[短編版]PILOT GIRLs/EXCEED-WARRIOR

来賀 玲
来賀 玲

MISSION 10 :この戦場が、スワンの魂の場所だ

公開日時: 2021年10月11日(月) 18:52
文字数:7,375



 一方その頃、残骸だらけの森では



「無事かなぁ、ソラちゃん……他のみんな」


 すすー、と貰ったあったかい紅茶を、上からティーカップを掴んだ少しはしたない飲み方で飲みながらアズサは自分の見つけた基地の方角を見ていた。


「無線からは、激戦の音とかしか聞こえないわね……

 広域だからか色々聞こえてくるけど」


 2杯目の紅茶を注ぐブリジットは、インカムから聞こえる音を聞きながら言う。


「……私たち、もう機体ありませんから、ね……」


 そして静かに、カスミが俯いて両手で持った紅茶を見てつぶやく。


「…………やっぱり、私行きます!!

 気絶したまんまじゃ、格好つかないから!」


 と、ぐいっと冷ました紅茶を飲み干したハヤテが立ち上がり、事実上無事な自分のeX-Wへ向かい始める。


「自分、そらええけど武装がブレードだけやん。

 そもそも一回負けた相手やで?」


「間合いは掴んだ。気合は十分!

 頑張ってる味方を見捨てるぐらいなら!!」


「ええ子やの……なら、タダ働きも嫌やし、なんかウチの残ってる使えそうな奴持って行──────」






『あー、あー、そこの砲火後ティータイムな子たちぃ?

 聞こえますぅー?ちょっとお時間よろしいですかぁ?』



 と、各自のインカムから声が聞こえる。

 直後、甲高いストライクブーストの音ともに、全員を見下ろす位置まで一機のeX-Wがやってくる。


「なんや!?新手か!?!」


『あぁん、ご安心してくださいよぉ♪

 私、ちゃぁんと味方ですよ〜?

 eX-W降りちゃってるから、識別コードとか映し出されないでしょうけどちゃぁんと味方、フレンドー、って感じでーす☆』


 恐らく軽量二脚型。

 味方と名乗るその機体は全員を見下ろす位置で止まり、こう言葉を続ける。



『それで、醜いアヒルの子ちゃん達?


 状況は?』






          ***



「───この作戦で行くよ!

 頼むね?」


<ユカリ>

『……ええ、分かりました』


<ソフィア>

『……死ぬなよ』


 ソラが出す『奥の手』の為の簡単な作戦を聞き、進み出す2機のeX-Wから二人の決意の声が上がる。




<緋那>

『もう言葉も不要か……来なよ』



 やはりというか、緋那・オーグリスも本気だった。

 まさかの『二つ目』の格納武器、バーンズ製ハンドガン『HGM-100J』を、明らかに軽量な逆脚のどこにそんな積載量があったのか分からないが腰から取り出す。


 ヤバい、とソラとユカリは武器を見て判断した。


 しかし、ヴェンデッタスリーを駆るソフィアが構わず突っ込む。

 まぁ悪くはない。あの武器とは一番相性がいい。

 ただし、予定変更し二人は散開してチマチマと射程外から削る算段をつける。


 その2機へまだ残していたミサイルを牽制に放ち、ハンドガンをヴェンデッタスリーへ放つB-REX内の緋那。




「ハンドガンごと、きっ!?!?」


 着弾の瞬間、凄まじい衝撃がヴェンデッタスリーに響き渡り、強靭な履帯が生み出すはずの進む力が弱まる。


 両脇で散開し見ていたユカリとソラはヒヤッとする。




 ハンドガンは、威力は実弾兵器最弱であり射程も短い。

 格納だけが取り柄のサブアーム……と思うのが素人。



 ハンドガン、その代名詞であるバーンズアーマメンツの送り出すこの逸品、『HGM-100J』は、


 その極悪な衝撃を生み出すこれでしか撃てない専用弾が、ガチタンですら脚を止めてしまう。


 安定性最強のタンク型脚部で今足がだんだん泊まっていくのだから、四脚でもこうなる。

 二脚なら、コケかけている間に、


 ズバァン!!


