「さすがにそれは……」
「ウチら、しないしぃ」
陽夏と二人、姉にあらぬ心配をかけていることに膨れる。
「確かに今までのポーションはまずいし、できれば飲みたくないけど。でも、このポーションが無かったら飲むよ。死にたくないもん」
あら、そう? なんて、姉は悪戯っぽく笑う。
「ふふ、信じていないわけじゃないのよ。でも、できればふたりには、できるだけ安全に行ってきてほしいの。だから、懸念事項は取り除いておきたいのね」
姉はメモ帳に『モモ』と大きく書いて、モモ級回復ポーションをしまっている箱に貼る。
ひとまずこれで、家の中であればうっかり間違えることも無くなりそうだ。
「……まあ、発明者はカナタさんだし。カナタさんの好きにすればいいと思う」
「そう、だね。うん、おねえちゃんに権利があるんだもんね」
「恵美、陽夏ちゃん。ありがとうね」
姉はモモ級回復ポーションを一通り整理し終わると、モモ薬湯の原液が入ったまま、そのままにしてある鍋のもとへ向かう。
外を見れば、いつの間にやら真っ暗闇になっている。
「どうしよう、だいぶ集中してたみたい」
「うわ、ほんとだ。暗」
「あら、どうしましょう。陽夏ちゃん、お父さんかお母さんに電話した?」
「いけね。してないや」
陽夏は舌を出し、携帯を取り出す。
「ちょっち待っててー」
そう言いながら、家の裏口を開け、外に出る。
閉められた扉の向こうで話す会話の、内容は聞こえてこない。
「やっちゃった。おねえちゃん、どうしよう」
姉は無言で首を振る。
「どうしようもないわ。あとで、ちゃんと謝りましょう」
「はぁい……」
私は項垂れ、陽夏の結果を待つ。
しばらく待っていると、通話が終わったのか、裏口から陽夏が戻ってきた。
「すこーし怒られちった」
「やっぱり。陽夏、ごめんね」
「いやいや、気付かなかったウチも悪いし。そもそも怒られたってのも、夕飯どうするかの連絡がなかったことに対してだから!」
気を遣って言ってくれているのか、それとも本当のことか。
私には分からなかった。
「ごめんなさいね。わたしも気が付けばよかったわ」
「いや、本当に遅くなったことに対しては気にしてないみたいだったから」
「そう言ってもらえて嬉しいわ。もう遅いし、恵美、送ってってあげて」
「はーい」
非常用に常備してある懐中電灯を手に取る。
陽夏は今日使ったリュックの中身を確認している。
「お待たせ、こっちは大丈夫」
「こっちはまだー。もうちょっと待って」
リュックの中身を再度確認している陽夏は、不審そうに首を傾げている。
「あれ? っかしーなー」
「陽夏、どうしたの?」
「合格の通知書、どこやったっけ」
陽夏と一緒になって探す。
なかなか見つからなくて、少し焦った頃。
灯台下暗しと言うべきか、陽夏が使っていた椅子の上に置かれているのを見つけた。
「陽夏、あったよ」
「マジ? あんがと、どこにあったん?」
「陽夏が座ってた椅子の上」
「マジなんでそこに置いたん、ウチ……」
陽夏は幾分ほっとした顔で、通知書の中身を確認する。
うっかり間違えたとしても、家は近いからすぐに交換しに行けるだろうに。
「そういえば、陽夏、但し書きあったって言ってたけど」
「言ったね」
「なんて書いてあったの?」
もう一度、陽夏は通知書の中身を見る。
「魔法使い協会で、魔力コントロール講座を受けて、講義内の試験に合格すればダンジョン入りを認めるってさ」
陽夏は心底イヤそうに、うぇ、と顔を顰める。
私もつられて、眉を顰めてしまう。
「心中お察しします」
「まったくだよ」
ため息を吐いた陽夏は携帯を開き、その場で魔法使い協会にアクセスをする。
「必要なもんは探索者証明書。それから、自分の武器があればそれも、か」
「探索者証明書の発行、もう一回探索者協会に行かないといけないのかな」
「んー……。いや、そうでもないっぽい」
「え? インターネット手続きで郵送とか?」
「そうじゃなくて、ジョブのこういう講義を一回でも受ければ、その場支払いで証明書を発行してくれるみたいよ」
ただし合格通知書を持って行かないといけない、なんて注意点はあるらしいが。
「へぇ、そうだったんだ」
「メグのやつにも同じこと書いてるはずだけどー?」
じとーっと胡乱な目を向けられる。
誤魔化すように頬を掻き、そっぽを向く。
「まだ見てなくて……」
ごめんなさい。
私は素直に謝った。
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