「いい? 貴方は今まで通り闇組織の襲撃を阻止して欲しい。ただしこれまでよりも、『ジャスティスの読みが当たった』という表向きの理由を曝け出すように」
「ジャスティスさんの…?」
「ええ。貴方はアビリティの中でも機動性が飛び抜けていると報告を受けている。けど、それを相手に知られる訳にはいかない。どんな襲撃、どの相手の策略を防いだとしても、私の読みがあたっただけと思わせる」
ジャスティスの言葉の意図は分からない。だがしかし最後には全てを繋げるのだろうと、下手な質問は避けた。
「それと貴方には、高出力パルスブレードではなく物理型の両手大剣を主な武器として使用して欲しい。相手には機動性よりも膂力が長けている存在と認識してもらいたいから。扱いは?」
「大丈夫です。短剣、直剣、大剣、鞭、射撃武器、場合によっては拳も可能です」
「わかった。武器は此方で用意しよう。それとパトロールが終わった後には毎回私の下へと訪れて。少しでも確率を上げたいの」
「……?」
「正直、この作戦は賭けだ。仮に第一級冒険者が決行したって無理な話として笑われるわ。プレッシャーを与えるようで悪いけどね」
『アップデートを完了。物理型の武器の使用方法を会得』
「君には────」
作戦の内容は正直に言って、無茶や無理を通り越して不可能なレベルだった。アレは作戦と呼べるのかも怪しい、ただの力押し。
策謀に長けた人物が立てたとは思えないような荒唐無稽。でも裏を返せば、ジャスティスでさえその作戦で行かざるを得ないという事。
筋は通る。後はニーナ・ゼクスがそれを遂行できるかどうかが全て。ならば今まで通り、自身の力で死力を尽くすのみ。
「じゃあ今日は解散」
「はい。ありがとうございました」
翌日、アンジェとテレジアと共にパトロールの前に武器を選ぶ事になった。
ニーナ・ゼクスの前には直剣、大剣、特大剣、槍、長槍、斧、大斧、斧槍、爪、レイピア、エストックなどの多種多様な武器がズラリと並んでいる。
「さぁ! ニーナ! これの中から貴方の武器を選ぶのよ! 因みに私のお勧めは大斧! 格好良いわ!」
テレジアが元気よく言う。続いてアンジェが言葉を並べる。
「私のお勧めはエストックです。長い射程、取り回しの効く重量、相手の弱点を破壊できる鋭い一撃、総合的に優秀です」
「むっ、大斧も優秀よ? 防御の上から敵を破壊できる攻撃力、敵の攻撃をガードできる面積の広さとか」
「……そうだね、どちらにしようか」
『視聴者アンケートを実施……計算中……大斧が76%、エストックが24%』
「分かった。じゃあ私は大斧を使うとするよ」
「やった! それじゃあパトロールに出発!」
パトロールをしているとドカン! と音を立てて爆発する建物と鉢合わせた。そこには白い服を纏った人たちが、剣を翳して炎や雷で破壊活動を行っていた。
『敵情報の取得と解析……終了……敵は魔剣と呼ばれる魔法が封じ込まれた剣を使用している。敵個体一つ一つの戦闘力は低い。高速で敵の懐に潜り込み破壊するか、魔法を防御して正面から磨り潰すこと推奨』
「私は正面から行くよ。アンジェさんとテレジアさんは別方向から急襲して」
「しかし!」
「大丈夫、私は最強だから」
「おっけー、任せた!」
「テレジア!? 危ないと思ったら退いてください、ニーナ」
テレジアとアンジェが去ったことで、敵の闇組織からの魔剣による魔法攻撃が一点集中する。パルスアーマー(球体状のバリア)で、敵の攻撃を防ぎつつ一歩一歩前へ進んでいく。
「はぁッ!!」
「むっ……!」
敵の背後に回った二人と援護に来てくれた第二治安維持組織のメンバーが、敵を切り裂いて捕縛する。ニーナはジャスティスとの約束通りにわざとらしく、大声で言う。
「流石、ジャスティス様。予測が的確だ!」
