「メグー!」
「陽夏ー!」
空中魔力トランポリンを三つ、階段状に展開し、地面へ危なげなく降り立ってすぐ。
陽夏が両手を広げて真っ先に駆け寄って来るから、私も両手を広げて待ち構える。
それほど時間の経たないうちに、陽夏が飛び込んでくる、予想通りの衝撃。
飛び込んできた勢いのまま、私たちはくるりと一周、その場で回る。
「メグ、すごいじゃん! 空を飛んでた!」
「陽夏こそ! あの水球、試験の時よりも大きかったのに! よく魔力切れにならなかったね?」
「魔力はまだまだ有り余ってるぜぃ」
「すごいよ」
きゃっきゃと再会を喜んでいる私たち。
遅れて、歌麿さんが。最後にネアが、集まってきた。
「おふたりとも、見事でございましたぞ! 陽夏嬢は素晴らしく潤沢な魔力をお持ちのようで! ワタクシ、感服いたしましたぞ!」
「よせよ、照れるやい」
お茶らけて鼻の下を擦る陽夏と、心底感激したという風に目を輝かせている歌麿さん。
私は近付いてきたネアに対して、問いかける。
「魔力の量って、見えるの?」
「どうなんだろうな、聞いたことは無いが……」
恐らく、陽夏の水球の大きさを見て推し量っているのかもしれない。
その返答に、納得の意を示す。
「なるほど」
「メグもすごかった。どうやってあれをやったんだ?」
「あれ? ……ああ、足場だね」
「足場?」
「うん。魔力を足から外に出して、簡易的な足場を作って、それを使って移動してみたの」
うまくできてた?
そう問いかけをして見上げると、ネアが不器用に頭を撫でてくる。
「ああ。随分と魔力の扱い方が上達したな」
「……えへへ」
ネアに褒められて悪い気はしない。
だらしなく頬を緩ませる私に対し、ネアはピリッと、気を引き締めた表情を浮かべ前を向く。
「……さあ、ボスは目の前だ」
その声に釣られ、ネアと同じ方向を向く。
目の前と言うほど近くではないが、少なくとも視認できる範囲にそれはあった。
古びた茶色の、巨大な扉。
アーチを描くその扉は、きっと木製。
あの先にボスが。
ボスと戦うという現実が目の前に迫り、私は喉を鳴らす。
「……行くぞ。準備はいいな」
「もちろん」
一歩、歩みを進める。
背後から足早に歩いてきた陽夏が隣に並ぶ。
そのさらに隣に歌麿さん。
アベンジャーズ的な横並びで、私たちはボス部屋の扉を押した。
「……鏡?」
扉を開けてすぐ。
目に入ってくるのは、壁一面に張り巡らされた鏡。
それは土壁を埋め尽くさんばかりに大きく、広く、そして大量に、部屋の中に存在している。
「えっ、きゃあっ!」
突然、部屋の中から見えない力で胸倉を引っ張られる。
抵抗する間もないまま引きずられた私は、部屋の中に倒れ込む。
同じく部屋の中に倒れ込んだ陽夏を、歌麿さんが支える。
「大丈夫ですかな?」
「あ、さんきゅ……」
しどろもどろになりながらお礼を言う陽夏の真横。
一枚の鏡に、光る点が見えた。
「伏せて!」
「ぬっ!」
「え、うわっ!」
叫び声を受けて咄嗟に動いたのは歌麿さん。
陽夏は地面と歌麿さんに挟み込まれる形となる。
しかし、それに何かを言うよりも先に、鏡から一筋の光が直線的に発射される。
「レーザー光線かよ!」
「陽夏、そのまま伏せてて!」
黄色に染まったレーザー光線の真下を潜り抜け、鏡の手前まで走る。
鏡の手前に飛び込むと同時、腰から引き抜いたダガーを思い切り打ち付ける。
「鏡割れた!」
きらきらと破片が舞う。
その鏡の向こう側は、見慣れた岩壁だった。
「どういうこと……?」
割れた鏡の向こう側から攻撃を仕掛けているのではなかったのか。
頭の中に疑問が浮かび、一瞬、動きが止まってしまった。
「キキキキキ!」
甲高い、不快な笑い声。
それは割れた鏡の反対側、さっきの黄色いレーザー光線が吸い込まれていった鏡から発されている。
(まずい)
チリ、と小さな音が鳴る事前動作。
レーザが発射されたのは、そのすぐ後。
「!!」
悪手だと理解している。
しかし咄嗟のことに、私は目を瞑ってしまった。
そんな私の身体が、強い衝撃を受けて地面に転がる。
地面に転がった時の摩擦で肌が熱い。手が擦れた。痛い。でも、それだけ。
貫かれたような痛みは感じず、恐る恐る目を開ける。
「……ネア!」
「ぼーっとするな!」
ネアに怒鳴られる。
どうやら硬直した私の身体を、彼が突き飛ばしたらしい。
「ごめっ」
謝ろうとする私を目で制す。
ネアは、歌麿さんと陽夏に視線を向ける。
「こいつは『ナイトメア・ミラー』だ。鏡の中から攻撃をしてくる。鏡をすべて割って、本体を引き摺りだすぞ!」
「分かりましたぞ!」
「りょーうかいっ!」
さっと体勢を立て直すふたり。
歌麿さんは近くの鏡へと駆け寄っていき……。
「むぅんっ!」
渾身のボディータックルで、その鏡を粉々に砕いた。
一方陽夏は、杖を正面に向け、小さな水球を作り出している。
「貫け! 『水の矢』!」
それは矢の形へと変貌し、ここから一番離れている真正面、部屋の奥にある鏡を割った。
「メグ、立て」
ネアの指示。
私はさっと立ち上がり、警戒態勢を取る。
「俺たちはどこから攻撃が来るかを索敵で探し、いち早く周囲に伝えるぞ。これは俺たちにしかできないことだ」
「……うん!」
「よし。……ここから巻き返すぞ!」
ボス部屋の中、それぞれの返事が重なって響いた。
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