伍横町幻想 —Until the day we meet again—【ゴーストサーガ】

ホラー×ミステリ。オカルトに隠された真実を暴け。
至堂文斗
至堂文斗

二十五話 「お任せしちゃったもの」

公開日時: 2020年12月5日(土) 21:32
文字数:1,504

 出入口の封鎖された霧夏邸地下は、空気の出入りもないようで、心なしか息苦しくなってくる。

 ミツヤとハルナは少しずつ不安が増してくるのを感じながら、冷たい廊下で時間を潰す。


「……大丈夫なのかねえ」

「まあ、何か理由があったんでしょ」

「多分、な」


 ミツヤもソウシも、互いのことは信頼し合っている。

 だから、考えあってのことだというのは分かるのだが、心配なのはソウシの身についてだった。

 彼は自らの命を賭して、ミツヤたちの道を切り拓いてくれた過去がある。

 今回はそこまで危険な状況でないとはいえ、少々不安には感じていた。

 そんなミツヤの心配を知ってか知らずか、ソウシは何食わぬ顔で二人の元に戻ってくる。


「ふう、お待たせ」

「ああ。……策はあったのか?」

「ん。もうちょっとだけ待っててくれ。今から邪魔なものどけてくるからよ」

「え、どけてって……」

「いいからいいから」


 ソウシは結局、一度も立ち止まることなく廊下の奥へ向かっていった。待っててくれと言われた以上、そこから動かない方がいいと判断したミツヤたちは、ソウシが何らかのアクションを起こすのを待つ。

 すると――地下の入口の方から、突如とんでもない爆音が響き渡った。

 そう、まるで爆弾が爆発したかのような……。


「はっ?」

「ちょっと、まさか……」


 流石の二人も居てもたってもいられず、ソウシの元へ向かう。

 煙の充満した入口には……やりきった表情を浮かべるソウシと、開通した出入口とが待っていた。


「おおー……」


 状況からして、ソウシは本当に爆発を生じさせたようだった。

 瓦礫や土砂が地下へ入り込み、鼻を押さえていなければ満足に息も出来ない状況だ。


「げほっ……あの薬品の中から、爆発するものを混ぜたの?」

「そうそう。頭いいだろ?」

「さ、最後の言葉でだいぶ減点だな……げほッ」

「はは、失言だった」


 中々凄まじいことを成し遂げた後だと言うのに、ソウシは相変わらずの調子だ。

 そこが彼のいいところだな、とミツヤもハルナも感じる。


「さ、お先にどうぞ」

「ああ、外の空気、吸わせてもらうぜ」

「ありがとう、ソウシくん!」


 二人は開かれた出口に向かって走っていく。

 鬱々とした地下にいるのはもう御免のようだ。

 そんな彼らを見送ってから……ソウシはふう、と息を吐いた。

 そして、


「……ということで、良かったのかい」


 地下の片隅で静かに様子を見守る少女に、声を掛けた。


「……ええ、ありがとう……ソウシくん」

「どういたしまして……ナツノちゃん」


 霧岡夏乃。

 霧夏邸の悲劇が幕を開けるきっかけとなった少女だ。

 彼女がマヤに殺されたことから、ミツヤに復讐心が芽生え……全てがドミノ倒しのように展開していった。

 事件の最初の被害者であり……ミツヤたちの、大切な人だった。


「……私は、お任せしちゃったもの。あの二人で、面倒を見合っていくってことをね」


 だから、今はいいのとナツノは笑う。

 自分たちにとっての『また会う日』は、まだまだ先のことだからと。

 それも、一つの答えだった。

 この世界で生きていく二人を優しく見守り続けるのも、高潔な答えだ。


「……立派なもんだ」

「ソウシくんもね」

「どうだか。……ま、俺は行ってくるよ。もう一度、あいつのそばで力を貸してやりたいからさ」

「いいコンビだったものね」

「俺なんかまだまださ」


 だから、あの後も仲良く馬鹿やっていきたかったのにと、ソウシは思う。

 もう二度と戻りはしないけれど、思うことくらいは自由だから。


「……じゃあ、な」

「じゃあ、ね」


 ソウシもまた、大切な仲間の元へと駆けて行った。

 残された少女は、暗闇の中でそっと、彼らの成功を祈るのだった。



「まだ再会するようなときじゃあ、ないからね」


 ――頑張ってね。まやくん、はるちゃん。

読み終わったら、ポイントを付けましょう!

ツイート