セピア色の風景。
小学校の教室で、二人の少女が語り合っていた。
「……ついこの間の話なんだけど。霧夏邸に住んでた湯越郁斗って人がいなくなっちゃって、霊に呪い殺されたんじゃないかって噂が立ってるらしいの」
「霊って……どうして?」
机の上に肘をつき、窓の外を眺めたままの長髪の少女が問う。その隣に立つ短髪の少女は、楽しそうに噂話の続きを口にした。
「ほら、あの人の娘さんって交通事故で死んじゃったんでしょ。その現実が受け止められなかったのか、どんどんおかしくなっていってさ。降霊術? っていうのにどっぷりはまった結果、あの邸宅を購入して、ずっと怪しげな実験をやってるみたい」
「ああ……聞いたことあるわね、確かに」
でも、と長髪の少女――霧岡夏乃は呟く。
「霧夏邸って言ったらむしろ、昔三人で忍び込んだことを思い出すわ」
「そうだねー。あの頃はナツノちゃん、元気いっぱいの女の子だったよね」
懐かしむように、短髪の少女――法月東菜が言った。
「って、それじゃ今の私が元気ないみたいじゃない」
「あっと、これは失礼」
まだまだ小学校六年生だというのに、年寄り染みた話をしているなと二人は笑う。
「……思い出すと、本当に懐かしいわね」
「また、あの頃みたいに遊べたら楽しいだろうな」
「そうねえ……」
思い出す幼少期の夏。
けれどもそれを取り戻すことは、とても難しいことだった。
「私、あんまり大きい声じゃ言えないけど……まやくんのことが、ね?」
ハルナに囁きかけるように、小さな声で突然ナツノは告白する。それを聞いたハルナは驚いて、
「え? そ、そうなの?」
「ちょっとハルナ、何よその顔。薄々気付いてたんじゃないの?」
呆けた顔が面白かったようで、ナツノはニヤニヤと笑った。
「う。……まあ、そうなんだけどね。そうかあ、やっぱりそうだったか」
そう答えるハルナの表情は、どことなく悔しげだ。
「……私、ハルナちゃんが思ってる通り、昔のような底抜けの明るさなんてのは無くなっちゃったわ。だから勇気も出せなくて、自分の口からは言い出せなかったんだけどね」
愛しい人の表情をまぶたの裏に思い描くように。ナツノはそっと瞳を閉じる。
「いつか、まやくんの方から口にしてくれたら嬉しいなって、そう思い続けてるのよね――」
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