丘の上、武装組織『ミレニアム』前線指揮場
「対eX-W猟兵、擬装地雷によりeX-W複数を撃破!」
「よし!すぐにここを離れるぞ!」
塹壕に掘った中の指揮所で、部下の報告を受けた筋骨隆々としたガタイのいい髭の大男───武装組織ミレニアムの前線指揮官の男は叫ぶ。
「しかし、eX-Wはまだ相当数残っています!」
「そこの若いの。対eX-W戦が、いや戦場が分かっていないようだな?」
「どういうことですか?」
「人と獣の違いは何か。
手負いの獣は身を守るために立ち向かう。
だが、人はそうはならない。
大したことのない怪我ですら、万全を期して逃げるのが人だ」
「それって当たり前ではないですか?」
「ああ、人にはな。
だが、『スワン』は人ではない!」
ズシィン!!
真上からの振動。パラパラと落ちる土埃にも動じず、巨体をゆっくり立ち上がらせる。
「白鳥狩りだ」
「まさか、ここを嗅ぎつけて!?!」
「まだ人間の若い娘なら、楽だが心が痛む。
だがどうしても、成長が急すぎる白鳥はいるものだな……」
そう言って、男は部下に来いと指で指示し、塹壕を出るべく走る。
***
<アズサ>
『あかんわ、四脚のエネルギーじゃ限界や。
ちょい別行動とるで!』
「了解!
前で早速掃除を……うわっ!?」
ブルーカナリアのジェネレーターのエネルギーがなくなる前にストライクブーストを切るソラ。
慣性で飛行中、ダメージ警報と共にパパパと小さな弾丸が降り注ぐ。
「座標ミスったかな!?」
ブルーカナリアの狭いコックピットの中でソラは思わずそう言ってしまう。
目の前の丘には、恐らくミレニアムの武装した兵士たちが、旧時代の汎用機関銃を撃っている。
<機体AI音声>
《なぁ!?
迎撃しなさいソラ!エンブレムにせっかく塗った塗装が剥げます!!》
そう、ブルーカナリアの左肩には、白いシルエットの少女が飛んだ青い鳥に手を伸ばすエンブレムがある。
「ママぁ……防御エネルギーシールドまだ9割だぞ?」
<機体AI音声>
《剥がされてからでは遅いのです!
ブルーカナリアは構成の都合で実体防御薄いのですよ!?!》
「仕方ないか、ママの『身体』だしね」
左腕、バーンズアーマメンツ製実弾マシンガン『MGM-1000A』、別名『1000マシ』をばら撒く。
一発1cn。口径はたしか30ミリのeX-Wサイズの圧倒的弾数でちっちゃい人間を撃つ。
タタタタタタタタッッッ!
良く戦争映画では弾丸で穴だらけなどの表現をするが、30ミリクラスの弾になると消し飛ぶように消える。
血痕すら、良く見えないほど霧散する。
「うわ、赤い霧だ……」
<機体AI音声>
《R指定にも優しい表現ですね♪》
「ママの冗談、たまに怖いぞ?」
と、敵が霧散した場所への着地の直後、真横からズバンと衝撃が走る。
<機体AI音声>
《シールド減衰。機体がダメージを受けています》
「ヤバッ!?」
瞬間、ブーストを蒸して跳躍。
すぐにブーストを切って放物線を描き、着地寸前でブーストを起動して地面を蹴り再び跳ぶ。
小ジャンプ移動などという呼ばれ方をするこれは、回避とエネルギーの節約を両方熟す、生き残るスワンが自然と覚える移動方法の一つである
「レーダー見えた!」
<機体AI音声>
《9時方向、敵MW多数出現》
ジャンプした過去位置を飛ぶ二つの砲弾が一瞬見える。
機種がなんとなくわかったソラだった。
「スケアクロウ!もうMW登場!?」
MWとは、eX-Wも元は含めた歩行兵器の総称であり、基本的に性能は特化させすぎず、組み替えのようなコストのかかる仕様のない物を今は指し示す。
口の悪いスワン曰く『雑魚敵』。
その言葉にぴったりな見た目の、四角い胴体にカエルの目のようなライトと真っ直ぐ伸びる速射砲二つに鶏のような脚のMWが、こちらに速射砲を放つ。
「くっ……!」
小ジャンプで回避。しかし未来位置が予測したもう一機の砲撃が来る。
当たりそうになった瞬間に、右へ『アサルトブースト』。
全身に散らばるよう内蔵された小型大推力のブースターを起動して瞬間的に方向を変えるeX-Wの機能の一つにして、その動きはまるでバレエやフィギュアスケートのようにも見える『機動兵器』の名前通りの超高速回避法。
ドヒャァッ!ドヒャァッ!!