 いつの間にか近づかれ、ヴェンデッタスリーの左腕部のマシンキャノンのようにレーザーブレードで一刀両断される。


 格納だけが取り柄のサブアーム。

 そんな物がeX-Wの武器として売られるはずがないのだ。




「ッ!だが!」


 だが、斬られたマシンキャノンを捨てたヴェンデッタスリーの背部が光り、


 ガッキャァァァン!!!


 直後のストライクブーストと共に放たれた最重量のブーストチャージにB-REXが巻き込まれる。


<緋那>

『げぼっ!?』


<ソフィア>

『我が復讐の道のためにお前が死ね!!

 血の復讐ヴェンデッタを果たすために生きて勝つ!!』


<緋那>

『……血吐いちゃったから、ギャグに聞こえたじゃないか!』


 轢かれたままだったB-REXが、片脚のクローをボコボコのタンクの全面装甲に食い込み、

 ズガァン、ともう片脚で地面を爆発するような勢いで叩きつけて、ヴェンデッタスリーを止める。




「なぁ……!?!」


 流石に、コックピット内部でソフィアは心底の驚愕と恐怖を覚える。





「聞こえないけど、驚いてるのは良くわかるよ?」


 ギチギチとフレームを支える強靭な人工筋肉の軋む音を聞きながら、緋那・オーグリスは笑う。




『『いや、これで良いのさ!!』』



 瞬間、両脇から来る質量二つ。

 ガキャァンという衝撃がコックピットを襲い、逃げ場のないエネルギーが緋那本体を揺さぶる。




「ガハッ!?!」


 リミッター解除で強化したシールドを二つのeX-Wのシールドの干渉で中和・消滅させ、ブーストチャージで挟み込む。

 そのダメージで銀色の人工血液を吐血しながら「やられた」と緋那は両脇を睨む。



<要注意スワン>

『この距離ならシールドも意味ないね!!』


 ブルーカナリアのスワンの、レーザーブレードを起動させたソラの言葉にキッと睨み返し、しかしどこか楽しいのか口の端を曲げて答えと共にあるものを返す。




「─────私の得意な距離だけどねぇ!?」



 瞬間、異変を感じたのはソフィアだった。

 突然の浮遊感。

 それが、B-REXだと気づいた瞬間には、ハンマーのように薙ぎ払いを叩きこむ。


<ユカリ>

『ガッ!?』


「うわぉ!?」


 避けられなかったフルメタルジャケットごとヴェンデッタスリーが吹き飛ばされ、かろうじて避けられたブルーカナリアのカメラを通して壁に叩きつけられる姿がソラに映される。


 オーグリス製フレームの馬力の恐ろしさを感じ、背筋が余計に寒くなる。



<緋那>

『次はお前』


 そして、当然のように矛先はこちらに来た。

 素早く、本気の一歩で踏み込まれ、反応の間も無くレーザーチェーンソードがブルーカナリアを突き刺した。






「……へぇ?」


 しかし、コックピットで緋那は心底驚いていた。

 とっさに右腕のハイレーザーライフルを盾に、それでもなお貫いた刀身を左肩に逸らして難を逃れたのだ。


「危なかったね……まぁ、この状況じゃあ、」


 緋那は、より腕に力を込めて、レーザーの回転する刀身を差し込む。

 せっかく換装した格納レーザーブレードも、まともに使う前に左腕ごと落ちようとしていた。


「もぉミサイルしか無いか……ようやくだよ。

 ようやく一番厄介な君を、殺せる」


 いよいよ、レーザー刃が肩を貫き後ろから出てきた。

 今、ブルーカナリアは二つの武器を一度に失う状況だった。



 流石に、これは詰みだった。






<要注意スワン>

『その通りだよ。


 ようやく、さ!』




 だが、その瞬間、

 ゲイルスケグルを捨てたブルーカナリアの右腕で、B-REXの電3型を掴んでいる右腕が掴まれる。




「───ようやく、近づけた!」


 警告鳴り響くコックピットの中、ソラが『勝利を確信した笑み』を見せる。


<機体AI音声>

《恐ろしい子です。

 さぁ……やりますよ、使はずの武器を!》


「ありがとうねママ!!

