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ガシャン、コンッ、とブルーカナリアで木を蹴り進みながら、ソラは思ったより少ない敵の抵抗に思案する。
恐らく突破が速すぎたり、アズサの活躍のおかげだろう。
<マリア>
『先行くわよ!援護しないとぶっ殺す!』
<エルザ>
『辞めなさい、そういう言い方は!』
<マリア>
『こんな軽量軽装甲2機が支援なしに突っ込むっていうわけ?
まぁあんた左手にエネルギーシールドあるからマシでしょうけどね!」
「……ちょっと悪いんだけど、後ろの足遅い組に用あるから、しばらく2機でお願い!」
は、と威圧のこもったマリアの声を無視して、一度木から降りる。
<ユカリ>
『ウヒィ〜!なんでシミュレーションよりもこう……こううまく動かないのかー!?』
<ソフィア>
『タンクじゃないだけマシだ。跳べるだけマシだ絶対に』
断続的なブーストするソフィアのヴェンデッタスリー貧弱なジェネと重量に対して出力の間に合ってないブースターに苦しんでいるのが見て分かる。
その横でぎこちないウサギ飛び、もとい小ジャンプ移動するフルメタルジャケットが続いているがまぁまだ操作に慣れていない感じが出る。
「……普通は初任務こうだよね」
<機体AI音声>
《シミュレーターを厳しくして正解でしょう?》
「うへぇ、思い出した。
……ねぇ二人とも、脚止めないままちょっといい!?」
とりあえずソラは、二人に要件を話すために呼ぶ。
<ユカリ>
『はい?』
<ソフィア>
『何かあったか?』
「私と別で動いている方のeX-Wと合流した生き残りが、多分敵の雇ったスワンに接触したの。
白い文字でOのエンブレム。
赤い装甲に軽量逆関節、右腕デカいプラズマキャノン持ちの、』
<ユカリ>
『えっ!?!ランク13!?!』
一人、ユカリがそう声を上げる。
「知ってるの?」
<ユカリ>
『知ってるも何も……ランカースワンですよ!?
それもランク13……トップランカーの一人です!!』
興奮してフルメタルジャケットの武器腕榴弾砲が上下する。レバーを動かしすぎである。
「ローエングリンランク、だっけ?
でも13って結構上って思うけど……」
ここで説明しよう。
ローエングリンランク、それはスワンを統括する公共機関であるローエングリン機関が発行する、世界中にいるスワンの中でも選ばれた50人に与えられる格付けである。
死者も入れ替わりも才能の有無もあり入れ替わりは激しいが、普通の感覚ではランキングのトップとは5位以内や、10位以内という感覚がある。
<ソフィア>
『──ローエングリンランクの15位以内は、企業のパワーバランスや政治的ゲームで決められている』
ふと、ソフィアがそう言葉を漏らす。
<ソフィア>
『だが、全員15位以内に入るまでに、任務成功率や対eX-W戦の成績でのし上がってきたのは間違いない。
つまり、誰が一位になってもおかしくない実力者が、各企業の評価が最も高い最高位のスワン達が、
15ある席を、その企業の思惑で出来た順番で座っているだけだ』
「……詳しいね?」
<ソフィア>
『訳があって、調べた。スワンになる前はただお嬢様のお家を守っていた日々じゃない。
我々独立傭兵の長であるあのフォルナ・ミグラントも独立傭兵で最も高いトップランカーでありランクは9だが、
実際は2か3を争える腕がある。
そう言われている』
あの教育ビデオのムカつくオバさん……もといお姉さんがそこまでとはちょっと知らなかったとソラは反省する。
<ユカリ>
『そして予想通りなら、相手はあのオーグリス機関所属の強化人間スワン、ローエングリンランク内の強化人間の中でも最高ランクの方ですよ!!』
ユカリが言ったのは嫌な名前である。
オーグリス機関は、別名『悪の秘密結社』である。
汚染されたこの星の地上の改善と、そこに住める人間を、改善できる作り出すために、
そこにいるソフィアのような、強化人間の技術を日々磨いている危ない場所だと皆が言っている。
<ユカリ>
『緋那・オーグリス
ランク13、B-REX!!
軽量逆脚のオーグリス強化人間向けフレームに無理くりプラズマライフル最高火力の『サングリーズル』を持たせている構成で、重心の偏りをあえて強化人間らしい動きに取り入れているんです!!