それに反応するのは、目の前の男だ。大斧を振り回して相手を吹き飛ばす。地面を転がって、ゆっくり立ち上がると、額から流れる血を吹きながら言葉を返してくる。
「なるほど、ジャスティス様の読みですか……それにしても私が吹き飛ばされる大した力ですね。見掛けない顔ですが、随分お強いと見える」
特に疑問は持たれてない。元々のジャスティスの凄さが影響しているのだろう。
死者は出てしまっているが、この人達が武器を取り出した瞬間に押さえた。避難誘導も第二治安維持組織が行っている。
ニーナはここにいる闇組織を押さえればいい。……それにしても、短剣やナイフ程の慣れがないとはいえ、僕の一撃を防ぐなんて。あの表情が強がりだとしても、最低でも第二級冒険者、中堅以上の実力はある。
「ヴェニデ様」
「……ええ。どうやら第一治安維持組織の一員のようですね。貴方だけでも厄介なのですが……他の連中まで来られたら手に負えません。引きあげましょう」
「逃げるのか?」
「はい、逃げます。貴方にはコレをプレゼントしますよ!」
ニーナは逃走を阻止する為に地面を踏みしめたが、闇組織の一員が、火達磨になって捨て身で殴り掛かられて一瞬硬直する。明らかに捨て駒だった。時間稼ぎの為に命を消費する最善手。やられて嫌なことを熟知している。
一度避けた後にもう一度向かってくる。体勢を整えて大斧で切り裂いた。ヴェニデと呼ばれた男は───
「……遠い」
今から追いかけても間に合うだろう。だがジャスティスさんの作戦のこと、そして彼が‟囮”である可能性も頭に入れると、無策に追うのは危険な判断だ。
大斧を担ぐ。
「ニーナさん、ご無事ですか?」
「逃がしました。申し訳ない」
「いえ、貴方が無事であることに越したことはありません。しかし、それほどまでに強い相手でしたか?」
「私の能力を考えれば制圧が可能だったと思います。ただ、闇組織のやり方にまだ慣れてなくてね」
「……捨て駒ですか。確かに奴らは狡猾だ。苦手とするのも理解できる」
ある程度の決着が終えたのだろう。アンジェが近づいてくる。
「私もまだ未熟の身だ。だから偉そうに言えた義理ではないですが……人は一人で出来ることが限られている。もう少し私たちを頼っていい」
「……そうだね、アンジェさん。次からはそうするよ」
目を瞑り、開き、笑みを浮かべて言葉を放つ。
翌日。
今日も、街の巡回に徹する。今日はテレジアさんとのコンビだ。
「どう? もう慣れた? この都市には」
「ええ、慣れました。賑やかな良いところですね」
「本当ならもっと笑顔で満ちている筈なんだけどね……今は闇組織が笑顔に蓋をしてしまっているの」
「そもそも闇組織がこれほどまで力をつけた原因はなんなんですか?」
「みんな力というお酒に酔っているのよ。普通はダンジョンでモンスターを倒してお金に換金する仕組みがあって、そこで上手く回っていたんだけど、少し前に最大勢力だった冒険者組織が壊滅して、モンスターを怖がるようになった。するとモンスターコアの供給が落ち着かず、需要が高くなり、商人が権力を握るようになった。その権力でわかることをすると闇組織を使うようになって、ダンジョンで消費されるべき冒険者の力が、闇組織へ注がれるようになった。そんな感じかな」
「最大勢力が壊滅となると、それまで抑止力だった冒険者が無くなるわけですから闇組織も活動しやすい土壌になってしまったわけですね。パワーバランスが崩れた結果、ですか」
「闇組織に追い詰められた人々は、命を繋ぐ為に悪事を行い、被害が拡大する。悪循環が断ち切れない」
「昨日のヴェニデとかいう人も、それなりの力を持っていたけど、闇組織についた方が得だと思う人間も多くなっているように思える」
「弱者生存。それが高知能生命体の作る社会のあるべき姿よ」
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