ダンジョンでのモンスターコア収集を終えてたニーナ一行は、都市のパトロール中、闇組織による襲撃を受けていたモンスターコア加工貿易製品工場に救援に来ていた。
人をブレードで切り裂いて、パルスガンで風穴を開けて、全身に備え付けられた小型ブースターと高出力ジェネレーターを活かした高機動で敵を次々と倒していった。
「───排除、完了」
襲撃者の頭を引き千切り、踏み潰す。最後の一人を倒したことで、ニーナ・ゼクスは息を吸い息を吐く。短い間での呼吸の繰り返し、水分を補給する。
肉体に籠った熱を排気して冷却期間によって体が落ち着きを取り戻していく。機械の駆動の音は遠くなる。一際大きく息を吸い、そしてゆっくりと吐いた。
「お疲れ様、ニーナ! やー参るなぁ、なんと被害は無し! 君の活躍で、四度目の襲撃は未然に抑えられたよ!」
「いやいや、一人では流石に。アンジェさんやテレジアさん達の協力があってこそですよ」
「うーん素直! ニーナさんって、『正義』というよりも『英雄』に近いのかな? まあ違いなんて特に気にしないけど!」
「私は、秩序と法を優先するだけですよ。今はね」
テレジアの後ろから同じ治安維持組織のメンバーが武器をしまいながら歩いてくる。
「リーダー、逃げようとしていた連中はあらかた気絶させた。一応尋問はしたけど、モンスターコア加工貿易製品工場襲撃の理由は知らねぇみたいだ。理由も知らずに襲撃してるこいつらも大概だけど、理由を知らせずに襲撃させる上の連中の徹底っぷりったらありゃしねぇぜ」
その報告にテレジアは「ふむ」と頷く。ニーナはその情報を頭に入れつつ、自分の近くで倒れている闇組織の一員に触れた。
『四度に渡るモンスター製品工場の襲撃。偶然ではなく明確な目的があると予想』
「目的はこの都市の活動停止……? でもそれが起こると分かっているなら、モンスターコア製品工場各地に護衛を配置する事で未然に防ぐ事が可能だ。無差別でないなら、そんな事を続ける真似はしないはず」
『モンスターコア加工貿易製品工場で扱うアイテムを参照……この工場で作られていたのは生活用品の模様。闇組織が狙う可能性、必要性は低い』
周囲の情報取得を終えて、テレジアの下に集まる。
「それと、第二治安維持組織の連中も到着した様だぜ」
『第二治安維持組織の情報を取得中……獲得。都市内の信頼と結束は固い。冒険者でこそないが第二級冒険者を都市でもっとも多く抱えており、深層域での戦果も高い。ジャスティス治安維持組織とは違い、対人戦闘に特化している』
第二治安維持組織のリーダーが現れる。青い髪を短くまとめた中性的な女性だった。オレンジ色の服に身に纏っている。
「すまないテレジア、待たせたな」
「ううん、いいのよフランシスカ。調べ物をしながら来たんでしょ? 何かわかった?」
「ああ。被害ゼロで済んだから、すんなりとな。闇組織の一人が胸元に隠し持っていた物と、施設から無くなった物が一致した。奴らが持って行ったのは撃鉄装置に間違い無いだろう」
『撃鉄装置の情報取得……モンスターコア製品のスイッチに使用される。例としてライトや炎発生装置などに使用される』
(システムに継続して情報取得を命令。撃鉄を使用する方法について予測せよ)
『了承……周囲をスキャン……可能性を検索』
テレジアとフランシスカは話しながら首を傾げる。
「撃鉄装置……何に使うのかしらね?」
「わからん」
「お姉さん、闇組織達の捕縛は全員完了したよ。後は連れてくだけ」
「……ユージン、人前ではその呼び方をやめろと言っているだろう?」
「ごめん、フランシスカ・リーダー」
フランシスカと似ている少年が歩いてくる。青い髪に整った容姿をしている。
「やあ、君がアンジェの言っていたニーナさんかな?」
「ええ、その通りです。私がニーナ・ゼクスです」
「うん、じゃあ俺はゼクスと呼ぼうかな」
何処かふわふわしてる様な、それでいて芯は通っている様な、天真爛漫と似ている、何処常に笑顔を心掛けている様な、安心感を与える笑みを浮かべながら手を差し出してくる。
テレジアとフランシスカが話してる間に、ユージンはニーナに話しかけて来た。
「ゼクスはさ、正義をどう捉えてるの?」
「正義を、ですか?」
「うん。ジャスティス治安維持組織に入ってるなら、自分の正義は持ってるのだと思うし。テレジアさんに認められた君の正義が知りたいなって」
「私が思う正義とは、笑える行動、ですかね」
「悪を裁き、他者に感謝される様な存在ではなく?」
「この世に一側面しか無い存在なんて無いですし、平等には悪平等が、正義には独善が、悪には必要悪が、必ず好きな人物が自分を好きでいてくれることがないように、嫌いな人物が自分を嫌ってくれるとは限らない」
だからこそ。
