「陽夏! 正面左、三枚目からレーザー! 黄色!」
「おっけい!」
まだ割れていない鏡から黄色のレーザー光線が発射される。
射線上にいた陽夏は、いち早く横に避け、その攻撃を防ぐ。
「赤色来るぞ! 入り口側すぐ右だ!」
「伏せるのですぞ!」
ネアの索敵結果に、歌麿さんが叫ぶ。
私たちは地面に寝転がるようにして伏せると、そのすぐ頭上を、赤色のレーザーが通過する。
「反射が終わるまで待て!」
ネアの注意喚起に、じっと身を固くして時を待つ。
赤色のレーザーは、正面の鏡へ行きあたり、反射して別の鏡へ射線を広げていく。
そうして鏡の割れた岩壁に到達するまでの間、ずっとそのレーザー光線は反射を繰り返し、私たちを焦がさんとばかりに居座っている。
「岩壁到達! 消滅カウントダウン、3、2、1、今!」
しばらく戦って分かったことがふたつある。
一つ目は、黄色のレーザー線は直線のみの攻撃だが、当たればとんでもない貫通力で以て、私たちを屠るだろうと予測できる威力があること。
鏡に吸い込まれていく分には威力が分からなかったが、岩壁に当たってようやく、その威力を知ることができた。
黄色のレーザーに当たった岩壁は、広範囲を焦がしながら、直線に抉れていたのだ。
あれが人体に当たって起こりうることなど、考えたくもない。
二つ目は、赤色のレーザーは鏡の間を反射して回るということ。
反射する鏡がある間は、ずっとレーザーの射線が残る。
しかし、その反射も、受け止める鏡がない場合は消滅するらしく、岩壁に到達してからきっかり三秒後に消えて無くなるのだ。
物理的な威力はないのかどうなのか、到達した岩壁に変化はなかった。
確かめるために当たりに行く気も起きないけれど。
(攻撃は今のところ二種類確認。赤いレーザーはどういうものなのか不明。鏡を全部無くしてしまえば、赤いレーザーの攻撃は無くなる、はず)
再び黄色のレーザー。
私は射線上のネアに声を飛ばす。
「黄色レーザー! ネア、横に!」
「了解!」
射線の横に飛び退る。
一秒遅れて発射された黄色のレーザーは、岩壁を貫いて消えていく。
「鏡! あと三枚!」
「陽夏嬢! 一枚ずつやりますぞ!」
「分かってる!」
矢を作り出すために呪文を唱えだす陽夏。
その背後では歌麿さんが鏡を一枚、ごつめの拳で殴り砕いている。
そんな彼らを狙うかのように。
ノーマークだった鏡から、赤色の光が点滅する。
射線上には。
「陽夏っ! 避けて!」
「『水の矢』!!」
水でできた矢が放たれ、鏡を粉々に砕くとほぼ同時。
「陽夏!!」
赤色のレーザー光線が、陽夏の背中を貫いた。
「陽夏、陽夏ッ!」
「陽夏嬢!」
呻き声を上げて倒れ伏した陽夏に駆け寄り、身体を揺らす。
見たところ、血のようなものは見えない。
貫かれたと思った背中も、綺麗なものだ。
着ているローブに穴ひとつ見当たらない。
陽夏自身も、苦しそうに呻き声を上げているだけで、その身体自体は綺麗なままだ。
(どういうこと……?)
そんな疑問を抱く思考は、鏡の割れる硬い破壊音で現実に引き戻される。
音のする方に意識を向けると、どうやらネアが残った鏡を割ったらしい。
「ふたりとも! 離れろ!」
「え、ネア?」
「そういうことでございますか!」
考えの追い付かない私と対照的に、歌麿さんはさっさと陽夏から離れて構えを取る。
対する私は、未だに状況を理解できていない。
「メグ! 離れろ! 早く!」
「ど、どういう……」
答えを聞くより早く、呻き声がひと際大きくなった陽夏が立ちあがる。
「―――!!」
それは咆哮。
聞いたことの無い陽夏の声に竦み上がる私に、陽夏は杖を向けてきた。
「陽……夏……?」
呆然とする。
私はおろかにも、陽夏が向けてくる杖の前に顔面を晒している。
陽夏の怒りに染まった瞳が、真っ赤な色をしている。
この時点で、普段の陽夏ではないということに、気が付くべきだったのだ。
「『水球』!」
水球に包まれる私の顔。
水の屈折で歪む私の視界の端に見えたのは、醜悪な顔で笑みを浮かべた、二足歩行するバクの化け物だった。
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