一番最近では、一ヶ月ほど前のことだったか。
ミイちゃんはオレに、七不思議の話を楽しそうに語ったのは。
「……だからね、七不思議がまた一つ増えちゃったんだって。あの像に触った人は死んじゃうんだとか……」
丁度その頃、校長先生の娘が病気で亡くなり、その人が毎日創設者の銅像を掃除していたため、噂が広まっていたようだ。
娘さんは元々病気を患っていたらしく、どう考えても因果が逆なのだが、七不思議を面白がる生徒たちが無理矢理付け加えてしまったという印象があった。
「しかし、七不思議なのに減ったり増えたりするなんて変な話だよな」
「そんなことないよー。いつまでも同じ不思議がある方がおかしいと思う。七不思議も、時間とともに変わっていくものなんだよ、うん」
「まあ……それもそうか。こっちの方が怖そうだから、前の話は取り下げて……みたいなのは確かにありそうだ」
「もー、ユウくんってば」
ミイちゃんが膨れっ面になる。そんな顔も可愛いのだが、本気で怒られるのは嫌なので、軽く謝っておく。
七不思議に対してどんな考えを持っていようが、それは個々人の自由だ。
「……ところで、今の七不思議はいくつあるんだっけ」
「えーっとね。一、二、三――」
ミイちゃんが指折り数えるのを、オレはぼんやりと眺めていた。
*
「ミイちゃんも、そういうオカルトを面白がる女の子の一人で、聞きたくなくてもちょくちょく話してきたわけです」
「へえ、七不思議かあ……」
学校にはよくある話だと思っていたが、ミオさんの通っていたところには、そういうものはなかったようだ。
「その七不思議の中に、屋上に現れる仮面の男というのもあったんですよ。どうやらそのドールって奴は、何度か目撃されていたみたいですね」
「なるほど。霧夏邸と同じくここも、あの男の研究場所だったってことかな……」
「まあ、そういえば実験がどうとか言ってましたけどね」
「うん。あの男は降霊術を研究して、何かをしたがっているみたいだから……」
霧夏邸という邸宅のことは知らないけれど、奴の研究場所に選ばれてしまったのはとてつもない不運というわけだ。
さながらこの空間に閉じ込められたオレたちは、飼育箱の中のモルモット、というところか。
「ところで、音楽室にも七不思議があるって言ってたけど、他にはどんなものが?」
興味を持ったようで、ミオさんは七不思議の詳細を求めてくる。
ただ、オレの方は興味がなかったせいで、あんまり内容を覚えてはいなかった。
「ううん、恋人同士で首を吊る部屋とか、夜になると異界へ通じる扉が開く部屋とか……七不思議って言いながら、多分まだ七つもなかったような気はします」
「話の内容としては、怖いものが多かった?」
「怖い……まあ、ソレっぽいなという感じはあったかなあと」
オレの言葉を受けて、ミオさんの表情がやや曇る。どうしてだろうと思っていると、彼は自らの考えを話してくれた。
「……もしもの話だけど。それが全部、本当に霊によるものだとしたら、この状況はちょっと危険かもしれないよね」
「……そうか。何せ、暴走しているわけですもんね」
さっき思い出した銅像の話は違うにしても、本物の霊が生んだ七不思議があるというのなら、事態は深刻だ。
七不思議の霊が暴走して、オレたちに襲い掛かってこないとも限らないのだから。
「はあ。空想、妄想だと思ってたのになあ……」
まさか霊や化け物に襲われるなんて経験をすることになろうとは。
生きていれば何が起こるか分からないものだ。
「とりあえず、七不思議のことにも注意して探索しなきゃいけないと思う。音楽室にも何かあるなら、その何かが僕らを襲ってこないか、気をつけないと」
「ええ、そうですね。十分警戒しながら、行ってみることにしましょう……」
七不思議の内容全てを覚えていたら、もう少し具体的な対応策も考えられるのだが。……今更ながら、もう少しちゃんとミイちゃんの話を聞いてあげるべきだったなと悔やまれる。
これを乗り切ったら。七不思議の話もちゃんと聞いてあげなくちゃな。
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