俺とハルナは、犯人探しのために玄関ホールへ出た。
ちょうどそこで、マヤが歩いてくるのが見えた。
彼はぶつぶつと独り言を呟きながら、入口扉の方からこちらへ向かってくる。
「くそ……出られないか」
そう口に出してからやっと俺たちの存在に気付いたようで、
「あ――二人とも」
バツが悪そうに頭を掻きながら、ヘラヘラと笑った。
「もしかしたら、今なら出られるんじゃないかと思ったんだけどね。そう甘くはなかったみたい」
「そりゃ、まだナツノちゃんを助けられてないんだから当然よ」
「念のためだよ、念のため。……それじゃ僕は、これから地下に行って水を汲んでから探索に向かうから」
さっきと同じく、俺たちから逃げるように離れていくマヤ。
そんなマヤを俺は追いかけ――背後から服を引っ掴んで投げ飛ばした。
「ミツヤくん!?」
「なっ……何するんだよミツヤ!」
情けなく尻もちをついたまま、マヤは喚く。
それを無視して、俺は彼を睨みつけた。
「……そんな風に騙し続けようとするな」
俺が吐き捨てるように言うと、項の辺りを擦っていたマヤは途端に目を丸くする。
「俺にはもう、ナツノが誰に罰を与えようとしているのか分かってるんだよ」
「分かってる……だって? じゃあ、早く教えてよ。そうすればここから出られるかもしれないじゃないか」
「もうやめろ。どんなにすっとぼけたって無駄だ」
湧き上がる怒りを抑え込んで。
俺は――宣告する。
「マヤ。ナツノを殺したのは――お前だな」
罰を受けるべき人殺し。
それはこの男――中屋敷麻耶だった。
「……は?」
急に殺人犯だと告発され、マヤは立ち上がることも忘れ、呆れたような声を発する。
ハルナもまた、俺の隣で信じられないという風に口元を押さえていた。
「ま、マヤくんが……?」
「ちょ、ちょっと待ってよミツヤ。突然何を言い出すかと思えば、そんな……」
曖昧に笑いながら、マヤは俺の言葉を否定しようとする。
「僕がナツノちゃんを殺す? そんなことあるわけがない。だって僕とナツノちゃんは、好き同士だったんだからさ」
けれど、弁明しようとすればするほど、綻びが出るのはよくあることだ。
「え……そうだったの?」
今度はマヤの言葉に対して、ハルナは仰天する。
「う、うん。僕は昔からナツノちゃんのことが好きでさ。彼女の方も、僕のことが好きだって言ってたから……その。付き合い始めたんだ。転校してたミツヤはしらないだろうし、ハルナちゃんにも教えてなかったみたいだね。僕たちはとっても仲良くしてたんだよ……?」
「……で、でも……そんなこと信じられない」
信じられなくて当たり前だ。
それは例えるならば、永遠に交わらない平行線なのだから。
「だって、ナツノちゃんは昔からずっと――ミツヤくんのことが好きだったのよ?」
マヤは言い返せずに、口をパクパクさせる。
だから代わりに、俺が説明することにした。
「ハルナ。……それこそが、この事件のきっかけだったんだよ」
「きっかけ?」
「ああ。ハルナはもちろん、覚えてるよな? ナツノと初めて話をしたときのことを。……自己紹介の場で、あいつは俺のことをなんて呼んだんだった? どんな風に勘違いし、どんなあだ名を付けたんだった?」
「……あっ……まさか――そんなことで……?」
――マキおじさんと同じ漢字だったのになあ。
そのマキおじさんとは。
満貴という漢字の親戚だったそうだ。
「そう。そんなことなんだよ。そんな馬鹿馬鹿しいことが引き金になって……ナツノは殺されることになってしまったんだ――マヤ、お前にな」
冷たく言い放ってマヤを指さすと、彼は嘲るように笑いながら反論してくる。
「ははは……だからミツヤ、なに言ってるのさ。僕とナツノちゃんは仲良くやってたんだよ。昔好きだったとかそんなの関係ない。お前は転校して、ナツノちゃんを置いてけぼりにしてしまったんだから。
僕がナツノちゃんを殺しただなんて、酷い言い掛かり……暴言だ。そんな暴言を吐くぐらいなら、確かな証拠ぐらいあるんだろうね? 証拠も無しに僕がナツノちゃんを殺しただなんて決めつけないでほしいな!」
マヤは次第に早口になり、最後の方は殆ど聞き取れないほどだった。駄々っ子のように首を振りながら、彼は叫ぶ。
「僕は確かにナツノちゃんが好きだった。そしてナツノちゃんだって……僕のことが好きだったんだよッ!」
ああ――仮にお前が、そう信じ込もうとしていたんだとしても。
マヤ。それはお前にとって都合の良い、幻想でしかないんだよ。
――ま や く ん――
また、赤と黒が明滅して。
俺たち三人に、真実という悲劇をまざまざと見せつける。
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