伍横町幻想 —Until the day we meet again—【ゴーストサーガ】

ホラー×ミステリ。オカルトに隠された真実を暴け。
至堂文斗
至堂文斗

二十九話 数奇な巡り合わせ

公開日時: 2020年10月4日(日) 20:02
文字数:1,979

 ソウシの口から語られた、二つの家の悲しき真実。

 その内容に、ハルナもマヤも絶句していた。


「……俺は、その話を聞いてから、色々と考えたよ。そうして出た結論は……俺から直接、ユリカにそれを伝えたいってものだった。それから伊吹さんに相談して……河南家、俺の本当の両親にも話をして……俺から事実を告げてもいいっていう許可をもらうことが、できた」

「そんなことが、あったなんて……」

「……全く、奇妙な巡り合わせだったよ。好き合った同士が、互いの家の実子だなんて。取り違えられたまま育った者同士だったなんて……」


 何もかもが運命だったのかもしれない。そんな風に思っても仕方のないような巡り合わせだった。

 偶然と呼ぶには、あまりにも出来過ぎた……。


「俺は今日。その事実を……ユリカに伝えようと思ってた。夜にでも、落ち着いて話し合える時間ができるだろうって、思ってたんだ。でも、こんなことが起きちまって……あいつが生きているうちに、それを告げることができなかったのが辛かった。……だからさ。たとえ悪霊としてでも、あいつがまだ存在してくれたことに……希望を持ったのさ」

「……じゃあ、ユリカちゃんに?」


 ハルナが問うと、ソウシは微笑を浮かべる。


「ああ……元に戻したユリカに、何とか伝えることができたよ。それで、俺のやりたいことは、終わった」

「……そう、か」


 生きているうちではなかったけれど。

 ソウシは、僅かな可能性に賭け、そしてそれを掴むことが出来たのだ。

 自らの命と引き換えにして。


「……はは、今更後悔したって、遅いけどよ」


 ソウシの目が……少しずつ、虚ろになっていく。


「こんなところを告白の場所になんか、するんじゃなかった……ぜ……」


 満たされたような笑顔を湛えたまま。

 彼は静かにまぶたを閉じ、動かなくなった。


「ソウシ……? おい、ソウシ!」

「ソウシくんッ!」


 どれだけ体を揺さぶろうが、もうその肉体が答えを返してくれることはない。

 彼の命はもう、この世から切り離されてしまったのだ。

 そこに、光が放たれる。

 霊が浄化されるときの、眩く暖かな光だ。

 その光の中から、人影が二つ浮かび上がってくる。

 一人はソウシで、もう一人は……ユリカちゃんだった。


「……悪いな。そういうわけで、俺たちは一足お先に退場させてもらうとするぜ。お前たちは……最後まで生き残れよ」

「ソウシ……」


 俺たちを寂しがらせないために、わざと軽い調子で話すソウシに、俺は馬鹿野郎、と呟いた。


「さよならです。皆」

「ユリカちゃんも……」


 二人は手を繋ぎ、幸せそうに互いを見つめる。

 そこだけを切り取ったのなら。本当に幸せに満ちた瞬間のようにも思えた。


「なあミツヤ。最後に一つだけ、お前に言っとくことがある」

「……何だ、ソウシ」

「お前を良く知る親友としての、忠告さ」


 忠告、か。

 他ならぬ親友の言葉なら、耳を貸さないわけにはいかないな。


「もしもお前が、ここで何かをしでかそうとしてるなら……俺がとやかく言う筋合いはないかもしれねえけどよ。……やめとけ」

「……はは。シンプルだな」

「きっとそんなことしたって、この悲劇の最後を飾るくらいにしかなりゃしねえ。お前はそれをちゃんと分かってるのに、目を瞑ってるんだろう」

「……さて」

「お前はただ一つのことしか見ていないのかもしれないが。お前を大切に思ってる人はすぐ傍にもいるんだ。悲しませたりするんじゃねえぞ」


 余計なお節介だ。そう口を挟みたい気持ちをぐっと堪えて、俺は最後まで彼の忠告を聞いてやった。

 答えを返すことは、しなかったけれど。


「……まあ、俺はお前を信じてやるさ。必ず、残った全員で生きて帰ってくれよ――」


 言い終わると、ソウシとユリカちゃんは仲良く手を繋いだまま。

 再び現れた光の中へとゆっくり歩いていき……そして、消えていった。

 残されたのは俺たち三人と、彼らが現世にいた証……肉体だけ。

 物言わぬ骸は、二つとも静かに目を閉じているのだった。


「……二人とも、逝っちゃったね」

「そうだな……」


 皆で生きて帰ろうと誓ったのに。

 もう、残されたのは三人だけだ。

 それも、よりによってこの三人とは。

 つくづく運命の悪戯というやつを、呪いたい気分だった。


「ねえ、ソウシは何を言おうとしてたんだろ? ミツヤ、心当たりあるんでしょ?」

「……さあ。あいつ、変に勘繰るところがあるからさ」

「ふうん……?」


 マヤは俺に、疑いの眼差しを向けてくる。無理もない、死に際――というか死んだ後のソウシから、あんな忠告をされたのだから。

 俺が何かを企んでいる。そう怪しまれるのは当然のことだった。

 ――でも。


「……一度、食堂へ戻ろう。ここにいたって気持ちが塞ぐだけだ」

「え、ええ……そうよね」


 すまないな、ソウシ。

 俺は……立ち止まるわけにはいかないんだ。

 皆がそれぞれ目的を持ってこの霧夏邸に来たように。

 俺にだって、どうしても成し遂げたい目的があるのだから……。

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