一方地上。
マグマワームが恵美を追い回しているその頃、ネアは歌麿と共に、マグマワームから飛来する溶岩や火の粉を払っていた。
「おおおっ! 見事な空中移動でございますなぁ! ネア殿! あれは盗賊特有の技能でございますかな?!」
「いや、あの技は俺も初めて見る」
「あの跳ね方はトランポリンを思い出しますな!」
「クラブでシシがよく使っている道具だ。……もしかすると、それを参考にしてるのかもしれないな」
軽口を叩く二人の手は、今なお飛来物を叩き落すことに集中している。
彼らの背後には魔法を発動するため、準備をしている陽夏がいる。
回避行動、あるいは隠匿行動を得意とする盗賊よりも。
近接戦闘に特化した格闘家の立ち位置にいる修道僧よりも。
今、この場で目の前の敵を倒すのに最も優れた力を持つのは、水魔法に適性のある魔法使い、陽夏であることを、二人はよく理解していた。
「お嬢さんに手を貸せないことが無念でございます!」
「メグなら、きっと問題ない」
何度目かになるか分からない、飛来した溶岩を叩き落しながら言い切るネアの目には、恵美に対する信頼が宿っていた。
その光を横目に見た歌麿は、「ですな!」と力強く頷き、自身に与えられた役目を全うする。
即ち、水魔法が発動されるまでの間、陽夏の詠唱を途切れさせないように護衛するという役目を。
「……万物に宿る水たちよ。空気に運ばれ我が手に集え」
彼らの背後にいる陽夏は、空気中に集う水素、即ち水の素を集める呪文を唱えている。
それらはいつかの試験のときのように、ぶつかっては弾け、合わさり、またぶつかっては合わさっていき、ひとつの大きな水球を形作っていく。
しかし。
(くっそ、水の集まりが悪い。いつもより遅い。……暑いからか)
どの魔法もそうだが、水魔法にもいくつか欠点があった。
そのうちのひとつが、周囲に水の素となる水素が少ない時、魔法発動までに時間がかかる、というものだ。
今回のマグマワーム然り、砂漠フィールド然り。乾燥しやすい場所になればなるほど、水魔法の攻撃速度は遅くなっていく。
だからこそ。
(一発で決めなきゃならんね。もう少し、もう少し大きな水球を……!)
陽夏は彼女に火の粉が降りかからないよう、必死に払っている男たちの背中を見る。
その上空では彼女の友人、恵美が、彼女の魔法発動を信じて、あのマグマワームから逃げ回っている。
(トチるわけにゃ、いかんね)
覚悟を決めたように、彼女はキッと上を向く。
視線の先には、マグマワーム。
それは体勢を立て直し、空中をちょこまかと逃げ惑う恵美を再び狙おうと、釜首を擡げて鞭のようにしなる準備に入っている。
(させるか!)
陽夏の感情に呼応するように、一回り、二回り。さらに水球が肥大化する。
「行くよ!」
陽夏のGOサイン。
彼女を守っていた男二人は、息の合った動きで左右に捌けていく。
彼女の目の前に道ができる。
彼女は丹精込めて作り上げた水球を、マグマワームの頭上に撃ち出した。
「吹き荒れろ! 『暴力雨』!」
マグマワームの頭上、撃ち出された大きな水球は、陽夏の声によって風船のように割れる。
割れた水はゲリラ豪雨など目ではない程激しく、まるで大滝のようにマグマワームへ降りかかる。
その一筋一筋は矢のように鋭く尖り、マグマワームの躯体を貫いていく。
「―――!!」
断末魔、と評すればいいだろうか。
地の底から響く地響きのような音を腹の底から響かせるマグマワーム。
彼、あるいは彼女は、叫び声を残し、自身の形を保ったまま、溶岩へと変貌していった。
「……」
「……どうなった?」
「分かりませぬ。お嬢さん! マグマワームの討伐は如何に?!」
歌麿が空中に未だ滞在している恵美へと声をかける。
彼女は片手を上げ、彼の声に答えつつ、マグマワームの頭上へと移動する。
しばらくの静止。対象物に対して鑑定でも使っているかのような挙動。
やがて彼女は、地上にいる三人に対して、両腕で丸印を作った。
「マグマワーム撃破!」
地上から三つの歓声が上がった。
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