「ただいまパトロールから戻りました!」
「あら……今日は早かったのね、どうかしたの?」
「用件があったので、済ませれば再びパトロールに戻ります!」
「少しくらいゆっくりしていっても良いのだけれど……そうね、貴方の頑張りを邪魔するわけにもいかないわ。それで用件は……その子かしら?」
「はい!」
治安維持組織の本拠地は巨大な陽性のようなところだった。その中でオーナーと思われる人は、おっとりとした雰囲気的がある茶髪の女性だった。
「初めまして、ニーナ・ゼクスです」
「はい、初めまして。治安維持組織の代表ジャスティスです……ふふ、なるほどね。テレジア、内容は分かったわ。パトロールに戻って良いわよ」
「えーと……」
「気にしなくていいわ。この子はそういう事が出来るタイプじゃない。私の勘もそれなりに当たるのよ?」
「分かりました! ではお任せします!」
現在は暗黒期と呼ばれるほどの闇組織の最盛期。つまり、危険性が高い。騙し討ちという可能性が考えられる。信頼関係も何もない人間は、危険だ。
「さて、貴方は……」
「少し失礼します」
相手が信用を見せてくれた。ならば少しでも自分に敵意がない事を示す為にも、装備は外さねばならまい。取り外せる武器はパージして、バックパックを置いて、装甲を外し、インナーだけの姿となる。
服を引っ張って武器を仕込んでいない事を見せ付ける。これなら、警戒心も多少は薄れるだろう。まあは大した警戒はしてないけど。
「別にそこまで疑ってないわよ?」
「貴方はそうかもしれませんが、他の人達は別ですから……」
他の人達───今いる治安維持組織の広間。その入り口からほんの少しだけ視線を向ける人達。
「あの子達……別にパトロールばかりしていて欲しい訳じゃないけど、私の心配ばかりされても困るわ」
「慕われているのは良い事だと思いますよ」
「そうね。えっと……ニーナさん。用件というのは、ここで話してもいい内容か、それとも他の人には聞かせてはいけない内容か……どっちかしら?」
「恐らく信じてもらえない内容です。内容自体は誰でも構いませんが、信じられないと言われるでしょう」
ジャスティスはニーナの瞳をジッと見つめる。ニーナが逸らさず見つめ返していると、やがて目を閉じた。
「それだけ荒唐無稽な話、ということね」
「一言で言えば、私は異世界から来た存在です」
「異世界……?」
「システムによる完全管理社会。あらゆるものを数値化する世界。公安局が治安維持と、潜在的危険因子を排除する。人の澱みから生まれる人には見えず、人を殺す超常存在の魔獣を退治する非実在封鎖機構も存在する。そして、人々は娯楽のための健全なショーを求めて『異世界調査配信』を見ている。私は、この目で見たものを映像情報として元の世界へ送る端末です」
「端末……貴方は、一人で異世界に来たの? 仲間は?」
「私は、正確には人間ではありません。人権はなく、使い捨ての映像記録装置です。異世界へ送られ、調査し、配信する。そのために作られた個体であり、それ以外に目的を持ちません。それ故に回収されることもなく、この体が活動を停止するまで異世界を調査し続ける義務が存在します」
「そう……最低限の武器とアイテムだけ渡されて異世界から送り込まれる、か。死ぬのが前提の、使い捨ての命なんて」
「そういう存在です。それに私は、悲観してませんよ。相応の武力と機能を与えられてます。調査がすぐ終わらないように異世界でもそうそう死なないように作られてますから」
「そう」
ジャスティスは目を閉じた。それは直ぐに開き、ゆっくりと頭を下げた。
「もし良ければ、どうか、あの子達を守って欲しいの」
「それは、どういう意味で?」
「異世界で貴方は生き残れる戦力……簡単に言えば、私達より高度な文明から力を与えられている。それなら私達では出来ないことも可能だと思うの。この暗黒期を終わらせたい。正義を執行したい。法が機能して、正しい行いをした者達が報われる世界を作りたい。因果応報。善行に報酬を、悪行に罰を。それを体現したい」
「…………少し待ってください」
◆
『視聴者アンケートを実施します』
『治安維持組織代表・ジャスティスの提案を受け入れますか?』
『受け入れる、受け入れない、騙す』
『投票中……結果を提示します』
『受け入れる45%』
『受け入れない25%』
『騙す30 %』
『受け入れる、に決定しました』
◆
「……ええ、はい。力を貸します」
ニーナは力強く頷いた。
「ありがとう」
「じゃあ、この世界の情報を教えるわね?』
約20分ほどの時間を得て、説明は終わった。
「……全部は覚えられないので、また聴いていいですか?」
「あらあら……ちょっと長く喋り過ぎたわね。もちろん構わないわ。でも、取り敢えず広間に戻りましょうか。長くなりすぎると、あの子達も心配するでしょうし」
「分かりました。……ところで私の部屋とは?」
「部屋は余っているから、後で案内するわ。あ、でも浴場は一つなのよね……。入る時間にはしっかり注意してね? 覗きも厳禁。まあそんな事をする子には見えないから、大丈夫だとは思うけれど」
「それは……はい、約束しますよ」
アンケート次第だが、という言葉がつくが。
ニーナは、優しげな笑みを浮かべて、こう言った。
「貴方が笑えるように、尽力します」
「ええ、ありがとう」
広間に戻ると、数人の女性たちが集まって何かを見ていた。
「パッと見た感じでは、切れ味さえない剣の様ですが……この謎の機構で何らかの効果があるようですね」
「条件つきの武器という事だな」
彼女たちに取って意味不明な異世界の装備やアイテムを広げてワイワイと賑やかに話している。全てのアイテムにセーフティロックをかけてあるから安全だが、もしセーフティロックをかけてなかったらこの場の人たちが死んでいた可能性がある。
「すみません、その装備……」
「ああ、ごめんなさい。見たこともない装備となると惹かれてしまい」
「まぁジャスティス樣の万が一に備えて武器を取り上げていたんだがな」
「ちょっと……」
「なんだよ、お前の提案だろうが」
すっと視線を逸らす。騙し討ちの類を頭に入れると当たり前の判断だ。
「ま、特に問題はなかったみたいだし、無駄な心配だったけどな」
パージした装備一式を渡してくる。ニーナは受け取り、直ぐに装着し始めた。
「しっかし、その黒いナイフを除けば分かりやすく良い装備だよなぁ。駆け出しだったら身の丈に合わないぜ?」
「あら、大丈夫よ。その子、治安維持組織の誰よりも強いもの」
「は?」
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