小学校での最初の一日が終わって。
人気の無くなった教室に、三人の子どもだけが残っていた。
一人の男の子と、二人の女の子。
それは、出会いの光景だった。
「なつのちゃん、だよね? はじめまして。私、のりづきはるなっていうの。友だち百人作りたいんだ、仲良くしてね」
「うん! よろしくね、はるなちゃん」
「うーん……はるちゃんって呼んでもいい?」
「もちろん。好きなように呼んでいいよ。その代わり……私もなっちゃんって呼ぶね?」
「はるちゃん、なっちゃんだね。春と夏みたいで仲良くなれそう」
「ほんとだねー」
無垢なやりとり。それを微笑ましく見つめながらも、自分が入るタイミングを掴めずに、男の子は立ち尽くしている。
だから、そんな男の子をフォローするように、ハルナは彼をナツノの前に押し出した。
「あっ……あの、ぼくもはじめまして。今日から……よろしくね」
「うん、よろしくねー」
男の子が戸惑っているのを面白がりながら、ナツノは手を差し出す。男の子はその行動にもっと戸惑ってしまったが、やがておずおずと握手を交わした。
「この子とは、幼稚園で一緒だったの。大人しい子だけど、この子とも仲良くしてあげてね!」
「そうなんだ。でも、私はそういうこの方が好きだよ。男の子ってうるさい子が多いもん」
「え。……えっと、あの。ありがと、なつのちゃん」
「うん。ええっとー……まやくん、だよね!」
ナツノはどこかで目にしたのだろう、彼の名前を呼ぶ。
しかし、まやくんと呼ばれた男の子は悲しそうに俯いた。
「あう……違うよお」
「あれれ? マキおじさんと同じ漢字だったのになあ」
おかしいな、と言う風にナツノは大げさに首を傾げる。そこでハルナが自慢げになって、
「ふふ、同じ漢字でも、読み方が違うんだよー」
「ううん、漢字って難しいね。覚えていけるかな? ……まあ、それより。あなたのお名前教えてよ!」
間違えられたことはショックだったけれど。
本当の名前を覚えてもらうために、男の子は勇気を振り絞って、大きな声で告げる。
「うん。僕の名前はね――」
――それが、全ての始まりだった。
全ての幸せと、そしてまた、全ての不幸の始まり。
……もしも、あのとき彼女がその名を呼ぶことがなければ。
今日のこの悲劇が幕を上げることもまた、なかったのだろうか――。
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