伍横町幻想 —Until the day we meet again—【ゴーストサーガ】

ホラー×ミステリ。オカルトに隠された真実を暴け。
至堂文斗
至堂文斗

終章 少女の夜明け

公開日時: 2020年10月21日(水) 21:37
文字数:1,535

 伍横町から電車で数駅のところにある某大学。

 その中庭で、僕と彼女は二人、行き交う生徒たちを眺めながら言葉を交わしていた。

 陽射しは眩しいくらいで、夏の訪れをだんだんと感じさせる暖かさになってきている。

 日向にいると汗をかくほどなので、僕たちは日陰ができている校舎の壁に寄りかかっているのだった。


「……もうすっかり、元気になったね?」


 隣の彼女――アキノちゃんは、可愛らしいワンピースを着込み、髪を後ろで束ねていて清楚な感じだ。男子学生たちが時折立ち止まるのが面白い。

 目が覚めた直後は不健康で髪も伸び切っていたけれど……あの頃の面影はもうすっかり無くなっていた。


「最初は大変だったけど……マスミさん、リハビリ手伝ってくれたから」

「そばについてただけさ。頑張ったのはアキノちゃんだよ」

「……えへへ」


 アキノちゃんは照れ臭そうに笑う。

 その笑顔は、どことなく幼げに見えた。

 肉体的には十七歳だが、やはり精神的にはまだ十四歳。

 体と心には、三年分の開きがあるのだ。

 だから今、彼女はそれを取り戻そうと毎日頑張っている。


「私、絶対この大学に入るからね。……三年分遅れちゃってるけれど、必死に勉強するから」


 校舎を見上げながら、アキノちゃんは強い口調で僕に告げる。


「だから……マスミさん、また手伝ってね?」

「うん、もちろん。……頼まれちゃったからね」


 彼女の姉二人から、しっかり面倒を見てほしいと頼まれたのだ。

 その約束を反故にするつもりはない。

 僕は必ずこの子を幸せにすると、誓ったのだ。

 ……何だかそう表現すると婚約したみたいだが……まあ、近からずとも遠からず、なのかもしれないか。


「……ミオさん、最近見かけないね?」

「ミオは、しばらく大学には来ないと思う」


 事件以降、何度か話す機会があったのだが、最後に会ったとき、彼の決意を聞かせてもらっていた。

 だから、彼が今何をしようとしているかは知っている。


「……例の人を、探しに?」

「ああ。ドールと名乗った謎の人物をね」


 全てが謎に包まれた仮面の男、ドール。

 彼の目的は降霊術による死者の蘇生だと言うが……具体的にこの町で何をしているかが分からない。

 これからこの町で、何が引き起こされるのかが分からない。


「……復讐したいから、とか?」

「ううん、それは違う。ミオは、ちゃんと僕に告げていった。ドールを追う理由をね」


 ドールの思うがままに操られ、一連の悲劇の引き金を引く役割を担ってしまったミオ。

 そんな彼の思いは、けれども決してマイナスなものではなかった。


「降霊術によって悲しい結末を迎えてしまう人が、もうこれ以上増えないように。……そのために、ミオはドールを追っていったんだよ――流刻園にね」


 流刻園。

 三神院にてドールと対峙した際、奴が口にしていた次の目的地。

 次なる悲劇の舞台。

 その引き起こされるであろう悲劇を防ぐため、ミオは旅立ったのだ。


「……ミオさんなら、できると思う。私には、分かるよ」


 でも少し寂しいけれど、とアキノは呟く。


「そうだね、僕も寂しいよ。だけど……応援してる」

「……うん」


 悲劇の連鎖を断ち切るために。

 ドールの目論見を、彼が止められることを。

 それを信じながら、僕たちはこの町で生きていく。

 残された僕たちは、幸せを創っていかなくちゃならないから。


「……ね、アキノちゃん」

「何? マスミさん」


 アキノちゃんは、可愛らしく小首を傾げる。

 やっぱり姉妹らしく、ヨウノやツキノちゃんの面影を感じさせる顔立ちだ。


「ええっと。……今日、僕の家に来てくれないかな?」

「え? えっと、その……どうして?」

「……快気祝いのつもりもあるし、それにさ」


 ちょっと勇気が必要だったけど……僕は彼女へ告げる。


「……ほら、もう過ぎちゃったけれど。君の誕生日会だって、まだ開いてなかったんだしさ――」

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