ダンジョンマスターの村人プロデュース

~裏切られた勇者はダンジョンにて村人を育成するようです~
砂鳥二彦
砂鳥二彦

18話

公開日時: 2021年6月12日(土) 06:50
文字数:1,462

 デニスとカンタンは相も変わらず、旗を持ったまま王国騎士団の前に立ちはだかっていた。


 デニスたちは王国騎士団らと一定の距離を保ちつつ、西の森に入る。西の森では王国騎士団も横陣を保てないと考えたのか。今度は円陣を組んで進んでいた。


「上手い用兵術だ。指揮官としては一人前以上だな」


 もしデニス側に腕の立つ兵士がいるなら、この森を使った奇襲作戦も考えられた。おそらく、王国騎士団長のヨーゼもその可能性を含んで奇襲に強い円陣を組んだのだろう。


 実際のところは、奇襲作戦ができるほど魔族の村人たちは歴戦の勇士ではないのだ。


 デニスはなぜかほくそ笑みながら、ダンジョンの入口へと戻った。


 ダンジョンの前では誰もいない。それどころか近くの村人の野営地ももぬけの殻だった。


「うしっ。迎え撃つ準備をするぞ」


 デニスはカンタンにそう提案し、ダンジョンの奥へと潜り込んだ。


 遅れて王国騎士団の軍勢もダンジョンの前に到着して驚く。なにせダンジョンの前だというのに立派な村ができていたからだ。


 王国騎士団は事態を飲み込めず村やダンジョンに斥候を放つ。すると王国騎士団は2つの事実に気付いた。


 1つは村はどれだけ声をかけても返答がないという話。そしてダンジョンの内部の情報はもっと重要だった。


 斥候らが一本道を進んで行き、中層の大部屋にたどり着くと、そこには思いがけぬものがあったからだ。


 それは城だ。いや、城というよりも粗野な野城といった風貌がそこにはあった。


 まず目に付くのは土作りの壁だ。どこも石造りにできていないものの、中層の大部屋を完全に横断して行く手を遮っている。


 そして土壁の間には1つ、急造らしき大きな木造の扉が固く閉じられていた。


 王国騎士団の斥候はこれ以上進めぬと判断し、背を向けて去って行ったのだ。


「諦めたのですか?」


「いいや、今度は本隊が城を攻めてくる。ただ攻城の準備に何日か時間をかけるだろうな。ヨーゼも魔族の城を攻め落とした経験がある。油断はするな」


 デニスは土壁の上で悠然と立ち、遠くを眺めるのだった。


 それから4日、特に相手の斥候がくる気配もなく、デニスたちはダンジョンの備蓄を確認していた。


「投石用の石が300個、落下式の岩は100個、木と石の投げ槍100本、鉄の斧50本、鉄の剣30本か。食料の備蓄はどうなっている?」


「村人の分を含めても1ヶ月はゆうにあるでござるよ」


「なるほど……」


 デニスは各自の報告をメモし、ダンジョンの現状を確認していた。


「これだけあれば十分過ぎるですね。いつでもかかってこいです!」


 エメは報告上がった見積もりに満足し、上機嫌だった。


 ただデニスの顔色は全然違った。


「まっっったく足りん!」


「ええっ!?」


 デニスの発言に周りの者たちは慌てた。


「城攻めには相手の3倍以上の兵力が必要だと言われている。だがそれは逆にいえば、守る側は敵の3倍以上の物資がないと防げないというわけだ」


「となると相手は200人ほどですから……」


「同数より少し上の備蓄だから、今の物資の2倍以上は欲しいってわけだ」


 そのうえこの城壁は土壁だ。その気になれば梯なしで登れるし、崩れやすい。


 しかも木造の門は打ち込んだ丸太に蝶番ちょうつがいを付けた脆い仕様だ。もし本格的な攻城兵器を持ってこられたらひとたまりもない。


「どどどどうするです?」


「作戦はある。ただしリスクは承知の戦い方だ」


 デニスは心配そうな顔をするモンスターたちを一望して、笑いかけてやった。


「守って負けるなら。攻めの守りだ。それしかない」


 エメやゴロウ、モンスターたちはデニスのその言葉を最初は上手く飲み込めなかった。

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