伍横町幻想 —Until the day we meet again—【ゴーストサーガ】

ホラー×ミステリ。オカルトに隠された真実を暴け。
至堂文斗
至堂文斗

序章に代わる二つの光景 ―降霊の夜―

公開日時: 2020年9月22日(火) 20:02
文字数:452

 夜。

 淀んだ空気の、閉ざされた部屋の中。

 蝋燭の火だけがそこにあるものを照らし、影を作る。

 その影の一つだけが、生命を宿し動いていた。

 

 もうすぐだ、と男は心の中で呟く。

 待ち望んだ結末は、もうすぐそこまで来ているのだ、と。

 だから、頁を捲る手は汗ばみ、震えていた。

 それがもどかしくて、男は髪を掻き乱した。

 床に座り込む男の前には、開かれた本が乱雑に置かれている。それらを代わる代わる見ながら、男は崇高なる儀式の準備を進めていた。

 そう――彼にとっては何ものにも代え難い、崇高なる儀式。

 男は、ようやく準備を終えて、溜息を一つ漏らした。

 それから、最後の仕上げに取り掛かる。


「黄泉の者達よ、聞き給え――」


 どうか……どうか。男は言霊に祈りを乗せ、唱える。


「――の御霊を呼び戻し給え」


 その瞬間。


 ――殺された


 男の視界いっぱいに、血を想起させるような赤黒い文字が現れる。それは男が目を鎖そうとも決して消えることはなかった。


 ――殺さ

  ――れた


   ――殺された



        た





 そして、世界は赤で満たされた。


 溢れ出した憎悪の海に包まれるように。

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