九話 黒い影
「ここは何処だ?」
「そうだディルックの奴に落とされて、、」
ぐるぐると回る頭を整理する。
「それで、、ボルトン森林の中か。」
そもそも父さんはどうして僕を連れてきたんだ?
いや、僕らか、、
隣を見ると僕のすぐそばにはカーブが倒れ込んでいる。落ちた時に打ちどころが悪かったのだろうか、まだ目を覚さないでいる。ここに落ちてからどれぐらいの時間が経っただろうか、日は落ち始めている。
やばいな、奴らが目を覚ます頃だな。
ガンッ
「おい、」
僕は寝込んでいるカーブの頭を蹴り上げる。
「っつ!何すんだ、」
飛び起きたカーブは起きて早々僕に噛み付く。
「起こしてやったんだ。それだけでもありがたく思え。僕からしたら何で僕を恨んでいる奴を助けないと行けないんだ。おこしてやったんど少なくともここを出るまでは協力しろよ?」
「うるさい、」
「何だよお前、可愛くないな。僕の奴隷を見習え。」
ちなみに僕の奴隷とは弱みを握っているアルバスとゼスの事だ。アイツらはいいぞ?何でも言う事を聞いてくれる。
「お、おい。」
「何だよ。ほら立てよ。ここは危ない奴が多い、早くを出るぞ。」
「遭遇する前にだ。」
「もう遭遇しているぞ!!お前の後ろだ!!」
カーブは声を荒げ、僕の背後を指差す。
「は?」
振り返るとそこにはカサカサと近づく大きな影があった。そこには僕の身長を優に超える大きな蜘蛛の姿があった。
「コイツデカすぎるだろ!カーブッ逃げるぞ!」
僕らは大蜘蛛を背に逃げる。
「うるさい、命令すんな!」
「並走するな!怖いから僕の後ろ走れよ!壁になれ!」
「指図すんな!」
「ほら後ろ走れよ!」
僕は並走するカーブを自分の後ろになる様に押しのける。
「壁にすんな!」
カーブは押されながらも立ち直し、再び僕と並走する形になる。
「お、お前、割と本気で俺を盾しようとするな!」
「仕方ないだろ!死蜘蛛(デットスパイダー)相手に戦えるか!」
「お前追いかけてる奴が何か分かるのか!?」
「ああわかるよ!」
「アイツが何なのか教えろよ!」
「じゃあ、その前にお前が盾になれ!!」
僕は再びカーブを押し除ける。
「ふざけんな!」
カーブは押し除けられながらも僕を捕まえる。
「おい、僕に掴まるな!アイツに追いつかれるぞ!」
「そんときはお前も道連れだ!」
「うるさい!僕を恨んでる奴と一緒にいられるか!離せよ僕はまだ死にたくない!」
「それは俺もだ!」
二人で足を止め、揉み合っているがなかなか蜘蛛は姿を現さない。
「あれ?あの蜘蛛何処に行ったんだ?」
「どうやらとうの昔に巻いていたらしいな。」
「そ、そうか、なあカーブ。」
「何だよ。」
「ごめん。」
僕は90度頭を下げて謝る。
「そんな一言で許せるか!!」
「まあいい、早くここを出るぞ。」
「お前、ここの出方は知ってるんだろ?」
「分かる。」
僕の目は明らかに泳ぐ。そんな僕を見てカーブは僕の胸ぐらを掴み上げる。
「本当のことを言えよ。」
「本当だよ!さっき無茶苦茶に走りすぎて自分が今何処に立ってるか分からなくなっただけだよ。あれだ、日が出て方角が分かれば帰れる!」
カーブは大きなため息をついた。
「じゃあ朝まで帰れないって事だぞ?」
「まあな。」
「まあなって、」
「おい待て、そもそも父さんがここに突き落としたのが悪い。」
「まだそれもそうか。」
「だろう?」
何とか自分の都合の悪い話は反らせたな。
「おい、ここから出るまでだぞ?」
カーブは不服そうにもそう言った。
「なにがだよ。」
「ここを出るまでお前に協力してやる。」
「そうか助かるよ。」
よかった。コイツは使えそうにないけど今は犬の手も借りたい所なんだ。
「じゃあ、あれだろ?壁になってくれるんだな?」
「お前殺すぞ?」
「はい、ごめんなさい。」
カサカサッ
僕らのすぐそばで死蜘蛛(デットスパイダー)の足音が聞こえた。
「おいっこっち来い!」
小声で囁くカーブに連れられ、咄嗟に二人がギリギリ入り込めるほどの広さの木の幹に隠れる。
「で、アイツらは何なんだ?」
「ああ、アイツらは死蜘蛛(デットスパイダー)って言ってな、牙と吐きかける蜘蛛糸を使って狩りをする生き物。牙には毒が含まれ、催眠効果のある毒で意識を失った獲物を巣に連れ込み一週間から二週間にかけて捕食する。」
「何だよその急な説明口調は、」
「本で読んだことを思い出しながら話したんだその顔はやめろよ。」
カーブは僕を変なものでも見る目で見ていた。
「あの蜘蛛は厄介だな。」
「うん。まああれだけじゃないけどね。」
「はぁ?」
「だってここ、ボルトン森林は崖に囲まれた盆地何だよ?出口を知らなければここを出られない。」