瞬間最大速度は500km/h
MWには決して出来ない、超3次元的高速機動である。
「ぐぅ……!」
もっとも、可憐な動きはパイロットにとっては超高負荷機動。
パイロットと言う果物をミキサーにかけるようなものだ。やり過ぎれば衝撃で物理的にぐちゃぐちゃになる。
何より致命的なのが、
<機体AI音声>
《エネルギー、残り30%》
当然のエネルギー消費ということである。
「低出力クソジェネなのにやりすぎた……!」
E残量急速回復などになれば、『クソジェネレーター』のままではまずいと判断。
被弾は気にせず、ソラはブルーカナリアの足を止めて、泣く泣くマシンガンで迎撃。弾丸は相手持ちではない。
<スワン1>
『はっはー!無様な戦いだな!!加勢してやるよ、ありがたく思いな!!』
<スワン2>
『何かまずいと思ってついてきて正解ですぅ!!』
と、そんな無線とともに、ストライクブーストで飛んできた、グレネードやプラズマキャノンなどの豪勢な武装の機体が真上を通る。
<機体音声>
《増援ですか?デコイですか?》
「多分……」
ドスン!
二体が着地して、早速グレネードやレールガンを構える。
<スワン1>
『たかだかMWに手こずるかよ!』
<スワン2>
『全部吹き飛んでなくなっちゃえ!!』
当たれば一撃必殺。最高火力。
「これは死ぬね、デコイ共」
────囲まれている状況でわざわざ『キルゾーン』に出て構え武器を取ったのがまずかった。
<スワン1>
『うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?』
<スワン2>
『ちょちょ!?なんで!??なんでそんなうぎゃあぁ!?』
集中砲火。
反撃は見て回避されてひたすら弾を叩き込まれる。
「そこの人!!援護するからせめて動いてよ!!」
<スワン1>
『無理だ!!チャージング中で!!』
「……気持ちはわかるけどお気の毒としか言えないじゃん……!!」
流石に貴重なデコイは放っておけないので、虎の子の右腕のゲイルスケグルのハイレーザーでMWスケアクロウの軍勢に穴を開ける。
<機体AI音声>
《エネルギー、残り50%》
「今のうちに!!」
<スワン2>
『やった!助かったぁ!!』
<スワン1>
『クソッ!!これは逃げてるわけじゃないからな!!』
砲撃が止んだ瞬間、二体がこっちに来たが……
「ちょ!?小ジャン!!早く!!」
よりにもよって、二体とも水平にブーストで移動してきたのだ。
良い的だ。
<スワン2>
『ふぇ?小ジャ────ザザー』
ボォン、という音を立て、背後から撃ち込まれたスケアクロウからの砲弾で一機のコアが爆散する。
エネルギーシールドも限界だったのだ……
煙が立ち込めるが、そのeX-Wのコア部分の大きな風穴の中身は見えない。
つまり、物理的にこの世から消えたということ。
「バカ……!」
<機体AI音声>
《もっと最悪な事態ですよ?敵増援確認。
それも面倒なのが……!》
レーダーに無数の影、カメラを見ると森の奥からまた厄介なのが来る。
キュゥゥン!
足のタイヤを動かして、こちらに走る人型群。
<ミレニアム兵>
『MWといえど、同じ人型だ!
