十一話 その後
ボルトン森林は岩壁に覆われ、よそ者を引き寄せない。それ故に未開拓のこの地には独自の自然が存在している。その自然の中、一際価値の高いモノとして有名なものがある。ここにはボルトン森林の特殊な自然を支える特別な木が生息している。名は水を吐くもの(ハイドロゲイン)、この木には特別な性質がある。それは発達した根で地中奥深くにある水源から水を吸い上げ、その水分を地中から外界の木の葉にて生み落とす。その生み出された水には浄化の効果と散魔=「魔力を跳ね返す力」があるという。これは知性ある魔物の中でも限られたものしか知らない。
そんな森で意識なく寝転ぶ二人の青年。傍には闇属性にて穢された死体が転がっている。その死体とはこの森で幾年もの昔から生息したと言う「暴猪」。そんな彼は無惨にも闇属性で穢され、殺されていた。水を吐くもの(ハイドロゲイン)は彼の亡骸に一筋の雫を落とす。
すると何処からか声が聞こえてくる。
「ご苦労様でした。」
それ透き通った女性の声だった。
なんだ?誰の声だ?
何者かの声を聞いたカーブは起き上がる。
「俺は一体、どうなったんだ、、」
「それにコイツなんでこんな怪我を、」
記憶がない、死蜘蛛と戦った後の記憶がない。
一人、頭を抱えるカーブだったが近くにある大きな遺体を目にし、驚愕する。
その遺体は無惨にも殺された暴猪だった。暴猪の皮膚は焼け、肉の焼けた匂いを漂わせ、ある皮膚は爛れ、腐り落ちている。そして口からは大量と吐血、この遺体には致命傷になりうる傷が多すぎる。さもこの致命傷の数々は同時期に起こった様にカーブはうかがえた。
「どうなってるんだ。」
この光景はカーブの頭をより混乱させる。
「早くここを離れよう。」
カーブは意識のないヴィタを担ぎ上げ、その場を後にした。
あれから数刻が過ぎ、日も落ち始めていた頃だった。
「お帰り、ずいぶん遅かったな。」
ディルックがボルトン森林の裏口にて待っていた。
「あんたのせいで俺もコイツも酷い目に遭った。」
「!!!」
ディルックは怪我を負ったヴィタを目にする。
「ヴィタ!大丈夫なのか!?」
「平気だ。息はしてる。」
「何があった、お前らの実力ならこの儀式も問題なくクリア出来るはずだ。」
「本気で言っているのか?俺らで暴猪を倒せって言うのか?」
「何を言ってる、暴猪は名前こそ知性のない獣と勘違いされるが下手なことをしなければまず狼人を襲うことはまず無い。」
「じゃあ、俺らは下手を打ったみたいだな。」
カーブはディルックに愛想なく答える。
「じゃあお前らは暴猪を倒したって言うのか?」
「それはコイツに聞けよ。」
ドサッ
カーブは背負っていたヴィタを落とす。
「いてっ!」
「少なくとも俺はアイツが死んだ瞬間を見てない。ヴィタなら見ているかもな。」
カーブは威圧的な態度でディルックを睨みつける。
「ヴィタ大丈夫か?」
「大丈夫なわけ無いだろう!」
「えらい目に遭ったんだ!蜘蛛は出るし、カーブは暴走するし、暴猪が襲いかかって来るし、えらい目にあったんだぞ!!」
「すまない、まさか暴猪が暴れ出すとは思わ無かったんだ。」
「見込みが甘いんじゃないの?」
「普段は本当に温厚な筈なんだ。昨日嵐でも起きて雷が落ちたわけでも無いだ。どうして暴れ出したんだ、、」
ちょっと待って今なんて?
「今なんて?」
「普段は温厚な筈なんだ。」
「いやそうじゃなくて雷がどうとか、」
「ああ、暴猪は雷が嫌いなんだ。昔ボルトン森林に雷が落ちて大きな火事になりかけたそうなんだ。それ以来暴猪は雷が鳴った日には暴走してしまうらしい。」
「おい、ちょっと待てよ。」
「どうしたんだ?一体、」
「じゃあ全部お前のせいじゃねぇか!」
ヴィタはカーブの顔面に膝を打ち込む。
「おい、喧嘩すんなよ、、」
「父さんは黙っててよ!」
「「何が貸しだ、」だ!最後に至っては全部おまえのせいじゃねぇか!」
コイツが雷属性で暴れたせいで暴猪が暴れ出したんだ。
「ふざけんな、俺のせいじゃねぇだろう!!」
「いいや、お前のせいだ!お前が雷属性なんか発現するからこんなことになったんだ。」
「何だって?雷属性?」
驚きのあまり話のあいだに入るディルックだったが白熱するヴィタとカーブの論争からは相手にされずそのまま会話は続いていく。
「それは俺のせいじゃねえだろうが!たまたま発現しただけだ!それにお前、あの時俺が助けなかったら今頃俺たちは死蜘蛛の腹の中だ!」
「うるせぇい!お前の力なんか無くても暴猪だって殺せるんだ。お前の力なんかいるか!」
「ほう?」
カーブの目の色が変わった。殺人鬼の目だ。
「じゃあ今ここではっきりさせるか?」
カーブは首をぼきぼきと鳴らしながら近づく。
「いいや待て!」
ヴィタが手を前に出し静止させる。
「何だよ。」
「僕の足を見ろ。」
そういうヴィタの足はプルプルと震え、今にも倒れそうだった。
「これはお前を助けるためにこうなったんだ、だから今はだめだ!」
「お前を担ぎながら走って逃げるの大変だったんだぞ?」
カーブはグヌヌとした表情の後に一言述べた。
「はあ、分かった。お前が指定した日時にやろう。」
「のった!」
プルプルと震える足をゆっくり前に動かし、カーブに近寄り、和解の握手をする。
「何とか丸く治った様だな。」
「ああ、この件はな。」
カーブはニヤリと笑う。
「えっ、」
すると突然ヴィタもカーブと同じように笑う。
「なあヴィタ、殺しても問題ないよな。お前の親父。」
「うん。僕は座って見てる。」
その後は体育座りをする僕の前でカーブが魔力切れになるまでディルックを攻撃し続けた。その間ボルトン森林からは荒れ狂う雷鳴とディルックの叫び声が響き渡った。
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*ヴィタ…主人公。青年期を迎え、毛の色は黒色へと変わり、闇属性を宿した。
*カーブ…ヴィタと同い年の青年。黄色へと毛色が変わり、属性は新しい属性である雷属性を宿した。
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