流刻園という名称で、伍横町の若者たちがまず連想するのは『七不思議』だった。
伍横町の東部に所在するその高校は、七不思議が存在することで有名だったのである。
全国を探せば、学校の七不思議などは様々なところで存在するだろうが、流刻園は少し事情が違う。
流刻園の七不思議は、実際の事件を基に噂が広まったものが多いからだ。
校長先生の娘が亡くなったり。
校内で首を吊って自殺した生徒がいたり。
そうした負の事件が人から人へ伝達されるうちに歪んでいき。
やがては七不思議の一つへと変貌してしまったものもあった。
だから、生徒たちは時折口にする。
この学園は――呪われているかもしれないと。
もしかしたらこれからもまた。
七不思議の仲間入りをするような事件が、悲劇が……突然に引き起こされるのかもしれない、と。
……そして。
黄昏の中、学園の運動場に、一人の人影。
ふらり、ふらりとした足取りで玄関口を目指す男。
生徒でもなく、教員でもなく。
本来いるべきでない男が、一つの目的を持って歩き続けていた。
男は、歯を食い縛る。
銀色に光るそれを掴んだ手を、強く握り込む。
流刻園。
運命の場所。
茜色に染まるその校舎を見上げた男は、頑なな決意を胸に秘めていた。
……全てを壊してやる、と。
遠雷が、町に轟いた。
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