 じゃ、早速!!」


 コンソールにコードを撃ち込み、トリガーとストライクブーストスイッチを同時に押す。






「まさか……!?」


 ゾッとした。

 この状況でできる攻撃手段に思い当たった緋那は、

 新人が使うわけがないはずの攻撃だと理解したが故に。


 ────目の前で、相手の頭部のカメラアイの保護シャッターが降りるのが見える。

 ストライクブーストの保護ハッチが開き、相手の青い機体を守るエネルギーシールドが光り出す。





ブラストBアーマーA!?」






 瞬間、目の前でシールドが爆ぜた。



 ズキャァァァァン!!!!!



 凄まじい光量と、雷のような音。

 二つがその場を包み込み、吹き荒れる。




 エクレールメカニクスはエネルギーシールド開発に置いて最も進んでいるリーディングカンパニーであった。

 先程ソラ達が執拗に狙ったエネルギーシールド干渉も当然エクレールは熟知し研究を重ねていた。


 企業として生まれてから長い年月の研究。

 たどり着いた答えは、


「このエネルギーシールド干渉、攻撃に利用できねーかな?」


 というものだった。



 エネルギーシールドを『指向性を持たせて炸裂』させるブラストアーマーという機構を、自社の作るストライクブーストパーツに搭載したのは直ぐだったらしい。



 その一撃は、あらゆるエネルギーシールドを吹き飛ばし、衝撃でeX-Wを破壊する。







「ギヤァァァァァァァァァァ!?!?!?!

 じ、神経接続し゛ん゛け゛い゛せ゛つ゛そ゛く゛がらッ……!!!

 光が……逆流するぅぅぅぅぅぅぅぅぅ……!!!」



 コックピットの中は地獄だった。

 光量オーバーに想像を超える機体ダメージの神経接続へのフィードバック。



「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛───ッ!!!

 いだい!!脳が焼げるぅぅぅぅぅぅぅ!!!!!」




 緋那の目の端から銀色の人工血液が溢れ出し、さらに鼻からも滴り落ちるほどの物だった。








「やった……!!」


 衝撃で左腕は切り離され、ブルーカナリアのコックピットは警告表示が鳴り響く。


<機体AI音声>

《ジェネレーター異常!エネルギー不安定かつ出力低下!!

 コンデンサ回復しません!!だからこんなパーツを使おうだなんて無茶だと!!》



 ───ブラストアーマーは、使用推奨ジェネレーターが存在し、まず新人が手に入れられるジェネレーターでは使えばこの通りジェネレーターに不調が出る。

 むしろ、止まらなかっただけ、今初めてこの『クソジェネ』に良くやったと言いたかった。



「でもこれで、王手とかチェックメイトって奴!!」


 しかしバランスを失いそうな足取りでフラフラ踊るB-REXを見て、ソラは叫ぶ。



<機体AI音声>

《もうミサイル以外攻撃能力が!》



「いつまで寝てんのさ二人ともぉーッ!?!」




 壁際、投げつけられたフルメタルジャケットとヴェンデッタスリー。


 ギギギ、と音を立てて、まだ無事な右腕のマシンキャノンを、折れていない右榴弾砲を向ける2機。


<ユカリ>

『この一撃だけのために……!!』


<ソフィア>

『生き残った……!!』


 狙いは、今現在シールドの張れていない、パイロットもフラフラなB-REX。






「調子に……」


 その時、B-REXの緋那が、銀色の血が溢れる目を大きく見開く。






<緋那>

『────乗るなぁ!!!』


 咆哮一閃。

 電を振るい、ヴェンデッタスリーとフルメタルジャケットの方角へ光波ブレードをやたらめったらに放つ。


 全て命中とはいかないが、運悪く2機の最後の武器を破壊してしまう。


<ユカリ>

『まさかそんな!?』


<ソフィア>

『ここでか!?』


<緋那>

『ぐ……ふふふ、ここまで追い詰められたのいつぶりか……流石さ、スワン』


 くるり、とブルーカナリアの方角を向く。


 まずい、と思った瞬間、飛び出すような速度で再びB-REXが突撃し、ブルーカナリア最後の武器の右背部ミサイルランチャーが破壊される。


「ぐっ!?」


 背中から倒れたブルーカナリアに、マウントポジションのようにのしかかるB-REX。


<緋那>

『……本当、君は念入りに潰さなきゃ、ダメな奴だったさ!』


 振り上げられるレーザーチェーンソード、電3型。

 ソラは、すでにまともに動かないブルーカナリアの中で、その時を見ていた。


 回転するレーザー刃が、

 振り下ろされる。







 ピィーッ!!




