはそのテンションなのは知っとるから、ほら手ぇ貸すから出ぇな」
言われるままに、彼女は……嶋崎アズサに手を引かれて外に出る。
「…………」
「……あの、私の顔に変なの付いてます……??」
「いや…………ふつう〜にうちより名前も顔も美人って羨ましいんやけど。
え?おっぱいなら勝ってる?
どれどれ……あー、こら勝ってへん……ウチもある方けどカスミちゃんもめっちゃ……」
「つ、つつくのはちょっと……」
お互い、まぁ若干販売主の趣味が入っているパイロットスーツの胸部部分の膨らみくらべながら、次の場所へ歩く。
「さてと……一番生きてるのかアレやな……」
穴だらけの機体───サンダーボルトリヴァイヴへ向かう。
ガン、ガン、ガコン!
と、近づいたところでハッチが蹴破られる。
ごそごそと這い出る、人影一つ。
「────ったく!死んでたまるか!!
このブリジット・テレサ・アーヴィング!!
家系が没落してもなお航空博物館の夢も諦めてないのよ!!」
と、言って出てきた彼女は、ボロボロだがまだ気の強そうな顔をする白人系の外国人。
サンダーボルトリヴァイヴのスワン、ブリジットである。
「おー、生きとったかー」
「死んでたまるか!!
……って、あんた……あんたがあの4脚の?」
「せや。嶋崎アズサさんや」
「わ、私がチワワちゃんの……ハチちゃんの絵の機体です」
「あんたが!?パッとしない顔ね!!
でも、一番長くアイツと戦ったのがアンタか……
顔で判断するのもダメね。流石だったわよ、
よ、と立ち上がり、出てきたハッチに再び身体を突っ込んで何かを探るブリジット。
「何しとんの?」
「紅茶が飲みたいの。ティーセットに茶葉、お湯を沸かせるろ過装置も常備しているのよ」
「なんや、金持ち趣味やなぁ?
そういうのは、全員あのレイシュトロームのとこで傭兵やるもんかと思ったわ」
「良いこと教えてあげる。
没落した家の令嬢の扱いなんて、そんなもんよ!」
と、いってその言っていたケースを出す。
「あなた達もどう?」
「そのまえにやる事があるんや」
「あら、撃墜された物同士、優雅にティータイムするのも良いかと思ったけど。
何をする気?」
「まずは……」
「お客さーん!!終着駅でーす!!!
起きぃやー!!」
「んぇ!?!」
ずっと寝ていたあの重量脚の、一文字ハヤテというスワンを起こす。
「どもー、ハヤテちゃんやったか?」
「あ……その口調!!」
中には、短い髪に小柄で活発そうな、日焼けした女の子が一人。
「アンタのeX-Wだけが動ける。
ちょいと、手ェ貸してくれるな?」
一時的に背部ミサイルをパージ。
ホームランタイガーの無事だったレーダーを付ける。
「レーダーって分かりにくいんだよね……点の色とか覚えきれなくって……」
「そう言わんと、アンブッシュに対応出来る優れものや?
それに……テステス、ソラちゃん、他のでもええ!
聞こえっか!?」
「レーダーを使うと通信範囲が広がるんですね?」
「レーダーって言うけど、その実態はレーダー機能だけじゃないわ。
対電子妨害、火器管制と連動した擬似イージスシステムに暗号化通信装置なんかも積まれている電子戦の要よ。
じゃなきゃ、レーダー付き頭部だけでいい話じゃない」
へー、と貰ったお茶でも一服しながら、ブリジットの説明を聞くカスミであった。
<???>
『────生きてたか……!
良かったよ、アズサちゃん!』
「いよっ、社長!
調子はどうや?」
***
「社長ってなんだよ……まぁ、いい風向きだよ!」
ズン、と最後のベルセルクが倒れる。
残りは、貧弱なスケアクロウが一機。
<ミレニアム構成員>
『ヒッ……!?』
「高跳びじゃないジャンプをしなよ。
チャリンチャリン聞こえるようなお金持ってんでしょ?
ねぇ?」
ソラの操るブルーカナリアが、その他周りの機体が各々の武器を向けてそのMWに迫っていた。
***
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