「……ところで、円藤さんですよね?」
「うん。ミオって呼んでくれていいよ」
多目的室から出たところで、ミイナちゃんがミオさんに話しかけていた。
「ええっと、ミオさん。どうしてここに閉じ込められちゃったんですか? 他の人は見当たらないのに……」
オレも訊ねたその疑問に、やはりどこか悲しげな表情を浮かべながら、ミオさんは答える。
「……降霊術に関わった人間は引き寄せられるんじゃないかな、とは予想してる。僕は一度、降霊術と関わりを持ったことがあるからね」
「そう、なんですか……」
聞きたい気持ちはあっただろうが、ミイナちゃんも無理強いはしないでおこうと思ったようだ。
こんな状況だし、何かしら共感できることが欲しいと、思う気持ちは理解できるけれど。
「まあ、その話はまたいつか。今はどこへ向かうかだね」
「お母さんのところがいいんでしょうけど……あの教室、いつの間にか鍵が掛かってて。鍵を見つけなきゃいけないと思います」
二年一組には、知らないうちに鍵が掛かっているらしい。オレたち以外に生きている人間はいそうもないし、考えられるとすれば霊ということになるが。
まるで、時間稼ぎでもしているみたいに感じられる。
「……玉川理久という子の仕業かもしれないね」
「……リク、か」
リクが学校に来ていたなら、どこかで魂が抜け、そのまま悪霊となった可能性が高い。
現実に肉体を伴ったものを怪物と呼ぶのなら……オレが一度出くわしたアレが、リクなのではないだろうか。
「目覚めてから教室を出て、すぐに幽霊か怪物のようなものに出くわしたんですけど。リクの……というか、大人になったオレの体が見つからないから、あれがリクだったのかもしれません」
「なるほど……それは有り得るね」
ミオさんも、オレの考えに同調してくれた。
「ま、とにかく。まずは鍵ですね」
「よし……まだ行ってないところを重点的に探してみよう」
ミオさんとミイナちゃんは、二人で頷き合う。
その姿に、ミイちゃんと同じ前向きさを感じて、オレは少し胸が温かくなった。
ミイナちゃんは、オレと離れてから一人であちこちを探索していたらしく、互いに探索済みの場所を話し合っていると、一ヶ所抜けがあることが分かった。
大きすぎる死角……それは、体育館だ。
一階廊下の突き当りに扉があり、そこから渡り廊下のようなところを通って体育館に向かうことが出来る。渡り廊下は壁もなく、そのまま運動場に出ていけるようにはなっているが、この空間の中では出られるか不明だ。とりあえず、一度試してみることは悪くない。
オレたちは四階から一階へさっさと下り、そのまま体育館への渡り廊下へ出る。
そのコンクリートの床から一歩外へ踏み出せば、建物の外なわけだが……やはりというか、その境界は不可思議な力で分断され、足を伸ばすことが出来なかった。
「……駄目か」
パントマイムをしているように見えるかもしれないが、確かに見えない壁が存在する。或いはこう考えた方がいいのかもしれない。こちら側とあちら側では、世界が違うのだと。
あながちその考えは、間違いではないような気もする。
「出られるのは、全てを解決してからだね」
「ですね」
ミオさんに言われ、オレはすぐ見切りをつけて体育館の方に進路を戻す。
体育館の扉は閉まっていたが、別に鍵がかけられているわけでもなく、押すだけで簡単に開いた。
真っ暗な体育館。これまでの教室とは違い、高さも奥行もあるだだっ広いこの場所は、身を隠す場所もなく、どこからでも襲われる危険がある。前後左右、それに天井も。広がる暗闇全てが恐怖だった。
「……何かがあるとしても、これだけ広いとね」
「探索は難しいでしょうね……」
仮にリクの宿っていた――つまりオレの体がそのまま倒れていたなら話は早いのだが、また別の場所へ誘導するような鍵があったら、この暗闇だ。発見は難しい。
とにかく探索はしなければならないが、まとまって動くか手分けするか、どうするべきか。
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