あれから、どれくらいの時間が経っただろうか。
ひとまず場所を食堂へと移し、俺たちは気持ちを落ち着かせることにした。
時間は動かないので、時計もスマートフォンも見る意味はない。
ただ、数十分くらいは五人でぼんやりと時間を過ごしていたはずだった。
皆、当然ながら口数が減り、交わされた言葉は数えるほどだった。歩き回っていたのは俺くらいのもので、あとは全員、壁に寄りかかるか椅子に座っていた。
だから、この時点で気付いたのは俺だけだった。
麻雀牌の『白』が、割れて倒れていたことに。
「……いくらか落ち着いた。悪かったな」
それまで黙っていたソウシが、ようやく口を開いた。気持ちの整理などはつかないだろうが、いくらか切り替えることは出来たのだろう。彼は再び作戦会議を提案し、もちろん俺たちは同意した。
「やっぱり、玄関扉は開かなかったんだよねえ」
マヤが溜め息を吐く。食堂への道中、彼は一応試しておきたいと、開扉を試みたのだ。結果は今言ったように芳しくなかったが。
「ナツノちゃんの遺体がどこにあるか不明である以上、まずはタカキの霊を鎮めてやるのが妥当だと俺は思う。元に戻ったタカキが何か情報を持っているかもしれねえしな」
「うん。私もそれでいいと思う。タカキくんの遺体なら、すぐ隣にあるんだしね」
「……そう簡単に聞き出せるかな?」
今度もマヤは懐疑的だ。心なしかサツキもソウシの意見を素直に受け入れていない感じがする。さっきの件で精神的にだいぶ参っているだけかもしれないが、少しだけ違和感があった。
「留美さんを解放しても、状況は良くなってないんだ。とりあえず思いついた最善をやっていかなけりゃ、俺たちはずっと閉じ込められたまま、死んでいくのを待つだけになる。出来ることを、しなきゃいけねえ。せめて俺たちだけでも……生きて帰るためによ」
俺たちだけでも。大切な人を失った彼の言葉は、重い。
だから、誰も反論など出来なかった。
「ミツヤ、悪いがまた付き合ってくれるか。タカキのところへ行こう」
「ああ、分かってるさ」
「ハルナたちは全員で固まって待機しててくれ。万が一霊に襲われても、協力すれば逃げられるはずだ。……いいか、もう絶対に離れるんじゃねえぞ。誰か一人が取り残されるようなことは、あっちゃならねえんだからよ……」
救える命が、取り落とされることなんてあってはならない。痛切なる訴えに、ハルナもマヤも神妙に頷く。
「……うん。勝手な行動は慎むことにする」
「私たちが大人しくしてれば……なんて、今更だけど。ごめんなさい、もうこれ以上心配はかけないから。三人で、ミツヤたちの帰りを待ってるから……」
「落ち着かない気持ちは理解出来るさ。でも、そう……待っててくれ。必ず俺たちで、何とかしてみせる」
根拠のない強がりではあったけれど。俺がそう言うのに、ハルナは出来る限りの笑顔を浮かべてくれる。
希望の光は遠くて、出口にどれだけ近づけているのかは分からない。それでも、何とか生きて帰るために。今はやれる限りのことを、やるしかないのだ。
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