出入口の封鎖された霧夏邸地下は、空気の出入りもないようで、心なしか息苦しくなってくる。
ミツヤとハルナは少しずつ不安が増してくるのを感じながら、冷たい廊下で時間を潰す。
「……大丈夫なのかねえ」
「まあ、何か理由があったんでしょ」
「多分、な」
ミツヤもソウシも、互いのことは信頼し合っている。
だから、考えあってのことだというのは分かるのだが、心配なのはソウシの身についてだった。
彼は自らの命を賭して、ミツヤたちの道を切り拓いてくれた過去がある。
今回はそこまで危険な状況でないとはいえ、少々不安には感じていた。
そんなミツヤの心配を知ってか知らずか、ソウシは何食わぬ顔で二人の元に戻ってくる。
「ふう、お待たせ」
「ああ。……策はあったのか?」
「ん。もうちょっとだけ待っててくれ。今から邪魔なものどけてくるからよ」
「え、どけてって……」
「いいからいいから」
ソウシは結局、一度も立ち止まることなく廊下の奥へ向かっていった。待っててくれと言われた以上、そこから動かない方がいいと判断したミツヤたちは、ソウシが何らかのアクションを起こすのを待つ。
すると――地下の入口の方から、突如とんでもない爆音が響き渡った。
そう、まるで爆弾が爆発したかのような……。
「はっ?」
「ちょっと、まさか……」
流石の二人も居てもたってもいられず、ソウシの元へ向かう。
煙の充満した入口には……やりきった表情を浮かべるソウシと、開通した出入口とが待っていた。
「おおー……」
状況からして、ソウシは本当に爆発を生じさせたようだった。
瓦礫や土砂が地下へ入り込み、鼻を押さえていなければ満足に息も出来ない状況だ。
「げほっ……あの薬品の中から、爆発するものを混ぜたの?」
「そうそう。頭いいだろ?」
「さ、最後の言葉でだいぶ減点だな……げほッ」
「はは、失言だった」
中々凄まじいことを成し遂げた後だと言うのに、ソウシは相変わらずの調子だ。
そこが彼のいいところだな、とミツヤもハルナも感じる。
「さ、お先にどうぞ」
「ああ、外の空気、吸わせてもらうぜ」
「ありがとう、ソウシくん!」
二人は開かれた出口に向かって走っていく。
鬱々とした地下にいるのはもう御免のようだ。
そんな彼らを見送ってから……ソウシはふう、と息を吐いた。
そして、
「……ということで、良かったのかい」
地下の片隅で静かに様子を見守る少女に、声を掛けた。
「……ええ、ありがとう……ソウシくん」
「どういたしまして……ナツノちゃん」
霧岡夏乃。
霧夏邸の悲劇が幕を開けるきっかけとなった少女だ。
彼女がマヤに殺されたことから、ミツヤに復讐心が芽生え……全てがドミノ倒しのように展開していった。
事件の最初の被害者であり……ミツヤたちの、大切な人だった。
「……私は、お任せしちゃったもの。あの二人で、面倒を見合っていくってことをね」
だから、今はいいのとナツノは笑う。
自分たちにとっての『また会う日』は、まだまだ先のことだからと。
それも、一つの答えだった。
この世界で生きていく二人を優しく見守り続けるのも、高潔な答えだ。
「……立派なもんだ」
「ソウシくんもね」
「どうだか。……ま、俺は行ってくるよ。もう一度、あいつのそばで力を貸してやりたいからさ」
「いいコンビだったものね」
「俺なんかまだまださ」
だから、あの後も仲良く馬鹿やっていきたかったのにと、ソウシは思う。
もう二度と戻りはしないけれど、思うことくらいは自由だから。
「……じゃあ、な」
「じゃあ、ね」
ソウシもまた、大切な仲間の元へと駆けて行った。
残された少女は、暗闇の中でそっと、彼らの成功を祈るのだった。
「まだ再会するようなときじゃあ、ないからね」
――頑張ってね。まやくん、はるちゃん。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!