伍横町幻想 —Until the day we meet again—【ゴーストサーガ】

ホラー×ミステリ。オカルトに隠された真実を暴け。
至堂文斗
至堂文斗

三話 「腕の良い研究者がいてね」

公開日時: 2020年11月12日(木) 20:02
文字数:1,268

 体が丈夫でないマミは、少しだけ客室で休憩してから、邸内を散策していた。

 廊下には使用人の女性が二人いて、掃除をしながら挨拶をくれたので、マミもぎこちなくではあるが挨拶を返していた。

 客室があるのは邸宅の二階東側であり、客が立ち入りできるのも大体が東側。西側は私室が集まっているらしく、殆どの部屋が施錠されているようだった。

 そんな西側の廊下へ入ってみたところで、ちょうどマモルと鉢合わせする。

 彼は奥の扉から出てきたばかりのようで、その扉の横には研究室とプレートが取り付けられていた。


「どう、マミちゃん。何か面白いものでも見つけたかい?」

「ああ、いえ……ただただ広さに驚いてます。そこが、お薬の研究所ですか?」

「その通り。小さいけど地下室も設けてあって、本格的なことが出来るようになってるんだ」


 マモルは手をひらひらと動かしながら答える。


「腕の良い研究者がいてね。……風見照っていう奴なんだけど。ぼーっとしててドジそうに見えるんだが、その筋ではかなり有名な奴なのさ」

「へえ、風見さん……」


 生憎マミは世間の流行などあまり詳しくなかったので、風見照という名は知らなかったのだが、どうやら当時から既に、彼はそれなりに名の知られた人物のようだった。


「今度紹介するよ。今は根つめて研究してるっぽいからさ」

「はい、お願いします」


 マモルの提案に、マミは笑顔でそう答える。

 それは、人との関わりを忌避していた彼女らしからぬ対応だった。

 マモルがマミに対して、どれほど影響を与えているか。

 そのことを痛感させられる一幕だった。


「……これからどうする?」


 マモルの用事は片付いたようなので、この後二人で何をしようかと訊ねてくる。

 本当なら時間的にもティータイムと行きたかったのだろうが、マミは予想以上に気を張っていたらしく、


「そうですね……家の中なのに歩き疲れちゃって。ちょっとだけ、部屋でお休みさせてもらおうかな」


 少し青ざめた顔で、マモルにそう告げた。

 口元には笑みがあったものの、本当に疲れていることはマモルも理解出来たので、


「はは、オッケーオッケー。ゆっくり休んでくるといいよ」


 と、彼女を引き止めることはしなかった。

 申し訳なさそうにマミは頭を下げ、歩いてきた道のりを引き返す。

 そんな彼女をマモルは心配だからと、部屋に戻るまでエスコートするのだった。


「……はぁ」


 部屋に戻り、マモルと別れてから、マミはベッドに腰かけてまた溜め息を吐く。

 スプリングの効いたベッドはギシギシという音とともに、彼女を優しく受け止めた。


「気疲れしちゃったかな……少し、寝ちゃおう」


 まぶたを擦りながら、マミは呟く。

 人様の家で寝てしまうなどはしたないと分かってはいるのだが、彼女の我慢は限界のようだった。

 男友達の家。普通の人ならさして珍しいシチュエーションではないかもしれない。けれどマミにとっては、この訪問は大冒険だったのだ。

 そうした理由もあって、彼女が気疲れすることも仕方ないことだった。


「大丈夫、だよね……」


 彼女はそっと、掛け布団を捲る。

 そしてベッドに潜り込み……程なく穏やかな眠りに落ちていった。

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