[短編版]PILOT GIRLs/EXCEED-WARRIOR

来賀 玲
来賀 玲

極秘ファイル:『お茶会』

公開日時: 2021年10月11日(月) 18:58
文字数:5,048

 3時間後、茨城エリア筑波山



『これが今度の被験者の子?』



 オーグリス機関、本部研究所敷地内



「資料によれば、元醜いアヒルの子だとか」



 特殊強化人間処置研究区画、



『夢破れたり、と言えるほど夢も見られなかった飛べなかったクチの子か』



 第四手術室。現在手術中。



「まぁ、私があちこち弄り回しチャージング〜、すれば生まれ変わりの最強強化人間ってな具合なのでした〜、ぐふふふ……


 しっかし、緋那吉ひなきちちゃんも随分とまぁド派手にやられちまいましたな〜??

 こりゃ、1週間は施術後も安静にしなければでいけんでござる〜」


 キュイキュイ、と白衣を着た上で、その『義手』と背部から『生えた』マニピュレーターを駆使して、生身と機械の身体を慎重に手術する一人のサイボーグ医師……いや技師というべきか?

 ともかく、側から見れば相当なレベルで異様で異形な風景の中、緋那・オーグリスは痛覚以外は遮断せずに酸素吸入機を加えうつ伏せのままその光景をカメラに接続した網膜投影映像として見ていた。


『新人相手にやられてちゃ、何も言い返せないね』


 当然この声も、肉声ではなく目の前のサイボーグ医師の脳内にのみ響く無線信号であった。


「ま、お陰でこの新型人工脊椎が移植できるから良いでしょうとも〜。

 ふふふ……幸か不幸か、『時間切れ』は大分伸びますなぁ……?」


『脳みそも修復できたら良いなって』


「いっそ、人格をデータ化するとかいう噂の研究も漁ってみる系?」


『データに移したり、異世界に転生したりした自分の人格ってさ、それは私と言えるのかな?』


「うわ哲学的ー。時間かかる話はパスしましょー、終わり!」


 手慣れた様子で傷を跡形もなく有機素材で縫合し、一応緋那の身体は元に戻る。


「寝る前に聞いておきますけどー、生身手足作っといて良い感じでつかなー?」


『……いや、なんか……嫌な予感もあるから、しばらくは戦闘サイボーグボディで』


「ねー?そりゃ生身の温かみ残すのも好きな私でござりまするがー、戦うなら壊れても換えが効くマシンボディが楽ですぞー?」


 いうやいなや、緋那の生身の血に濡れまくった手術用手脚を専用機械に差し込み、二の腕から引き抜き、同時に背中の手術用のマニピュレーター達も上から伸びたアームに掴まれて外される。


 手慣れた手つきで消毒ルームへ行きがてら、彼女の身体を守っていた汚れた手術着も取り外され、機械の部分がかなり多い『彼女』のサイボーグボディーが消毒ルームへ。


『いやさぁ、エキドナ…………


 てか毎回思うけど、『エキドナ・アンブレラ』って偽名にしたって凄く言い難くない?』



『神話で最も怪物を産んだ怪物と、好きなゲームの怪物ばっかり作っているヤバい企業で付けたらそうもなりますな〜♪』


 洗浄・消毒・乾燥、全てが自動に、そして人間相手には出来ないような方法と薬品で行われる。

 しかし彼女の魅惑の身体はサイボーグ。

 エキドナと名乗る医師は平気な顔で余計な水分が蒸発した体で消毒ルームを出て、上から伸びてきたアームで再び手術着と綺麗になった手術用増設マニピュレーターと消毒済みの換えの腕を装着した。


『化け物なのはそっちの神経接続適正だよ……eX-W乗っても強いんじゃない?』


「そういう乱暴な奴は緋那吉にお任せなりー。

 じゃ、1週間はカプセル生活だから気を付けてー?」


『……終わったら、レイダー研のデータから出来た無線神経接続操作試さないとね』


 ウィーンと音を立てて、緋那の身体は医療用カプセル内部へと収められていく。

 本人は今から強化手術を受ける自分と同じ戦場から運ばれた人間が気になるが……まぁその前に。





 暗い視界の中、目を閉じて早速脳に繋がった神経接続を通してネット回線へ。

 いつもの動画サイト、知り合いが書いている小説投稿サイトは開かずに…………





<秘匿回線:接続>


<暗号化開始 残り0……44……78……100%>


<ハンドルネーム表示開始>








<No.3>

『まだ生きているとは、さすが貴方というべきか』


<緋那>

『酷い言い方だね。死んだほうがよかったってこと?』



 通信相手は、相変わらず酷い名前と酷い発言だった。



<No.3>

『いずれは。貴女は強すぎる』


<緋那>

『隠そうともしないのか。酷いね、身体を張って依頼をこなしたのに』


<No.3>

『労いの言葉は考えてはいますが、我ながら嘘くさいので辞めておきます。

 しかし、結果には満足していますよ?

