職員室へ向かう道すがら。
オレはミオさんから、降霊術に関する詳しい情報を聞いた。
伍横町で過去に行われてきた降霊術は、湯越郁斗という人物が実験を繰り返していたものであること。ただ、その湯越氏より前に術式を確立させた者がいて、どうやら湯越氏はそれに倣って実験を行っていたらしいこと。
霧夏邸という邸宅で起きた事件から、降霊術にまつわる事件が動きを見せ始めたこと、その裏にはドールという仮面の男の暗躍がありそうだということ……。
自分の住む町でそのようなことが起きていたとは知らず、オレはミオさんの話にただ驚くばかりだった。ニュースでは普通の事件として小さく取り上げられたことはあるようだったが、運悪くか、オレはそういうニュースを目にしたことがなかったわけだ。
ミオさんは、あまり事件の詳細について語ろうとはしなかった。それはきっと、信じてもらえないからというわけではなく、関わった人たちの思いを守るためなのだろうとオレは予想した。多分、外れてはいないだろう。
「さて……ここだね」
話をしているうち、オレたちは職員室の前に到着した。やはり電気は点いておらず、扉の先の闇が不気味で恐ろしい。
オレが二の足を踏んでいると、代わりにミオさんが扉を開いてくれた。
勇敢な人だ。
「……誰もいませんね」
「空間が隔離されているからね。術に少なからず関わりを持った人しか、ここにはいない筈だ」
「じゃあ、ミオさんは」
「僕は、前例があるからだろう」
降霊術が絡んだ過去の事件。
そこで悲しみに直面したからこそ、彼はここにいる……。
「とりあえず、鍵を探そう」
「ですね」
無造作に置かれていることはないだろうし、きっと鍵をしまうケースのようなものがある筈だ。
オレとミオさんは、ある程度のイメージを持ちながら、鍵を探す。
すると、案外すぐに鍵のケースは見つかった。壁際にある棚の中にしまわれていて、その棚には鍵が掛けられていなかった。
「多分これが……鍵を入れておくケースなんでしょうね」
「ただ……」
ケースにはダイヤルが付いており、四桁の数字を正しく組み合わせなければ開かない仕組みになっていた。
「暗証番号を入れると開くタイプか。こういう場合、どこかに書いてありそうなものだけど……」
防犯上それでいいのかという疑問はあるが、今はその方がありがたい。誰かがメモをしているだろうということで、オレとミオさんは再度室内を調べて回る。
幸いメモもさほど苦労せず発見することができた。防犯意識の低い先生がいたものだ。机のマットの下に差し込まれた小さなメモ用紙に、四桁の数字が書かれていた。ほぼほぼ間違いないだろう。
果たしてその数字にダイヤルを合わせると、キーケースはパカリと開いた。
「……あれ?」
「どうも、入っているのはこれ一本だけみたいだね」
ケースの中には、各教室の鍵が詰め込まれているものとばかり思っていたのだが、入っていたのはたった一本の鍵だけだった。
音楽室の鍵。ネームホルダーにはそう印字された紙が差し込まれている。
「なんでだろう……普段はちゃんと管理されてる筈なのに」
「悪戯好きの霊の仕業……だったりするのかな。何とも言えないや」
「はあ……」
実際にそういう経験があるのだろうか。まあ、鍵がないなんて作為的だし、人でなければ霊である可能性は確かに高そうだが。
「とりあえず、この鍵しかないんだったら音楽室に行って見るべきだろうね。そこにまた、何かがあるかもしれない」
「割と、手探りなんですね」
「ある程度、割り切るしかないよ」
ミオさんだって、当然ながら何もかもを見透かしているわけではない。
出てくる手掛かりを元に、一つ一つ辿っていくしかないのだ。
「……音楽室、か。そういえば七不思議の一つだったっけ……」
「七不思議?」
僕の呟きに、ミオさんが首を傾げて訊ねてくる。
「ええ、ウチにも学校の七不思議ってのがあるんですよ。尤も、この話は僕の……友だちの、ミイちゃんから聞いた話ですけどね――」
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