伍横町幻想 —Until the day we meet again—【ゴーストサーガ】

ホラー×ミステリ。オカルトに隠された真実を暴け。
至堂文斗
至堂文斗

三十二話 全ての幸せと、全ての不幸の始まり

公開日時: 2020年10月6日(火) 08:02
文字数:933

 小学校での最初の一日が終わって。

 人気の無くなった教室に、三人の子どもだけが残っていた。

 一人の男の子と、二人の女の子。

 それは、出会いの光景だった。


「なつのちゃん、だよね? はじめまして。私、のりづきはるなっていうの。友だち百人作りたいんだ、仲良くしてね」

「うん! よろしくね、はるなちゃん」

「うーん……はるちゃんって呼んでもいい?」

「もちろん。好きなように呼んでいいよ。その代わり……私もなっちゃんって呼ぶね?」

「はるちゃん、なっちゃんだね。春と夏みたいで仲良くなれそう」

「ほんとだねー」


 無垢なやりとり。それを微笑ましく見つめながらも、自分が入るタイミングを掴めずに、男の子は立ち尽くしている。

 だから、そんな男の子をフォローするように、ハルナは彼をナツノの前に押し出した。


「あっ……あの、ぼくもはじめまして。今日から……よろしくね」

「うん、よろしくねー」


 男の子が戸惑っているのを面白がりながら、ナツノは手を差し出す。男の子はその行動にもっと戸惑ってしまったが、やがておずおずと握手を交わした。


「この子とは、幼稚園で一緒だったの。大人しい子だけど、この子とも仲良くしてあげてね!」

「そうなんだ。でも、私はそういうこの方が好きだよ。男の子ってうるさい子が多いもん」

「え。……えっと、あの。ありがと、なつのちゃん」

「うん。ええっとー……まやくん、だよね!」


 ナツノはどこかで目にしたのだろう、彼の名前を呼ぶ。

 しかし、まやくんと呼ばれた男の子は悲しそうに俯いた。


「あう……違うよお」

「あれれ? マキおじさんと同じ漢字だったのになあ」


 おかしいな、と言う風にナツノは大げさに首を傾げる。そこでハルナが自慢げになって、


「ふふ、同じ漢字でも、読み方が違うんだよー」

「ううん、漢字って難しいね。覚えていけるかな? ……まあ、それより。あなたのお名前教えてよ!」


 間違えられたことはショックだったけれど。

 本当の名前を覚えてもらうために、男の子は勇気を振り絞って、大きな声で告げる。


「うん。僕の名前はね――」



 ――それが、全ての始まりだった。

 全ての幸せと、そしてまた、全ての不幸の始まり。

 ……もしも、あのとき彼女がその名を呼ぶことがなければ。

 今日のこの悲劇が幕を上げることもまた、なかったのだろうか――。

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