「だけど、妙ですわね」
ちょうど昼前の街路。
一番人が多い時間帯のため、いつもは外出は遠慮するが、善は急げだ。
私はモミジと初音に挟まれながら歩く。目立つ容姿の二人に挟まれるせいで、無用な注目を集めてしまい、歩きづらいが。
はぐれないように、初音は私の小指を掴んで歩いている。とても可愛い。
「モミジ姉。妙って、なあに?」
「……っ!」
あどけない表情で初音が問うと、モミジは目を見開いた。
見たか、初音の姉呼びの破壊力。私なんて初めて呼ばれた時、その場で頭から倒れ込んだわ。
モミジが初音の可愛さに昇天しかけている間に、私は彼女の代わりに初音に言う。
「あんたの店の刀は、確かに一目見ても分かるほどの古刀よ」
多分――いや確実に、『浪漫財』である事に違いない。
初音の祖父が申請していれば、彼女も華族の仲間入りだ。
「だけど、だからといって、偶然訪れた店で見つけた刀を盗むかしら。それも、人を使ってまで。妙に手が込んでいるっていうか」
それに、相手はあらかじめ初音の対策を練っていた。
初音の名前は知られているが、それは鍛冶職人としての腕であり、彼女の戦闘能力まで把握している人は数が限られる。
まるで、最初から初音がどういう血統で、どういう経緯で、あの店を守っているのか、知っていたみたいに――。
「ですが、お姉様」
あ、復活した。
「初音ちゃんの刀を取り戻すにしても、どうするつもりですの? 相手は初音ちゃんの刀を偽物にすり替えたんですよね」
「あら、そんなの簡単よ。私は、紅月姫百合。『紅月鑑定屋』の二代目主人よ。当然……鑑定にして、取り戻すに決まっているでしょ」
*
東京・金崎町。
時刻は、午後三時。
駅前では多くの人が行き交うが、彼――スバルすれば、田舎町の賑わい程度では人混みにすら入らない。
いつもなら姉と一緒に午後の茶の時間だが、今日はそれを断り、彼にとって宿敵にいる町まで足を運んだ。ちなみに、片道二時間程度かかり、そこそこ遠かったりする。
「まったく、二代目のやつ。この多忙な僕をわざわざ呼び出すのだ。大した用でなかったら、許さんぞ」
*
「はあ?」
開口一番。スバルは、間の抜けた声を漏らした。
場所は、待ち合わせ場所の、駅前の茶寮。
彼を呼び出した時は、本当に来てくれるか心配だったが――。
――まさか、本当に来るとは。
――まあ、スバルからすれば、私からの呼び出しなんて、宿敵から果たし状突き出されたようなもんか。
しかし、今日の用件は鑑定も紅月も関係ないので、彼の望むような展開にはならない。ごめんね。
「あら、スバルちゃん。聞き逃しましたの? 仕方ありませんわね。もう一度、言いますわ。今夜の夜会に同席してほしいんですの」
笑顔でいうモミジに、スバルは分かりやすく顔を引き攣らせた。無理もない。
「だから、何故そうなる!?」
「まあ、とりあえず座りなさい」
と、興奮しかけた彼を宥め、品書きを渡す。
「ほら、ここはお姉さんが奢ってあげるから。やっぱり西洋人だから紅茶?」
「子ども扱いするな!」
スバルは乱暴に品書きを取ると、一通り目を通した後、言った。
「塔洋菓子」
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