テラスに教えられた通り、マミの眠る客室に辿り着いた私は。
穏やかな寝息を立てる彼女の傍に、しばらくの間寄り添っていた。
マミが目を覚ましたのは、陽も傾き始めた午後五時前のこと。
掛け時計の音がやけに煩く聞こえる部屋の中で長い間待ち続け……ようやくのお目覚めだった。
「……あ……トオル」
目を覚ますと、すぐ頭上に私の顔があったので、少々驚いたのだろう。
マミは寝惚け眼ながらも、体をぴくりと震わせた。
「おはよう、マミ」
「……うん」
私が見つめる中、マミはゆっくりと身を起こして目を擦る。
そうして一度大きな伸びをしてから、ベッドを離れて椅子に座った。
私も向かい合うように、反対側の椅子に腰かける。
今までずっと話してきた筈なのに、こうしてまた二人きりでいられるのが、とても久しぶりな気がしてならなかった。
「……へえ、風見さんに会ったのね」
マミが寝ている間のことを一通り説明すると、彼女は嬉しそうに表情を緩めた。
「お人好しそうな顔した人だったよ」
「私も会うのが楽しみだわ。今度紹介するって言われてるから……」
マモルとの話が楽しかったことを暗に仄めかしているのが気に食わなくて、私は返答せずにいた。
大人げないと思われたのだろうが、マモルのことに関しては、私は理性的な判断がどうしても難しかったのだ。
……そして。
「……ねえ、トオル」
「何? マミ」
この瞬間が、私にとって最も屈辱的で、記憶に残るものになった。
ああ、当然分かってはいたけれど……口にはして欲しくなかった、彼女の気持ち。
「まだ、ふわふわとしてて曖昧な気持ちだと思うけど……一応、言っておこうと思って」
「……やめてくれよ」
「ううん、聞いて」
それを直接私に伝えるということが。
彼女の意思の強さを、物語っていた。
だからこそ私は、完膚なきまでに打ちのめされたのだ。
「私――マモルくんのことが、好きよ」
そのときもう、私とマミとの間には。
埋めようもない溝が……それこそ地割れのような隔たりが、生じていたのだった。
*
それから、波出守は夕食も用意して、私たちをもてなした。
だが、そのあたりのことは最早、曖昧模糊とした記憶だ。覚えていない。
たった一言、あの言葉が胸に残り続けて。
私はあまりにも惨めな思いで、ずっと虚空を見つめていた。
……マミとマモルは、それから何度も会い、同じ時間を過ごした。
彼と会うときのマミの顔は、とても幸せに満ちたものだった。
……そう。確かに彼は、マミにとって私に代わる存在ではあったのだ。
ようやく自分というものを認めてくれた人間、だったのだから……。
二人は惹かれあっていった。
私の思いを知っていても、それでもなお。
私たちは――というよりも、マミは度々波出家に招かれた。
泊まることはなかったが、それでもマミとマモルは、本当の恋人同士のようにみえた。
いや……恋人同士、だった。
そして、ある日のこと。
マミに寄り添うようにして、また波出家に足を運んだ、ある日のことだ。
破滅の兆しは、突如として姿を見せた。
そう、それはあまりにも突然に――。
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