校舎の屋上。
沈みかけた太陽が血のような光を迸らせているその景色の中に、オレを呼び出した人物は立っていた。
予想していたような女の子ではない。その人物は全身を襤褸切れのようなローブで覆い、背中を向けていた。
「……誰だ、アンタは」
見るからに怪しげなその人物に、オレは怪訝な表情をしながら問いかける。
そこで、もう一人別の人影があるのに気付いた。
それは他でもない、オレの友人。
玉川理久の姿だった。
「……リクまでどうして」
「ぼ、僕にも分からない」
リクは怯えた様子でぶるぶると首を振る。
「ただ……呼び出し状みたいなのが机の中に入ってて、屋上に来てくださいって……」
「なるほど、お前もか」
どうやらオレもリクも、この男に呼び出し状でおびき寄せられたということのようだ。
「アンタが、オレとリクを呼び出したってことなんだよな……?」
「……そうだ」
ローブの人物――声色からして男だろうか――が、ようやく答える。
「私が君たちを呼んだ。私の実験に少々付き合ってもらうためにね」
そして、男はこちらを振り向いた。
その顔は……まるで道化師のような仮面に覆われていた。
七不思議の、仮面の男――。
「仮面の男……ま、まさか七不思議の?」
「七不思議? そんなことは知らぬがね。君たちにはこれから、私の実験の被験者となってもらいたいのだよ」
「……はあ?」
実験などと突飛な台詞をぶつけられ、オレは思わず呆れ顔で言い返す。
「何言ってるんだ、そんな変な格好して……よく校内に入ってこれたもんだよ」
怪しいとは言えただの人。
オレは怖がっていないことのアピールという意味合いも込めて、男に近づいていった。
意味不明な言動で煙に巻いて逃げようったってそうはいかないぞと、そいつの目の前までやってきたとき。
「うッ!?」
激しい衝撃が、オレを後方へ突き飛ばしたのだった。
――何だ、今のは?
奴は全く体を動かしていなかった。
にも拘らず、オレの体はまるで大きな何かにぶつかって押し返されたように飛ばされた。
どういうトリックだ、と考えてみたが、仕掛けはまるで分からない。
だって、奴の周りには本当に何もないのだ。
「じっとしていてくれたまえ。これは、名誉なことなのだから」
男が怪しく腕を動かした瞬間、周囲の空気は明らかに一変する。
背筋に冷たいものが走り、茜色の空が急に暗い色に沈んだ気がした。
「……ぐっ……!?」
ふいに、自分の体が抗えない力で引き寄せられていることに気付く。
ずるり、ずるりと……どれだけ踏ん張っても、体は仮面の男の元へ引き寄せられる。
それは、リクも同じようだった。
慌てて床の継ぎ目に指をかけ、留まろうとするのだが、吸い寄せる力はあまりにも強く、指が折れそうになって放してしまう。結局オレは謎の力の前に屈し、リクと二人、男の元へと吸い寄せられてしまった。
「……さあ、始めよう」
奴がもう片方の手を、こちらへ向けた。
その直後……激痛が頭に走る。
「うわあああああぁぁぁああッ!!」
ガンガンと槌で打たれるような滅茶苦茶な痛みとともに、オレの視界は真っ赤に染まって。
全身から血が噴き出すようなおぞましい感覚の後――世界は、闇の中へと沈んでいった。
――ごめんね、ミイちゃん……。
それが、意識を失う前、最後に浮かんだ言葉だった。
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