「よし、皆揃ったね」
集まった子どもたちをぐるりと見回しながら、ハルナはまずそう口にした。
金曜日。放課後に一度帰宅した俺たちは、着替えなど準備をしてからここに集合したのである。
計七人の中学生。まあ、よくある肝試しのシチュエーションだろう。
「結構古臭い洋館だよね」
眼鏡を掛けた、男子にしては髪の長い彼――山口貴樹がつまらなさそうに屋敷を見つめる。その様子を見て、隣にいた前髪をピンで留めたショートヘアの少女――篠田皐月が言葉を返す。
「そりゃ、幽霊が出るってんですもの。そういう雰囲気あるのは当然でしょ、タカキ」
「それにしても、本当に勝手に入ってもいいんでしょうか……」
ソウシに寄り添うにして、不安げな表情でそう零す長髪の少女は河南百合香。地毛らしいが少し茶色がかった髪を撫でている。
「ここ、昔はもちろん人が住んでたけど、今じゃ心霊スポットとか噂されて、中へ入っちゃう人も多いみたいだしねえ……バレなきゃ大丈夫よ」
楽観的にハルナが言うのに、
「……僕は不安だな」
タカキは誰にともなくそう呟いた。
「あんた、妙に警察に怯えてるもんね」
「うるさいなあ」
大っぴらには言わないが、タカキとサツキはいわゆる恋仲で、今日も仲良く口喧嘩している。彼らとは対照的に、和やかな付き合いをしているソウシとユリカちゃんのペアは、二人のやりとりをどこか楽しげに眺めていた。
「と、とにかく。バレなきゃ大丈夫っていうんなら、早く中へ入らない?」
それまで後ろで様子を見ていた少年――中屋敷麻耶が、耐えきれなくなったのか口を開く。屋敷の所有者が失踪していたとしても、勝手に入れば不法侵入なのだし、彼の心配は尤もだろう。元々気の小さい奴ではあるけれど。
「そうね、さっさと行きましょ」
思い出したようにハルナが言い一同は頷いて、鍵のかかっていない無用心な玄関扉を開けて霧夏邸の中へと入っていくのだった。
*
俺たち七人を最初に待っていたのは広々とした玄関ホールの美しい光景だった。赤いカーペットが敷き詰められ、左右にある大理石の柱の前には、大きな花瓶が置かれてある。
「うわあ、広いねえ……」
マヤが、全員の気持ちを代弁するかのように感嘆した。……この館に湯越郁斗がたった一人住んでいたと思うと、羨ましいを通り越して哀れになる。どれほどに孤独だったのだろうと。
「……でも、妙じゃない? 人が住んでるって感じがある」
「ちょっとタカキ、無責任に怖いこと言わないでよ」
「いや、でもよ。確かに掃除でもされてるみたいに綺麗じゃねえか? 誰も住んでないなら、もっと埃っぽいだろ、サツキ」
「それは……」
ソウシに指摘されると、サツキは何も言い返せなくなる。……そう。入ったばかりの俺たちにも、違和感は容易に掴めていたのだ。人が住んでいないにしては綺麗過ぎるのでは――と。
「ま、まあ雰囲気はバッチリじゃない。本当に何か出るかもしれないわよ? とりあえず、食堂があるからそこで話しましょ」
ハルナがそう促すのだが、
「……怖いです」
ユリカちゃんはやはりまだ心配そうに眉をひそめていた。
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