「おはようございます! ミコトさんは……」
「おはようメェちゃん。ミコトはまだ来てないよ」
ダンジョンに向かう直前。
待ち合わせていたネアの携帯に届いた一通のメール。
それは今回の依頼主であるミコトさんからで。
『今日の依頼で助っ人を呼んだから、ダンジョン前で待ち合わせてほしい』というもの。
何か不明点があればパルクールクラブにいるから聞きに来てほしい、そう付け足された文面を見て、ネアと二人、慣れた道を辿りクラブへとやって来た訳なのだが。
「ミコトさん、クラブにいるって言ってたのに……」
「時間もまだ早いからな。もう少し待とう」
ネアが自販機で缶コーヒーを二本買う。
「こっち、メグの」
「ありがとう。……つめたっ」
「冷えてるのは好きじゃなかったか?」
「ううん、飲めるよ。ただ、そろそろ秋なんだなって」
冷えた缶コーヒーは手に冷たく、それが心地いいとは思えない気温になったなと、しみじみ感じ入る。
「次からはあったかいのにするか」
「ううん、多分まだあったかいのは熱すぎると思う」
「微妙な気温だからな……」
「つめたーいとあったかーいの間の、ぬるーい缶コーヒー、発売されないかな」
「それはおいしさ的にどうなんだ……?」
そんなくだらない話を続けていると、隣にシシさんがやってくる。
「俺も話にまぜてー」
「あ、シシさん」
「……お前が聞いてもどうしようもない話ばかりだと思うが?」
「うわ、ネアつめてー。この缶コーヒーくらい冷てぇなー」
メェちゃんなぐさめてー。なんて、ウソ泣きをしながら肩に頭を寄せてくるシシさんを、ネアが片手で押し返す。
彼はぷう、と頬を膨らませてネアに文句を言う。
「束縛男は嫌われるぞー」
「嫌わっ……?!」
何かにショックを受けたように固まるネア。
それを見ながらなおも揶揄うシシさん。
そうしているうちに、扉を開けて入ってきたのはミコトさん。
「……なにしとるん」
呆れの入った視線で、男二人の戯れを見下ろすミコトさんの手元には、ビニール袋が下がっている。
私はふたりの間から抜け出し、彼のもとへ近付いた。
「どこか買い物でも行ってきたんですか?」
「そうやよ。クラブで使うスポーツドリンクの粉末とか、備品の補充をな。……ほして、あいつらは何してるん?」
「なんか、戯れだしました。束縛がなんちゃらとかって」
「ほうか」
ミコトさんは呆れた視線を隠さずにビニール袋を提げていない方の手を腰に当てる。
「ほして、メグはなしてここに?」
「あ、はい! 今日の依頼について聞きたいことがあって」
「わしに聞きたいこと?」
何か伝え忘れたことがあったかな。そんな表情でミコトさんは首を傾げる。
背後では悪口なのか、何なのか。
ネアの「このライオン風情が」なんて言葉と、「残念でしたー。俺のシシはシシトウですぅ」と、アンタそれでいいのかとツッコミが入りそうなシシさんの言葉の応酬が飛び交っている。
何を話しているのかむしろ気になる。
そんな邪念を振り払い、ミコトさんの方へと意識を向け直す。
「今日、ネアに来ていた助っ人さんがどういう人なのか、詳細を聞いていなくて」
ミコトさんは、今思い出したという風に手をひとつ叩く。
「すまんな、伝えるの、忘れとったよ」
彼はどこから話そうかと悩む素振りを見せ、まずひとつ、と言葉に出す。
「あいつはわしの再従弟や」
「はとこ」
「そいで、ボディビルにハマっとる」
「ボディビル……」
この時点でピンと来た気がしないでもないが、もしかすると違う人かもしれない。
そう思い、彼に質問を投げかけた。
「その人のジョブってなんですか?」
失念していた、と言いたげに、彼はああ、と声を漏らす。
「そうやね、たしかにジョブについては言うてなかったな。本人は修道僧やって言うとったよ」
「修道僧……?」
読み終わったら、ポイントを付けましょう!