「つまりなにが言いたいんだ?」
キョトンとした顔をするカーブ。
「まあ、簡潔に言うと死蜘蛛(デットスパイダー)みたいな化け物しかこの森では生きれないってことだよ。まあ天然の罠だね此処は、弱肉強食とはまさにここの事。強いやつしか生き残れない。特に暴猪(ページボア)がやばいね。普通に死ぬね。ハハっ」
「何笑ってんだよ。」
「いやディルックの奴をどう殺してやろうかと。」
「お前の父親だろうが、、」
「こんな危険な所に落とす様な親は親じゃないけどね。」
「理由があるんだろ。考えろ息子だろ。」
「まあ心当たりがないと言えば嘘になるけど、、でもこれは君が該当するか次第だね。」
「何だよ。」
「カーブお前今日から青年期入ったろ?」
「ああ、今日でな。」
「僕もだよ。」
「じゃあこれだな、青年期は属性の発現が始まる。」
「でもそれとこれとは関係なくないか?」
「いいや、あってること思うよ。お前も半狼(ハルフ)に成る時変な儀式やらされたろ?それと同じだよ、多分」
「やられたな。あの時は親父に地下室に放り込まれたっけな。」
「じゃあこれは狼人の儀式だって言うのか?」
「多分ね。理由もなしに父さんは僕を危険な場所に放り込むわけが無い。」
父さんはそんな人じゃない。
「そうかよ。それでどうするんだ。ここで一夜どうやり過ごすんだ。」
「それはもう、、分からないよ。」
「お前なぁ、、」
カーブは僕を呆れた顔で見つめる。
「どうするか。」
ふと空を見上げるといつも間にか空には星が浮かび月が出ていた。夜空には光る月の光は僕らが身を隠す木の幹まで差し込む。
「まあ落ち着きたまえカーブくんとりあえずここで一夜を過ごそうじゃないか。」
僕は体制を崩し寝転ぶ。
「なぁ、おいお前髪色変わってないか?」
カーブが僕の頭を指差す。
「え?」
ハルフになってから毛の色は皆、青年期まで灰色で毛の色から変わることはない。変わるとすれば属性が発現した時、その時だけだ。
「何色?」
狼人の属性の判別は簡単だ。毛の色で判別できる。父さんの様な朱色の毛色の場合は火属性。青い毛色の場合は水属性。といった毛の色による判別が容易にできる。
僕は何色だろう?
「いや、一部だけだ。暗くてよくわからないな。」
「何だよ、早く言えよ。」
「うるさい!もう自分でみろよ!」
カーブは僕の生え変わった毛を引き抜いた。
「お前、やってること酷いぞ。」
「お前にさっき似た様なことされたけどな。」
むむ、そんなこと言われたら何も言えないよ。
「ほらもういいから渡せよ。」
カーブから手渡された毛を見るが僕もよく分からなかった。木の幹にいるせいか影で黒色にしか見えなかった。そして不意に手からこぼれ落としてしまった。
「おい!どっか言ったぞ!探せ!」
足元で探すか見つからない。
「もういいだろ、お前が属性発現しようが何も役にたたねぇよ。」
カーブは呆れ口調でそう言った。
「じゃあ属性発現したらお前一人で戦えよ?」
「・・・」
「もう寝るぞ。話してても腹が張るだけだ。落ち葉をかき集めて木の幹の間を埋めて一夜やり過ごそう。」
あ、コイツも話逸らしたな。
「そうだな。」
二人でガサゴソと落ち葉を集め木の幹を埋めていった。
「じゃあおやすみカーブ。」
「黙れ殺すぞ。」
なんかカーブと友達になれる気がした。
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*ヴィタ…主人公。あれから2年が経ち四歳を迎えた。
*ディルック…主人公の父親。大柄な朱色の狼で強く村の番人。人の姿に成ることは滅多に見ないが一度変体すると村では女性の悲鳴が鳴り響く。2年経った今は顔に酷い傷がある。
*アルナ…主人公の母親。青髪の美しい風貌をし誰にでも優しく村一番の人妻。スタイルは胸は無いが抜群のモデル体型。2年経った今でもその容姿には変わりはない。
*カーブ…ヴィタと同い年の青年。前の戦争で父を失い、人間と当時弱かった己と父を守れなかったディルックを恨んでいるようだ。
*アルバス・汚い朱色の狼人(ワーウルフ)で双子の兄。普段は横柄だが、権力、金にめっぽう弱い。2年後たった今では立派なヴィタの奴隷。
*ゼス・アルバスの双子の弟で見た目はアルバスによく似ている。そしてヴィタの母親のアルナに好意を抱いてる。根は真面目で優しい性格をしているがアルバスに悪い影響を受けている。2年後たった今では立派なヴィタの奴隷。
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