「敵にも味方になったとしても、笑えるならそれを正義と呼ぶと思うよ。しいていうなら、何かを選択し行動することが正義、流されて自分の意志を持たないことこそ悪である、なんてね」
「グッド! いいね! 気に入った! 私の解釈を他人に押し付けるつもりはないし、気に入らないからって潰す真似もしない。でも俺は、君の事が好きだな」
背後からテレジアの声がかけられる。
「ニーナさん! 撤収するわ! あとは第二治安維持組織に任せる」
「ん、これ以上は引き止めちゃ悪いね。じゃあゼクス、また話そう」
「ええ、ではまた。ユージン」
治安維持組織の拠点に戻るとデブリーフィング……つまりこれからに関する報告会議が行われた。
「それじゃ、今日の報告といきましょうか!」
「一悶着起こした後に悪びれもなくよく始められんな、リーダー」
帰ってきてすぐ、ジャスティスの「ご飯にする? お風呂にする? それとも、私?」発言で興奮したメンバーを後ろに、テレジアは「お風呂でジャスティス様を戴くわ! ついでにニーナさんもどう!?」という爆弾発言をかまして一悶着があった。
「今日は被害もなし! 一般人も工場も全てが無事だったわ!」
「あら、早速大活躍ね。本当にお風呂で労うべきだったかしら」
「ジャスティス様が発言すると冗談に聞こえないのでやめて下さい」
「モンスターコア加工貿易製品工場を狙っての襲撃は撃鉄装置の盗みが目的だったようです。ジャスティス様はどう思いますか?」
「魔石製品のスイッチよね? カモフラージュの可能性を入れるにしても……作製に必要な部分を盗んだのであれば、何かを作るのは間違い無いわね」
「その『何か』が分からないと、対策のしようも御座いませんが……」
闇組織が撃鉄装置を盗んだ理由。モンスターコア加工貿易製品工場に盗みに入って、撃鉄装置だけを盗んだのは、既に基となるアイテムを入手しているという事になる。
「ジャスティス様。過去三回の工場襲撃に於ける火災で、火の上がる原因って判明してますか?」
「……? 工場は爆発の原因となるモノはあるから、それで火が上がっていると判断しているけれど」
『予想される闇組織の撃鉄装置を利用したアイテムを熱核ナパーム瓶の可能性を提示』
システムから提示される可能性をそのまま口に出す。
「撃鉄装置を盗んだのは熱核ナパーム瓶を作成するため?」
その言葉にジャスティス達は首を傾げる。
「熱核ナパーム瓶?」
「ニーナさん、それって何?」
「熱核ナパーム瓶……とは」
『熱核ナパーム瓶とは、異世界のある地方の軍隊で使用される爆発岩石、油、撃鉄装置を錬金術で合成合体して作成される手榴弾の現地名である。スイッチ押すだけで周囲に油と炎を撒き散らし、周辺を吹き飛ばすのと同時に、地面を炎上させることができる』
「爆弾です」
「爆弾!?」
「使用方法としては、投げる、自爆、都市の外縁部に設置する、都市内部に隠しておく、そんなところかな」
それにジャスティスは言った。
「この事は他言無用とします」
「何故? 対策する必要があると思いますけど?」
ジャスティスが言う。
「爆弾を利用した都市爆発は想定の範囲内です。そしてそれが仕掛けられていないのは、都市中に巡らせた第二治安維持組織が確認している。自爆攻撃は予想外ですが。知らせない理由は三つあります」
「理由?」
「まず一つ。私は───いや、この都市にいるほぼ全ての存在は、貴方を信じていない。信じるに足る“過去”がないからだ。そして二つ目だけど、これを知らせたところで意味がない」
「い、意味がないって、どうして」
「対策のしようがないからだ。自爆攻撃という手段を持たれた時点で、私たちは“詰み”に近い。爆発される前に気絶・殺害するか、自爆アイテムを奪うことでしか方法がなくなる。三つ目。対応策が出来たら、相手は同様にその対応まで考えてくるだろう。多くの冒険者が知れば自動的に相手にも伝わる。情報という有利性を自ら手放すわけにもいかない」
「でも対応策がないなら、結局情報が無いのと変わらないのでは?」
「そこで君だ、ニーナ・ゼクス
「私かい……?」
「君は都市外から訪れた特級クラスの戦力で、情報が全くない……言わば盤外の駒。つい最近まで居なかった貴方の存在は間違いなく相手にとっても想定外。情報が少ない限りは居ても居なくても気にされない人物だ。だから相手の『決定期』に仕掛ける」
決定期……つまり、相手が自爆攻撃を仕掛けるだろうタイミング?
「敢えてこの場で言うと、私達は貴方を信用していない。裏切られる可能性も想定して今後を組み立てる。が、貴方の能力は信用している。貴方の活躍によっては、闇組織の攻略は格段に違いが出るだろう」
ジャスティスさんは鋭い瞳で、ニーナを射抜く。
「ニーナさん───脚に自信はあるかい?」
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