魔法のシロップ屋さん

シロップ屋さんのポーションは飲みやすいと評判です
宇波
宇波

辰砂ジンジャー辛苦味 16

公開日時: 2022年5月29日(日) 06:00
文字数:1,616

「陽夏! 正面左、三枚目からレーザー! 黄色!」

「おっけい!」


 まだ割れていない鏡から黄色のレーザー光線が発射される。

射線上にいた陽夏は、いち早く横に避け、その攻撃を防ぐ。


「赤色来るぞ! 入り口側すぐ右だ!」

「伏せるのですぞ!」


 ネアの索敵結果に、歌麿さんが叫ぶ。

私たちは地面に寝転がるようにして伏せると、そのすぐ頭上を、赤色のレーザーが通過する。


「反射が終わるまで待て!」


 ネアの注意喚起に、じっと身を固くして時を待つ。

赤色のレーザーは、正面の鏡へ行きあたり、反射して別の鏡へ射線を広げていく。

そうして鏡の割れた岩壁に到達するまでの間、ずっとそのレーザー光線は反射を繰り返し、私たちを焦がさんとばかりに居座っている。


「岩壁到達! 消滅カウントダウン、3、2、1、今!」


 しばらく戦って分かったことがふたつある。

一つ目は、黄色のレーザー線は直線のみの攻撃だが、当たればとんでもない貫通力で以て、私たちを屠るだろうと予測できる威力があること。

鏡に吸い込まれていく分には威力が分からなかったが、岩壁に当たってようやく、その威力を知ることができた。

黄色のレーザーに当たった岩壁は、広範囲を焦がしながら、直線に抉れていたのだ。

あれが人体に当たって起こりうることなど、考えたくもない。


 二つ目は、赤色のレーザーは鏡の間を反射して回るということ。

反射する鏡がある間は、ずっとレーザーの射線が残る。

しかし、その反射も、受け止める鏡がない場合は消滅するらしく、岩壁に到達してからきっかり三秒後に消えて無くなるのだ。

物理的な威力はないのかどうなのか、到達した岩壁に変化はなかった。

確かめるために当たりに行く気も起きないけれど。


(攻撃は今のところ二種類確認。赤いレーザーはどういうものなのか不明。鏡を全部無くしてしまえば、赤いレーザーの攻撃は無くなる、はず)


 再び黄色のレーザー。

私は射線上のネアに声を飛ばす。


「黄色レーザー! ネア、横に!」

「了解!」


 射線の横に飛び退る。

一秒遅れて発射された黄色のレーザーは、岩壁を貫いて消えていく。


「鏡! あと三枚!」

「陽夏嬢! 一枚ずつやりますぞ!」

「分かってる!」


 矢を作り出すために呪文を唱えだす陽夏。

その背後では歌麿さんが鏡を一枚、ごつめの拳で殴り砕いている。


 そんな彼らを狙うかのように。

ノーマークだった鏡から、赤色の光が点滅する。

射線上には。


「陽夏っ! 避けて!」

「『水の矢ウォーター・アロー』!!」


 水でできた矢が放たれ、鏡を粉々に砕くとほぼ同時。


「陽夏!!」


 赤色のレーザー光線が、陽夏の背中を貫いた。


「陽夏、陽夏ッ!」

「陽夏嬢!」


 呻き声を上げて倒れ伏した陽夏に駆け寄り、身体を揺らす。

見たところ、血のようなものは見えない。

貫かれたと思った背中も、綺麗なものだ。

着ているローブに穴ひとつ見当たらない。

陽夏自身も、苦しそうに呻き声を上げているだけで、その身体自体は綺麗なままだ。


(どういうこと……?)


 そんな疑問を抱く思考は、鏡の割れる硬い破壊音で現実に引き戻される。

音のする方に意識を向けると、どうやらネアが残った鏡を割ったらしい。


「ふたりとも! 離れろ!」

「え、ネア?」

「そういうことでございますか!」


 考えの追い付かない私と対照的に、歌麿さんはさっさと陽夏から離れて構えを取る。

対する私は、未だに状況を理解できていない。


「メグ! 離れろ! 早く!」

「ど、どういう……」


 答えを聞くより早く、呻き声がひと際大きくなった陽夏が立ちあがる。


「―――!!」


 それは咆哮。

聞いたことの無い陽夏の声に竦み上がる私に、陽夏は杖を向けてきた。


「陽……夏……?」


 呆然とする。

私はおろかにも、陽夏が向けてくる杖の前に顔面を晒している。

陽夏の怒りに染まった瞳が、真っ赤な色をしている。

この時点で、普段の陽夏ではないということに、気が付くべきだったのだ。


「『水球ウォーターボール』!」


 水球に包まれる私の顔。

水の屈折で歪む私の視界の端に見えたのは、醜悪な顔で笑みを浮かべた、二足歩行するバクの化け物だった。

読み終わったら、ポイントを付けましょう!

ツイート