「だからね、介護をするんじゃないのよ。そういうのはプロの人がやってくれるみたいだし、体が不自由な訳じゃないからねえ。話相手というか、ちょっとしたお手伝いみたいなことをして欲しいの。だって九十才超えてるんだし、何かと心配じゃない? 近所の人の目もあるし……。本当は貴方に任せるのも申し訳ないんだけど、ほらセイちゃん今手が空いてるじゃない? 東京は家賃も高いし、体が弱いなら一度自然が豊かなこっちに引っ込んで来ればwin-winよね! 本当に良かったわあ……」
「はあ……」
マシンガンのようにまくし立てる伯母の運転する車に揺られながら、私は適当な相槌を打ち続けていた。
東京から電車で一時間くらい、そして車で十五分くらいの距離にある曾祖父が住む町は、東京近郊というよりは郊外で、なるほど自然が多い。家は少なく山は色濃く、畑や田圃が広がっていて、開け放した車の窓から土の匂いが入ってくる。
喘息ならともかく、貧血は綺麗な空気では治らないとは思うが、水を差すようなことはしなかった。
先日、一年と少し勤めた会社を退職した。退職理由は体調不良の為である。
残業が多めの、入社一年目の新米に即戦力を期待する会社だったが、給料は平均より高かったし、三年は今の会社で働いておけ、との巷に流布する言葉を信じ、多少無理して勤務していたら、見事に体を壊した。
取引先の会社で気絶して病院に運ばれ、少しの入院と休職を経てからの退職である。会社が悪いというよりは、職務が自分に向いていなかったのだと思う。
さて、貧血を起こしやすくなってしまった体を労りつつ在宅で出来る仕事を探そうとしていた私に、親戚伝いに「手が空いているなら曾祖父の世話をして欲しい」という頼みが舞い込んできた。
祖父母は既に鬼籍に入ったが、一人長命な曾祖父がいる。何か色々な商売をしていたらしい。骨董好きで身代を食い潰し、今は気ままな年金暮らしとのことで、私も幼い頃何回か会ったことがある。
いわば家の管理人兼住み込みの手伝いである。共働きの伯母は曾祖父と同居をしたがらず、さりとて近所の目が怖いというので私に白羽の矢が立った。
自転車で最寄り駅まで走れる距離だったし、一時間程度で都内に行ける上、生活費が浮くのは魅力的だったから、承諾した。
小太りな伯母から目を逸らし、外を眺めていると、時期に曾祖父の家が見えてきた。
基本的には和風建築だが、大正ロマンだか昭和モダンだかの意匠が雑多に組み込まれている、戦前から建つ古い家。その横には駐車スペースが、裏手には大きな土蔵がある。
「ああそうだ、あたしはこれで帰るから! おじいさんには電話で話をしてあるから、あとはおじいさんとよろしくね!」
車から下り、合鍵を貰い、さあ扉を開けようというところで、伯母が早口で暇を告げた。
「あの、曾祖父に挨拶くらい……」
「嫌」
おしゃべりで陽気な伯母のイメージからは信じられない、頑なな声だった。
伯母は真顔で言った。
「あたし、あの家入りたくないのよ。怖い。何か妙なものがいるの。いつも物音がするの」
…………心霊物件とは聞いていなかった。
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