 報酬は、テロリストが本来払う分は振り込んでおきます』


<緋那>

『……やっぱ、実務的な方が私は好きだね。

 そっちの目的と相入れないわけじゃないし』


<No.3>

『強すぎなければ、こうはならなかったかも知れませんがね。

 まぁ、結果が変わらない議論はもっと暇な時にしましょう。


 ……緋那・オーグリスさん。ランク13。

 今回の『一次選定』の結果に関して、意見があれば聞いておきたい』



 一次選定。

 その言葉の『真の意味』を知る緋那は、見えないところで口の端を曲げておく。



<緋那>

『豊作というべきか、私にやる気が無くて思ったより生き残ったって言うべきか。


 いや、やっぱりはっきり言うか。

 ────生き残りが資料の候補とは全然違う辺りに本物、って言う感覚を覚えたよ』



 通信の相手は、しばし無言だった。

 意味深な、無言だった。


<緋那>

『……ともかく、あのクソ女も慌てて出てきたぐらいなんでしょ?

 そっちの慌て具合も良くわかるよ。


 まさしく、普段から言っているモノじゃない?



 ────『例外イレギュラー』。



 良い言葉だよね?私はこの表現大好き』



 再び相手は無言だった。

 …………ただ、しかめっつらが見えるような気分の良い緋那だった。


<No.3>

『……不確定要素が大きすぎる。

 我々にプランにも修正が必要です』


<緋那>

『大変だね』


<No.3>

『力を持ちすぎる物は秩序を破壊する。

 それは武力であったり、その時代には早すぎる叡智や異常な才能……


 あなたもその一人だ、緋那・オーグリス』


<緋那>

『そっか。正直嬉しい評価だね。

 強化人間としての才能を一番認めてくれてるのは、邪魔だと思ってるそっちだなんて。

 こう言うのを、皮肉っていうのか……良いね』


<No.3>

『いずれ終わりが来るから見逃している事を忘れないでくださいね。


 終わりを無くすような事があるなら、『終わりそのもの』である私が直接出向くのでそのつもりで』


<緋那>

『うん。そのときは存分にケリを付けようじゃないか。

 それまでは、『お友達』でいようよ』



 そして、緋那は通信の最後に皮肉を込めてこう締めくくった。



<緋那>

『そろそろおやすみ。


 ───『管理者』サマ?』



<通信切断>





           ***



 ???



「まさか、わざと多く選別したんじゃ無いんですよね、No.9?」


 どこか暗い場所。


 No.9と呼ばれてふと影から現れたのは……フォルナ・ミグラントその人だった。


「No.3、私がこと『試験』と呼ぶもので手加減をするとでも?

 今回は、とりわけ『最高難易度』。

 いや、明確なまでの『初見殺し』を見繕ったつもりですよ?」


 そして、No.3と呼ばれた何者かの質問に対してそうハッキリと答えた。


「No.9、その初見殺しを9人……いや正確には選定には落ちた物を含めて10人生き残った事はどういう考えを持つ?」


 また別の人物が、どこかからそう質問を続ける。


「No.2、もちろんNo.3とも同じ考えですよ。

 異常事態です。あらゆる面から生き残った面々の例外度を測らなければ行けないでしょう」


「先に『例外イレギュラー』達を殺すことも考えておくべきでは?」


「血気盛んすぎませんか、No.3?」


「あなたが見つけた者達だけの話でもないのです。

 つまりは、悠長だと言っているのです、No.9」


「辞めませんか二人とも?

