ニーナ・ゼクスはこの暗黒期と呼ばれる時期の都市に降り立ち、2日が経過した。昨日は冒険者ギルドに冒険者登録をしにいき───受付人は訝しげに見ていたが───パトロールをしていた。
昨日は特に問題もなく、パトロールは終えた。ジャスティスが「目立つ装備は避けるように」って言われ、渡されたローブを着て歩いていた。そしてミッションを言い渡されてパトロールから離脱していた。
「モンスターコアの調達かい?」
「そう、ギルド直々の強制依頼ミッション! 中層まででいいから、出来るだけ多くのモンスターコアを集めて欲しいんだって!」
この都市は、モンスターコアを資源として稼働する道具が殆どだ。冒険者という種はそれを集める為の仕事。モンスターコアの純度が高ければ高いほど高値が付くし、例え上層程度でも魔石である限りはお金になる。
「冒険者が飽和しているこの都市でモンスターコア調達の依頼って、相当珍しいんじゃないかい?
「うんうん、その気持ちはよ〜く分かるわ。けどこのご時世だと、ダンジョンに出る冒険者もかなり減っちゃっててね。フリーのサポーターを雇ったら闇派閥でしたって例もあるから、出れる冒険者もかなり限られちゃってるのよ。その点私たちは総出でいけるし、強さも申し分なし! 他の冒険者組織程の重要視される組織でもないから、こういった依頼は定期的にくるのよね」
ニーナが疑問を抱いた顔をしたからだろう。ミセス・テレジアは頷いて肯定し、現在状況を説明した。
『初期の冒険者はフリーのサポーターを雇う事が多く、サポーターが闇派閥でしたって例があれば、殆どの冒険者は警戒する事となる』
「なるほどね。闇派閥だってそんなに弱くないと聴いた。暗黒期なんて言われるくらい経済活動を安全を脅かす闇派閥が、小さい組織な筈がない。だとしたら、中堅レベルの冒険者が揃っているこの冒険者組織に依頼されるのも納得だね」
「それで、エリアボスなどは存在するんですか?」
「ううん。つい最近に他の冒険者組織がぶっ倒しちゃったから、再度出現するまでは一週間以上はあるわ」
「そうでしたか…」
『意気消沈。エリアボスを倒せば魔石が手に入り、依頼には沿った上で『強敵との戦闘』が行える。冒険者の登竜門とも言われるエリアボス相手ならば戦闘技術の最適だった』
ニーナはテレジアとアンジェの鍛錬に付き合って身体は動かしているが、対人相手では無意識にセーブが働いてしまう。格下相手では仲間であることもあり、全力を出せない。
上澄みの冒険者なんてそうそう出会えるものでもない。しかしダンジョン下層の相手をする余裕も今はない。
「ニーナは出られそう? さっき言ってた用事とか」
「あ、はい。用件も済みましたので、いつでも大丈夫です!」
「ならみんなを集めてダンジョンに行きましょー!」
テレジアさんは王道的な団長だ。精神的支柱であるけど、決して頭を使わない訳ではない。でも任せる時に任せ、かつ自分の意思は曲げない『正義』に相応しい団長。
数十分後、ジャスティスの冒険者組織が揃った。地下大迷宮入口付近、下の広間。テレジアは振り返り、強気な笑みで言葉を発した。
「さ、行きましょう」
そうしてニーナは地下大迷宮へ足を踏み入れた。
『目標を三体確認。ミノタウルス。距離20メートル』
「排除する」
疾走。高出力エネルギーブレードとパルスガンを装備し、ミノタウロスの間を走る。自己増殖ナノマシンと生物的エネルギーが燃焼して身体を発熱させ、駆動する。三匹のミノタウロスは瞬く間にモンスターコアを残して塵と化した。
「終わり」
振り向きざまにパルスガン。透明の丸い泡のようなものがポポポポポンと発射されミノタウロスの体を抉り取って爆散する。
「……テレジアさん達は」
ニーナは自己完結型であるからこそ最大限の力を発揮できる。それに一緒に鍛錬したとはいえ1日2日。連携するには経験が浅すぎるから、ニーナは遊撃として動いた。取り敢えず四匹のミノタウロスを引き連れて、三匹を向こうに任せていた。
テレジアがミノタウロスの持つ武器を受け止め、アンジェがミノタウロスの首を斬り落とす。そしてテレジアに接近したミノタウロスをアンジェさんが蹴り飛ばし、テレジアがダンジョンコアを破壊する。残りの一匹が狼狽えている間にテレジアとアンジェの二人が接近して串刺しにする。
ミノタウロスはあっさりと塵となった。
「へぇ、やるじゃないか」
『称賛。中堅の冒険者チームとして最適化された動き』
コンビネーションというよりは、一人一人が全力を振るい、それのカバーに入るイメージ。それぞれが実力を余すことなく使えているから強い。
(ミノタウロスを両断出来るほどの長さではない。ニーナはミノタウロスの間を潜り抜ける一瞬でそれぞれに三回以上切り込んだ。肉を断ちにくいミノタウロスを相手に)
武器の性能もあるだろう。
一度は刃がないといった武器は、コの字の先端から光る刃を生み出し切り裂いた。しかしそれ以上に、ニーナが自身の速さが飛びぬけているように見えた。速さ、正確さ、技術……疑う余地もなく、第一級冒険者のそれ以上だと感じていた。
「……お伽噺から出てきたような存在だ。都市外にあのような人物がいたなどとは、とても信じられませんね。ジャスティス様の言葉を信じない訳ではありませんが……アレはジャスティス様が例として出しただけで、事実に迫るモノは何一つとして話していない」
ニーナが闇派閥の内通者なんて考えはもうない。それでもが不思議で強い人物だからこそ、その存在を気に掛ける。真実を知りたい訳ではないが、それでも興味が出てしまうのは高知能生命体の性だろう。
アンジェはそっと目を閉じ、開き、止めていた足を進め始めた。
「早く集めますか、知れない事を考えても時間の無駄です」
モンスターコアを集め始めた。
(確信はないがニーナの動き、このダンジョンに初めて来る人のそれではない……様に見えた。知識ではなく、体感として頭に入っていると言った方が正しいか。それに、外にいるであろうモンスターとの落差に全くの動揺がない)
勘違いで済ますには違和感があり過ぎた。ニーナの動きは、ダンジョン探索に慣れている人物の動きのそれだ。今日初めてダンジョンに潜った人物が行えるモノではない。
(……本当に御伽話から出て来たみたいだ)
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