 ────響いた音と光の筋。

 振り上げたB-REXの右腕が電3型ごと消える。


「え?」


 直後、ピーピーピーと断続的に降り注ぐ、の光。

 衝撃か、回避行動か、それとも何も考えないでやってしまった行動か、B-REXは立ち上がり、後退りながらハイレーザーの雨を受ける。


 やがて、ボボボボと断続的な爆発をたてて、B-REXだった残骸は背中から大きく倒れていった。



「…………え?

 何が……??」


 突然助かったソラは、思わずそんな情けないキョトンとした声を上げる。




<???>

『あらら、私が手を下すまでもなかったですかね?

 これで死ぬとか、緋那ちゃん新人に追い詰められてるなんてなっさけなーいですねぇ〜?

 ぬふふふふ〜♪』



 やがて、広域無線に聞こえる声。

 まだ動くカメラアイを動かして、相手を見る。



「誰……?」


 そこにいたのは黒い軽量二脚型機体だった。

 恐らくアヤナミ製とバーンズ製の混合。

 アサルトライフルにレーザーブレード、そして左背部のB-REXを殺し切ったレーザーキャノン。


<ユカリ>

『!?

 そ、そのエンブレム!!まさか!?!』


 そして、ユカリがそのeX-Wの左肩、

 黒いカラスに、赤い丸と斜線のノーエントリー禁止マークのエンブレムを見て驚いた声を上げる。


「だ、誰か知っているの?」


<黒いeX-Wのスワン>

『やーですねー、私ですよ。

 フォルナ・ミグラント。ビデオちゃんと見ました?』


 え、と思わずその名前に驚く。


 そう、あの騙して悪いがを教えた教育ビデオに映った人間。

 ソラ達独立傭兵スワンの、一応トップの人物。



「あのフォルナ・ミグラントぉ!?!

 偉い人なんでしょ、なんでここに!??」


<ユカリ>

『偉いどころかこの人!!

 そこにいる緋那・オーグリスよりランク上のランカーですよ!?

 ランク9!ナインラーべを操るフォルナ・ミグラント!!

 独立傭兵最強のランカーですよ!?』


<黒いeX-Wのスワン>→<フォルナ>

『はい、百点満点♪

 その通りの、永遠の20歳のおねーさん、出来る女のフォルナ・ミグラントでーす!

 強化人間よりすごく強い♪』


 ぶいぶい、とあの教育ビデオの通り……いやもっとうざいキャラを見せるように通信で話してくるフォルナ。

 しかし、なぜこんなところに?



<緋那>

『───私が死んだみたいに扱わないでくれる?』


 その時、まさかの焼け焦げたB-REXからの通信と共に、コア部分の金属を突き破って腕が出てくる。

 驚いている間にゴソゴソ動いて緊急脱出レバーを動かして、パシュンと腕の主ごと黒焦げのハッチが飛ぶ。


 ガシン、とハッチごと着地したのは、

 ────思ったより童顔で、近くの物体から小柄な栗色のショートカットの少女だった。


<緋那>

『……やぁ』


 壊れた機械義手の片手を上げて、同じ無線で話す当たり、彼女が緋那・オーグリスだった。


<フォルナ>

『チッ!殺し損ねた……いいですよねぇ、強化人間って無駄に頑丈で!!』


<緋那>

『うるさいだなぁ。

 私の方がそっちを殺し損ねた回数多いのボケて忘れちゃった?』


<フォルナ>

『なんですとこのガキャ───────ッ!?!