 これでは、秩序を守るべき我々が仲間割れをしているようではありませんか」


 ふと、また別の人物がそう言い合いを始めそうだった二人を諌める。


「……No.7の言う通りですね。

 まず、我々の考えるべきはどう秩序を維持すべきかを考えるべきです」


「…………そろそろ『企業』達もガス抜きが必要だろう。

 No.2ユニットとして、武装規制緩和の為に両陣営の大規模侵攻イベントを提案する」


「あらあら、非戦派のあなたがその提案をですかNo.2?」


「むしろ、非戦派だからこそ絶滅戦争や大規模な分断をおこす前に、ガス抜きをしなければいけないと感じているんだ、No.9。


 悪いが、いつも通り……」


「ええ、No.2。そのための中立勢力ぜんいんのてきですから。

 発端は、あなたの所のバーンズアーマメンツが?」


「ああ……No.7。そちらのレイシュトローム陣営にはそれとなく情報を流して便乗しそうな辺境伯を焚き付けて欲しい」


「ええ……良いですけどもNo.2、やはり良い気分ではありません。

 人はなぜ争いを辞められないのでしょう……」


「No.7。傷つけるようで申し訳ないですが、この薄汚れた世界を生み出すような人間が、簡単に例外を生み出す生き物が、自ら争いを手放すはずがありません。

 あなたの守りたい争いを好まない人種を守る為にも、争ってばかりの『例外』は囲ってお互い自滅するまで争っておかせた方がいい。

 ……結果、蠱毒が産まれたのなら、私が必ず排除します」


「……No.3、あなたは……誰よりも人を思っているのですね」


「…………可能性を認めて、いらない例外を排除する事が使命なだけです。

 人間には良い悪いを抜きにして、可能性が必ず存在するのだから……」


「そして、見つけてどの程度有益かを私ことNo.9ユニットが探し出す。

 危険度を決めておかなければ対処を間違うでしょうしね」


「最近はさっさと殺した方が良いぐらいに例外を多く選定しているようですがね、No.9」


「オイ、蒸し返すなNo.3……」





「…………フッ」



 ふと、今まで黙っていた5人目の人物が笑い出す。


「……No.1。どうした?」


「…………先程に緋那・オーグリスの言葉が、じわじわとツボにハマりまして……


 『管理者』。


 我々には明確な名前は無かったのですけど、これほどシンプルでその通りな物はないなと思いましてね」


 そのNo.1と呼ばれた人物は、そう笑って言う。


「……我々は、

を持って、そう文字通り『管理者』として不完全な秩序を守っている」


「No.1!」


「怒るのも無理はないが聞いてくださいNo.3。

 そもそも、本来保障される人権を取り上げてまで争いの理由という『例外』を認定して排除し、停滞による秩序を選んでいる。

 国や人種という自然と集まり生み出される区分を破壊して、利益と欲望に塗れた企業という枠組みの中で人が生きるよう調整して、平和な世界を捨て去ってまで争いを繰り返す日常を送る秩序を、



 恐らく有史以来史上最低の手段と形の秩序を保って、

 これが人類の最適解だと嘯いているのが我々なんです」



「───元より我々が始めた事でしょう!?

 No.1!!」



「その通りですよ、No.3。

 結局これ以外で人類は生き残れなかった。

 生き残れなかったんですよNo.3」



 あまりの言い方に怒号を発したNo.3に、冷徹な声でそう答えるNo.1。




「我々『管理者』システムは史上最悪の秩序の体系だが、それ以外は全てが無意味だ。

 民主主義も社会主義もリベラルも何もかもが失敗し、その結果が最終戦争。


 No.3、貴女は先程人類の可能性を謳い、No.9貴女は有益かどうかを言いましたね?



 そもそも人類種という下等生命体に可能性など存在しない。


 有益というのも、数多のゴミの中でまだリサイクルできる物を見つけるような物です」



 暗闇で見えないが、その暗闇ですら明るく見えるほど、No.1の目は暗く、淀んで濁っていた。


「我々は、そんなどうしようもないクズを、それでも生かしておくために生み出されたんですよ。


 我々が人類をどれだけ嫌っていても、諦めていても我々を生み出したのは、そのクズ人類なのだから……


 見捨てる選択肢はできない。

 たとえ未来になっているのが破滅でも、

 我々が管理しなければ、破滅よりもなお最悪の未来は確実なのだから……」


 皆、黙ってそのNo.1の言葉を聞いていた。

 …………皆痛いほど意味を理解して。




「…………我々は、世界の『管理者』」



 やがて、No.1はそう言葉を紡ぐ。



「我々が存在し続ける限りは、永遠に『予定通り』の世界を続けなければいけない。


 そこには、我々の存在の未来ですら、


 『例外』など、存在してはならない。


 そうでしょう?同志、『管理者ユニット』達?」



 暗く澱んだ目でそう言うNo.1。

 やがて、クククと言う笑い声が暗い空間にただ響いていくのであった。






「さぁ、続けましょう。


 『全てが予定通り』の世界の管理を」





          ***

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