とりあえず、もみじとの戦闘で多少荒れた部屋を後にし、私達は誠一の部屋へと来ていた。
何があったか状況を説明するためだが、正直私自身よく分かっていない所が多い。
もみじの正体や目的。あの女は一体――。
「で、まんまと、あの痴女に預けた短刀を奪われた、と?」
「返す言葉もございません」
「それで、うちの末っ子を危険な目に遭わせた挙げ句、自分達の行為を見せつけた、と?」
「うぐっ」
かなり盛られているが、言い返す言葉が見つからないため、つい黙ってしまう。
「いち兄、誤解」
その時、初音が助け船を出してくれた。流石、可愛い方の妹分!
「百合姉とモミジ姉、いつもあんな感じ。よく身体、触ったり、密着したり、している。日常」
初音さんんんんんん!
そうかも知れないが、そうじゃない!
何とか訂正しようとするが、時既に遅し。
誠一は静かな怒りを瞳に宿し、静かに言った。
「お前達、警察署、出禁」
少しだけ初音に似た独特な口調で誠一は言った。
「ちょっと待って! い、今はそんな話をしている場合じゃないでしょ! 一体、何がどうなっているの? 私だって、知らない事だからで、混乱しているんだから」
「……」
誠一は腕を組んだまま、少しの間の後、喋り出した。
「まず、お前の助手の娘だが……そいつは釈放になった」
「えっと、つまり、小夜左文字の一件で、冤罪だって認められたって事?」
「いいや」
と、誠一は首を左右に振った。
「正しくは、被害届が無効になった」
つまり、あの坊やが被害届けを取り下げたって事だろうか。
「また、少し厄介な相手から、そこの娘を解放するよう申請があり、事件は有耶無耶になり、全てなかった事になった。つまり、迷宮入りって事だ」
「え? それって、根本の解決にならないんじゃ……」
それで機嫌が少し悪いのかな。
「あの、厄介な相手って、どなたですの? 一応、モミジが解放されたきっかけをくれた御方なら、モミジは知る権利があると思いますわ」
「……黄崎家だ」
苦虫を噛んだような顔で、誠一は言った。
「黄崎って事は……」
黄崎樒絡みか。
<原色>の一族の一つ、「黄」の一族。夜会ではこちらも痛い目に遭ったため、あまり関わり合いたくはないが。
そもそも、あの令嬢はモミジや初音を人以下呼ばわりし、身分差別が激しかった。
――なのに、どうして助けてくれたりしたんだろう。
「それから、今回の事は他言無用で頼む。世間一般的には、今回の事件そのものが起きていない事になっている」
「ええ、承知したわ」
まあ、華族の坊やを殺人未遂した挙げ句凶器候補にして『浪漫財』の短刀を警察署から盗まれたとなっては、警察的にも面目が立たないものね。本当にごめんなさい。
――小夜左文字、絶対に取り返してあげるからね。
「ですが、まだまだ謎がいっぱいですわね」
お前がそれを言うか。
腕を組んだせいで胸を持ち上げる格好になったモミジが、溜め息を吐きながら言った。あの胸やっぱり抉りたい。
「そもそも、何故警察内部に犯人の一味らしき人達がいたんですの?」
もみじの味方らしき男達の事か。初音に手を出したせいで誠一の怒りを買い、全員捕縛され――誠一からきつーい尋問を受けたと聞くが。
「アイツらは、元々警察だ」
「え? 侵入したんじゃなくて、本当に内部の人間だったの!?」
「ああ」
それで分かりにくいが機嫌が悪いのか。
「『もみじ』と名乗る女に、家族、或いは恋人を人質にとられて、やむを得ず、だそうだ」
「……!」
酷い事を。
「でも、確かにあの女ならやりそうね」
誠一いわく、彼らが協力した事は、一連の事件の進展具合や証拠が保管されている部屋までの案内や侵入の手伝い。現場でモミジが現行犯逮捕された時も、すぐに牢に入れられるように、冤罪らしく証拠の隠滅も行ったらしい。
「そういえば、あの坊やはどうなりましたの?」
「あ、そうだ。アイツ! よくも、うちの妹分に冤罪ふっかけてくれて……見つけたら、華族相手だろうとタダじゃすまさん」
「お姉様、”うちの嫁に手を出すなんて容赦しない”だなんて……モミジ、照れてしまいますわ」
「お前、本当にどういう耳してんの?」
私とモミジがいつも通り、そんなやり取りをしていると――誠一が静かに言った。
「その必要はないだろう」
「え?」
「何故なら、今回の被害者である沼倉良太は、死んだからな」
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