「ほんなら、行ってくるわ」
朝の支度を終え、彼はバイト先の制服に着替えた。
相変わらず、トーストを焼くのが下手だ。
口に咥えたパンの表面がカピカピだ。
寝癖はついたままだし。
「じゃ、今日の7時ね」
「おう」
今日の夜7時に、天満川で祭りがある。
七夕の夜に、人々の願いを託した光の玉「いのり星」を、天の川伝説にゆかりの深い天満川に放流し、「天の川」を創造するイベント。
去年のこの日にも、彼と一緒に祭りに行った。
元々行くつもりはなかった。
祭りがあることも知らなかったし、彼は彼で、友達と遊ぶ約束をしていた。
夜が近づいていく街の下で、青白い空模様が、白い輪郭の月を追いかけていた。
何を話せばいいかもわからなかった。
どんな顔で、彼を見ればいいのか。
どんな言葉をかければいいのか。
難しくはなかったんだ。
それはきっと、簡単なことだった。
気恥ずかしそうに微笑む彼の横で、ただ、ありのままの自分を見せればよかった。
「ただいま」って言えばよかった。
あの日の天満川には、数えきれないほどの無数の光が、空に流れる星々のように光り輝いていた。
ネオンの中へ沈む雑踏が、誰かの足音を掻き消すほどに速く、——遠く、街の底を揺り動かしていた。
微かに残る夕陽のため息のような光線が、赤い縞模様をうっすらと伸ばして。
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