伍横町幻想 —Until the day we meet again—【ゴーストサーガ】

ホラー×ミステリ。オカルトに隠された真実を暴け。
至堂文斗
至堂文斗

二十五話 セピア色の記憶

公開日時: 2020年10月2日(金) 20:02
文字数:923

 セピア色の風景。

 小学校の教室で、二人の少女が語り合っていた。


「……ついこの間の話なんだけど。霧夏邸に住んでた湯越郁斗って人がいなくなっちゃって、霊に呪い殺されたんじゃないかって噂が立ってるらしいの」

「霊って……どうして?」


 机の上に肘をつき、窓の外を眺めたままの長髪の少女が問う。その隣に立つ短髪の少女は、楽しそうに噂話の続きを口にした。


「ほら、あの人の娘さんって交通事故で死んじゃったんでしょ。その現実が受け止められなかったのか、どんどんおかしくなっていってさ。降霊術? っていうのにどっぷりはまった結果、あの邸宅を購入して、ずっと怪しげな実験をやってるみたい」

「ああ……聞いたことあるわね、確かに」


 でも、と長髪の少女――霧岡夏乃は呟く。


「霧夏邸って言ったらむしろ、昔三人で忍び込んだことを思い出すわ」

「そうだねー。あの頃はナツノちゃん、元気いっぱいの女の子だったよね」


 懐かしむように、短髪の少女――法月東菜が言った。


「って、それじゃ今の私が元気ないみたいじゃない」

「あっと、これは失礼」


 まだまだ小学校六年生だというのに、年寄り染みた話をしているなと二人は笑う。


「……思い出すと、本当に懐かしいわね」

「また、あの頃みたいに遊べたら楽しいだろうな」

「そうねえ……」


 思い出す幼少期の夏。

 けれどもそれを取り戻すことは、とても難しいことだった。


「私、あんまり大きい声じゃ言えないけど……まやくんのことが、ね?」


 ハルナに囁きかけるように、小さな声で突然ナツノは告白する。それを聞いたハルナは驚いて、


「え? そ、そうなの?」

「ちょっとハルナ、何よその顔。薄々気付いてたんじゃないの?」


 呆けた顔が面白かったようで、ナツノはニヤニヤと笑った。


「う。……まあ、そうなんだけどね。そうかあ、やっぱりそうだったか」


 そう答えるハルナの表情は、どことなく悔しげだ。


「……私、ハルナちゃんが思ってる通り、昔のような底抜けの明るさなんてのは無くなっちゃったわ。だから勇気も出せなくて、自分の口からは言い出せなかったんだけどね」


 愛しい人の表情をまぶたの裏に思い描くように。ナツノはそっと瞳を閉じる。


「いつか、まやくんの方から口にしてくれたら嬉しいなって、そう思い続けてるのよね――」

読み終わったら、ポイントを付けましょう!

ツイート