オーグリス機関のマークとほとんど変わらないエンブレム付けているのは彼女ぐらいです!』
「強化人間だから強いだろうけどさ……」
<ユカリ>
『強いに決まってますよ!!
最強の強化人間です!
あのプラズマライフルを構えた姿が、恐竜骨格のように見えた事から、ついたあだ名は『魔装竜』!!
装甲が低いと言っても、まず当たらないんですよ!
強化人間はそもそも、一部の内臓から筋繊維も神経も頑丈で対G、対放射線、その他もろもろに強い人工物に置き換える!
だから、アサルトブースト酔いも失神もせず、神経接続だからボタンを押すより早い!
反応速度も、最高速度も我々なんかより早すぎる!!』
マジで、と同じ強化人間のソフィアの機体へブルーカナリアの頭部を向けると、器用な動きでヴェンデッタスリーの頭部パーツでうなづくのだった。
<ユカリ>
『助けに行かなければ死にます!
二手に分かれ、』
「ごめん。話そうとしてたことはさ、
見捨てるからこのまま進むってことなの。
それと敵来た!!」
ボン、と3機の間にロケットが打ち込まれ爆発する。
カチューシャクラートのロケットの威力は正直言っておかしい。
<マリア>
『話まとまったなら、とっとと来い支援砲撃と壁!!』
<エルザ>
『くっ……言い方はともかく、やはり基地入り口は敵が多い……!!』
<ソフィア>
『お嬢様!!
くっ……』
ギュラギュラ進んでいた履帯の移動をやめ、ブーストで浮きながらグレネードを撃ち始めるヴェンデッタスリー。
「行こうか」
<ユカリ>
『救援に、ですよね?』
「悪いけど、マリアちゃん達の方のね」
<マリア>
『その名前嫌いなのよ!』
<ユカリ>
『あなたの仲間なんですよね?
知り合いなんですよね、まさか知り合ったばかりだからとか言う理由で、』
「どんな悪い奴でも何もできない立場でただ味方に『死ね』って言うのは堪えるよね。
でも今がその時だし私はさっきそう言ったの」
どうせ顔は見えないから、ソラは静かに歯を食いしばる。
……だが、今誰かが『クズ』にならなければいけない。
そう、自分が。
「悪いけど、そのランカーさんを味方が押さえている間に、」
腕だけを後ろに向け、入口を守るMW一機にゲイルスケグルのハイレーザーを叩き込む。
「私たちが一刻も早く基地を制圧してミッションをクリアする。
死ぬかもしれない、今抑えているアズサちゃんの分まで報酬を確保しないといけないから」
<ユカリ>
『……報酬……金って、それこそ命あっての!』
「こんな汚い仕事選んでおいて、今更命あっての物種とか言う気!?
スワンは『物種あっての命』なんだよ!!」
正論は意味をなさない。
だってすべて間違いだらけの戦場だから。
「命を賭けて莫大な金を、次に生き残るため、目的のための物種を得る!!
あの腹立つランカーオバさんも、多分そう言う。
少なくとも私が見捨てる相手はそう言う。
会話は少ないけど、絶対にそう言うはず!
……じゃなきゃなんのために今戦ってんのさ!!
世のため人のため?あんな騙してくるようなシティーガードの守る街のため!?
違うでしょ…………
スワンは、金の為に常に戦っているんだ。
それがなきゃ、自分の夢もやりたいこともできないからさぁ!?」
ドンドン、と背後で戦闘音が響く。
<マリア>
『くだらない話終わったならとっとと来い!!』
「そうだね。演説することでもないよこんなの。
私たちに選択肢は無いんだ……!」
そう言ってソラは、ブルーカナリアを敵の基地へ向けて移動を始めさせる。
<ユカリ>
『………………間違っている。
でも……正しさを通せる実力は私にないか……』
ふと、繋ぎっぱなしの通信から声が聞こえて、フルメタルジャケットが、唐突に背部ミサイルを展開。
景気良くぶっ放し、入口から出ようとしたMWを爆散させる。
<ユカリ>
『……なんで私はこんなに……!
自分を通せる力が無いんだ……!!
