伍横町幻想 —Until the day we meet again—【ゴーストサーガ】

ホラー×ミステリ。オカルトに隠された真実を暴け。
至堂文斗
至堂文斗

二十七話 「ほっとけなくなるじゃねえか」

公開日時: 2020年12月7日(月) 21:52
文字数:1,529

「黒木って奴は、幼い頃に嫌な思い出があったんだってね。まあ、どう考えても逆ギレみたいなものなんだけどさ。でも、幼少期の経験って多分、どんなことであっても大きく感じられると思うんだ。黒木にとって、それはとっても大きなことだった……」


 マヤの話は、そこで締めくくられた。

 少年刑務所で、彼と黒木圭が邂逅していたというのは全員にとって驚きだったが、ミツヤとハルナがなお驚いたのは、マヤがケイを諭したという事実だ。

 おまけに、ケイと話す中で彼の人物像を掘り下げ、悪の萌芽した原因まで探ろうとしたというのは、マヤの成長というか、更生が感じられるものだった。


「黒木は、父親に強い男であることを常に求められていたそうだしね」

「みたいですね。強くあれって、言われてたみたいでした。ただの教育方針だったのに……」

「それが……幼い彼の、言わば拠り所だった」


 この中では唯一ケイの詳細を知るアキノと、マヤは意見を述べ合う。


「ある意味、黒木圭は純粋だったんだろうね。純粋すぎて、拠り所が壊れたときに彼も壊れてしまったんだ。幼いまま……」

「……幼いまま、ですか」

「ふふ、これは僕の勝手な推測だよ。だけど、僕も同じような感じだったからさ。何となく……それが黒木圭っていう人なんじゃないかなあって思ったんだよね」


 マヤがナツノを手にかけたとき。

 きっとそのときの心も同じようなものだったと、彼は思っていた。

 純粋なのが、悪いことだとは言わない。けれど、その純粋さが途方もない残酷さに豹変することもあるのだと、マヤはよく知っているのだ。

 拠り所を失ったとき、彼は全てを否定し、壊そうとしたから。


「……共感はすんなよ? もうお前は、昔のお前じゃないって思ってるんだろ」

「うん、しないしない。だから……止めなきゃって、思ったんだもの。ハルナちゃんが、僕を救ってくれたようにね」

「マヤくん……」


 そこで照れ臭くなったのか、マヤは負傷した足をパンパンと叩いて、


「やっぱり、僕じゃあちょっと格好悪い結果になったけど。ま、一回防げただけでも、見事なもんだよね」

「どこが見事だよ、バカマヤ。おかげでほっとけなくなるじゃねえか……ったく」

「はは……手厳しいなあ、ミツヤは」


 ……ありがとう。

 殆ど聞き取れぬほどの声量だったが、マヤは確かに、ミツヤにそう感謝を告げた。


「……仕方ねえな。ちょっとハルナもソウシも、マヤについててやってくれ。行こうと思ってた場所があるんだが、俺だけで行ってこよう」


 頭をわしわしと掻きながら、ミツヤは突然、二人に指示をした。ハルナもソウシも、彼の行きたい場所がどこなのかが気になり、すぐに問いを投げかける。


「ちょっと、どこに行くつもりなの?」

「町が閉じた今なら、どこへ侵入したって問題ないだろ? だから、侵入しようと思ってたんだよ……犬飼真美の家にさ」

「おいおい、そんな面白そうなことなら俺も連れてけよ」


 待機させられるのが我慢ならないようで、ソウシが即座に同行を求める。

 面白そう、という表現にミツヤは遊びじゃないんだぞと注意しようとしたが、


「一人でなんか行かせられねえしよ」


 という、自分を心配しての進言であることが分かると、文句は言えなくなってしまった。


「……すまねえ、ハルナ。大丈夫か?」

「んー、すぐ帰ってきてほしいけどね? ちょっとだけなら、待っとくよ」

「了解、なるべく早く戻る」


 霊体であるソウシが付いてくるのは、解錠や索敵などの面で便利ではあるが、ハルナたちの守りが手薄になる。あまり時間をかけるわけにはいかなかった。


「じゃ、残念だけど連れてくか。行くぞ、ソウシ」

「あいよ」


 ミツヤとソウシの二人は、かつてのように肩を並べ、調査に出向く。

 ハルナはそれを、やっぱり素敵な相棒だなと思いながら見送るのだった。

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