 NO!お婆ちゃん!!おばさんならまだし、おばさんもちがーう!!私お姉さん!!お姉さんだもん!!』


<緋那>

『最古参のスワンさん、には悪いけど私はお前には負けてない。

 負けたとしたら、そこの後輩スワン達にさ。

 にしても、お孫さんのお守りにでも来たの?』


<フォルナ>

『ぎにゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?!』


 何か激しく打ち付けているような音、多分頭を抱えて暴れる音が響く中……



「どゆことユカリちゃんや?」


<ユカリ>

『スワン歴50年という時点で察してあげてください』


 と、密かに詳しそうなユカリに尋ねると、結構耳を疑う言葉がくる。

 ……ビデオの見た目は20代前半でも通じる。


<フォルナ>

『NO!私まだ二十歳です!!二十歳ですから!!』


<緋那>

『何年目の二十歳かは知らないしどうでもいいよ』


<フォルナ>

『良くないですよ!!

 久々に『香ばしい』ミッションだなって、シティーガードにわざわざ騙されに来て、新人が潰れて出来た隙にサクッとミッション達成してガッポリー!が計画だったのにー!」



「うわぁ、酷い理由だなぁ……それでこのタイミングまで来なかった訳で?」



<フォルナ>

『そうですよ、新人ちゃん!

 この世界、特に独立傭兵は旧時代みたいに信用だとかが売りじゃないんですよ!

 クズでもなんでも、生き残って依頼達成すればなんだっていいんですぅ〜!

 騙されるのが常!!裏切りは日常!!

 だからこその『汚れ仕事人ダーティーワーカー』スワン!!

 ここ、スワン人生の任務というテストに常に出るところですし覚えておいてくださいね?』


<緋那>

『そこだけは同意。

 でも、ローエングリン機関から『スワン保護』報酬少しは出るしさー、命は助けてー?

 はい降参。私はこのミッションではもう戦えませーん!』


 と、関係ないぶっ殺すと言わんばかりにeX-W用アサルトライフルを突きつけるナインラーべの中のフォルナは置いておいて、緋那が壊れた方も含め両手をあげてそう言う。


「……え?」


<ユカリ>

『じゃあ……』


<ソフィア>

『つまりは!』


 と、ソフィアも声を上げる。






<MISSION COMPLETED>





 ────機体AIが判断したのか、それとも気を利かせたのか、その表示が現れる。




「……勝った」


 瞬間、訪れるのは安堵。

 今ようやく、


「……任務完了だぁ〜……!!」


 ソラ達のミッションが終わった。



          ***


 パンパン、と銃声が鳴り響く。


「うぎゃぁ〜!!

 あ、足がぁ!?!」


 一人のスーツに防弾チョッキを着た男が倒れて苦しむ。

 その身体に、小さな足で蹴りが叩き込まれた。


「まったく、手間をかけさせるわねぇ……お・じ・さ・ん?」


 グフ、と鳩尾の一撃でうめく中、癖っ毛の長い髪の少女が、


「選択肢をあげるわ。

 そこのスーツケースのモノ、素直に渡して命だけは助かる、か」


 まだ、小学校を卒業したかしないか程度の、支給されたパイロットスーツ姿の幼さすら残る小さな身体と、意外にも大人びて美人と言うべき綺麗な顔立ちの美少女が、



「私に傭兵らしく『略奪』されて死ぬか……

 どっちがいい?お・じ・さ・ん!?」



 まさに、肉食獣のような笑みを浮かべて、支給されたカービンを構えてそう悪夢の選択肢を突きつける。




「……あなたが、マリアね?」


 そこへ現れる、褐色で長身の女性……いやまだ少女。

 エルザは、目の前の────サヴェージファングのスワン、島村マリアが視線を向ける。


「ブレオン機の……!

 生きてたわけか、まぁ機嫌が良いからマリア呼びは許すわ。

 持ち逃げしても良いけど、ミッションクリアしてくれた例ぐらいはアイツらに渡さないと流石にねぇ……

 手伝ってよね?コイツから剥ぎ取るの」


 銃口を突きつけ、ヒィと声を上げる男を一瞥もせずそう言う。



「…………恐ろしい子ね、その歳で。

 ……これもスワンということですね」


 へっ、と笑って、エルザの言葉に答えるマリアだった。




 今、全てのミッションが終わった瞬間だった。



           ***

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