クソ……クソ……今の私には砲台しか、出来ることが……!!』
ソラは、ユカリとの無線を切る。
泣いている声を聞いていたら、自分も泣きそうだから。
「泣いてる暇なんてない。会ったばかりの相手に感傷を持つ暇なんて…………
……死なないで、アズサちゃん」
ソラは、まだ反論できたはずの相手の無線を切る。
<アズサ>と書かれたウィンドウが閉じた。
***
「……と言うわけや。
貧乏くじ、すまんな」
通信は、アズサ達も把握していた。
ずっと流していたからだ。ご丁寧に相手もただ待っている。
<ブリジット>
『……地雷原生き残ってこれか』
<カスミ>
『……やるしか、ない……!』
<???>
『────まぁ逃さないのは事実だけど』
と、アズサ達に、赤い逆脚のeX-W────B-REXのパイロット、緋那・オーグリスから広域通信がくる。
「なんや、聞いとったんか。
あんた、待ってくれるあたり優しいんやな」
<???>→<緋那>
『やる気、ないけどお仕事だし、最終的に間に合えば良いんだよこんな仕事。
それに私の担当の被験者になるかもしれない相手だしね。
殺したりはしないよ、強化人間になる程度には怪我してもらうけど』
一瞬、何を言っているか分からなくなる3人。
B-REXが、静かにこちらに体を向けて、緋那がこう言う。
<緋那>
『悪い話じゃないでしょ?
地上はもう、ここと違って汚染だらけ。
いつかは汚染も消えて、私達が住める自然になるかもしれないけど、それまで人間は耐えられると思う?
私達オーグリス機関は、そんな環境を早く治すか、あるいはそんな環境に耐えられる人間を作るために活動しているの。
あなた達、強化人間にならない?』
「あんた……真面目に言ってるんか??
親から貰った身体捨てるってことやぞ?」
<緋那>
『お父さんと妹には怒られたよ。
でも私は後悔していないし、研究も結構進展した。
ふふ、ちょっとまだ腕とか人っぽさが足りないけど、強化プラスチックの光沢感ある手足も良いものだよ?
内臓だって今じゃ丸々残せる。私はだいぶ変えちゃったけど。
ちょっと血が白いけど、怪我した時の治りとか、死ににくさはこっちが上。
寿命は……ごめん、ちょっと神経負荷を減らすのを模索中。
今ならオーグリス機関製の合成食一年分付けちゃう……は完全に拷問だった。ごめん
まぁ、諸々の問題も10年後ぐらいにはきっとね。
それまで生きられる身体にはなるよ、どう?
強化人間になりなよ。
良い話だと思わない??』
まるで人の動きでeX-Wの腕が3人を指差す。
対して、カシャン、と持てる火器を向ける3機。
『『「ヤダ!!!」』』
<緋那>
『……残念』
「何が残念やねん。
まだ悪の秘密組織の手先の怪人にはなりたくないわ!
ちゅーか、それ面白いと思って言うとんのか?」
<緋那>
『こんな世界でスワンになっておいてよく言うよ。
お金?夢?退屈だけど世界一誰もが欲している日常を辞めたかった??
そんなスワンがいて良いような、こんな世界に生きておいて……人間のままの身体にこだわる意味あるの?
魂の場所は脳だと思っているの。
そこさえ侵害されなければ、弱すぎる身体にこだわる意味はないでしょ?
いらないよねぇ、人の身体なんて。
それで勝てるっていうんならさ?』
「おもろないでパイセン。
じゃあ死ねやァ!!」
ホームランタイガーの左腕のスラッグガン『SGM-80B』大粒のフレシェット弾を吐き出す。
<緋那>
『まぁこうなるよね……』
無数のフレシェット弾を、アサルトブースト2連続で避けるB-REX。
<ブリジット>
『堕ちろって言ってんのよ変態強化人間フェチィ!!!』
続け様に、全身のミサイルとありったけのガトリングを叩き込む。
<緋那>
『どうせ気の乗らない任務だし、悪役っぽいこと言ってみよっか。
ま、キャラじゃないって重々承知だけど』
対して緋那は冷静に、B-REX左腕部のアサルトライフルを向けて後退、
直前に迫るミサイルを撃ち落し、爆風に紛れてガトリングの斜線を逸らす。
<緋那>
『───真人間でいたいなら、切り抜けてみなよ。
この私を』
一瞬、爆風を突き破ってティラノサウルスが、
<緋那>
『──仮にも『傭兵』ならさァッ!?
やってみなよヒヨッコども!!!』
いや、プラズマキャノン『サングリーズル』を構えた赤い逆脚のeX-W、B-REXが現れる。
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