この物量と性能……負けるものか!』
<ミレニアム兵指揮官>
『その通りだ若いの。だが油断するな!
白鳥狩りは、難しいものだ!!』
ブォン、と巨大な四角いカメラを光らせるその人型MWは、
「ヒュージナックル……!?
カチューシャクラートの空挺仕様の高性能MWじゃん!!」
<機体AI音声>
《場合によってはeX-Wも狩れるような戦闘用……
企業付き、だからですか。成金主義な》
敵の右腕の滑空砲が飛んでくる。
小ジャンプを繰り返し、アサルトブーストを駆使して避けるも数も凄まじく、さてどうするかとソラは思案する。
<スワン1>
『冗談じゃねぇ!!何がヤバいだ!!
ここでしっぽ巻いて逃げたら負け犬じゃねぇか!!』
うわ、とソラがドン引きする程アホな言葉と共に、アホな突撃を始める『デコイにもならないヤツ』。
<スワン1>
『こんな奴らはなぁ!!どうせ見掛け倒しのクソ雑魚なんだよぉぉぉ!!』
カァオッ、と放たれるプラズマライフルを片手に被弾を気にせず突き進むあのeX-W。
その機体の目の前に迫った二体が両脇に離れて、その間にワイヤーが張られる。
<スワン1>
「な───ガッ!?!」
ズガァン、と派手な音で転び、間髪入れずUターンした二体のヒュージナックル。
「させるか!!」
右腕のゲイルスケグルから放たれるハイレーザーなら一撃でヒュージナックルを爆散できる。
<機体AI音声>
《───エネルギーがありません》
「ゲッ!?チャージング!!」
コンデンサ容量がゼロ。亀の歩みでフルチャージまで回復する間、ブーストもエネルギー武器使用もできない
ヒュージナックルの一体はその隙に倒れたあのeX-Wへ肩のロケットランチャーを断続的に放ち始める。
<スワン1>
『グワァァァァァァァァ!!!』
あのeX-Wの防御エネルギーシールドを削る。
そして、その実体装甲へ右腕の武器突き立てるヒュージナックル。
<スワン1>
『辞めろォ!!こんな死に方、い───』
ズガン!!
───『装甲殺し』、リニアパイルバンカーの一撃でコックピットが串刺しにされる。
誰が見てもわかるぐらい確実な即死だ。
「最悪だ……次は私じゃん……!」
そして、ヒュージナックルの群れは、チャージング中のブルーカナリアへ目標が移る。
<???>
『────聞こえるか!?
しゃがめ!!!』
直後飛んでくる無線。
素直に指示に従うと、ヒュンヒュンという飛翔音を連れて無数の大口径砲弾達が降り注ぎ、正面のスケアクロウに穴が開く。
「だれが!?」
その言葉の瞬間、ブルーカナリアの上をかすめる眩い光は超重量級の機体を浮かすためのエネルギー。
頭上をかすめるキャタピラと、それに乗った重装甲のコアと腕。
両腕にリボルバーリバティー社の4連装マシンキャノン、MC1『カルティベーター』を二つ。
背後に同社のグレネードとレイシュトロームのレーザーキャノン。
まさしくそれは、
「ガッチガチのタンク脚eX-W……!!」
<機体AI音声>
《ガチタン……!?》
ガチタン。ガッチガチに装甲を固めたタンク脚での重武装アセンの俗称。
戦車が旧式な兵器となった世界の、新しい戦車の名を受け継ぐ構成。
ガキャァン!!!
そのガチタンeX-Wが、ブースター出力のままヒュージナックルの一体へ突撃する。
<機体AI音声>
《ガチタンの加速突撃……!!》
黒いタンク脚の機体が、まだ原型を留めていた下のMWをギャリギャリと履帯で削って『整地』する。
<ガチタン乗りのスワン>
『───さっきは助かった。
借りは返す』
短く入る通信。
短い言葉、ガチタンは超信地旋回と共に敵に向き直る。
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