七話 青年期
バシャッ!
「おいフィン!!早く仕事につきやがれ!」
男が藁山で寝る青年に水を掛けた。
青年の首からは首輪の紋様が光りを帯び始める。
酷く汚い馬小屋で俺は目を覚ました。目を擦りながらが体を起こす。その自分の体からは水が滴り落ちる。
「はい、親方。」
「たくっ、先に俺は工房に行ってるからお前は薪割りを早く終わらせろ!!」
「はい。」
そういうとブツブツと文句を言いながら男は俺を後にした。
俺は途中、工房に並ぶ斧を適当に手にし、外で脇割りを始める。
今日は何だか忙しそうだ。
俺がそう思った理由はいつもよりも工房の火入れの温度が高かったからだった。
いい取引先でも見つかったのか?
ここは武具を製作する「黄良金波(おうりょうきんぱ)」。この国では有名な鍛冶屋だ。そして火入れの温度が高い日ほど武器生産の注文が多い。
「おいフィン!今日から少しの間忙しくなるからお前もシャキッとしろ!!」
男の怒鳴り声が外に響き渡る。
次の瞬間、再び少年の首からは首輪の紋様が浮かび上がる。
「はい、」
そうしている間に薪割りはひと段落ついた。
「親方、次は何をすればいいんですか?」
「終わったか、まずこっちにこい!」
「今日は剣の作り方を教えてやる。」
「親方、それは俺に教えていいことでは無いのでは?」
「良いんだよ、今回は人手が足りん。」
「はい、分かりました。」
ここはさっきも言った通り、町では有名な鍛冶屋、工房には冒険家、騎士団、貴族の誰もが望むえり抜きな武具が並んでいる。この武具の全てはこの男が作り上げたものだ。この男は天涯孤独、家族は疎か親しい友人の一人もいない。その命の全て武具に注ぎ込んでいる変わり者の天才だ。
だから黄良金波(おうりょうきんぱ)弟子入りを望む若者は少なく無い筈、なぜ俺にそれを望むのだろうか?
「おい、早く来い。」
「はい。」
「じゃあ行くぞ。技術は見て奪え!」
親方は溶かされた鉄を叩き上げあっという間に剣を作り出す。
「じゃあやってみろ!」
「すいません親方、よく分からなかったです。」
「フンっ!そんなの当たり前だ!一度で俺の技術を奪われてたまるか!」
「まずは一度挑戦してみろってことだ。」
「分かりました親方。」
「じゃあ始めろ。」
そう言い渡され俺は熱された鉄にハンマーを叩き上げる。出来上がったものは奇形の剣。これでは人を痛めつけることは出来ようとも命を刈り取るには難しいだろう。失敗だ。
「すみません、失敗してしまいました。」
男はその剣を見て何も言わなかった。
どうしたんだろう?
「ティアブル殿!お時間は有られますか?」
声を上げた何者かが工房の扉を叩く。
「騎士団の犬っころどもが勝手に鍛冶屋にはいるんじゃねぇ!」
「それは申し訳ないティアブル殿、急ぎのことづけだったので失礼しました。」
「何の様だ、今は忙しい、ことと次第によってはお前をここから叩き出すぞ!」
男は吊るされていた斧を手に取る。
「今回伺ったのは注文していた。武具に関してのことなのですが。」
「それが何だ、ちょうど今取り掛かってるところだ。」
「申し訳ないが、さらに追加で200程武具の製作をお願いしたい。」
「ふざけんじゃねぇ!そんなぽんぽんと俺が注文を受けるわけないだろうが!」
「申し訳ない、ですが騎士団はティアブル殿にしか頼めないのです。お願いいたします。」
親方はグヌヌと顔を顰め、断りそうにしていた、、
「納期は伸ばせるのか?」
「申し訳ございません。納期は早められません。」
男は慎重な面持ちをした。
「急だな。」
「はい。」
「規模は、どれぐらいだ。」
「およそですが高魔のレベル3の種族が9つほど、でもあくまで奇襲作戦です。」
「辞めておけ自殺行為だ。」
「そんな奴らに無謀にも挑む能無しでは無い筈だぞ。騎士団はな。」
「我々も分かっています。しかし今動かねばいけない事例なのです。」
「英傑は今は動けないぞ?そうしたら危機に陥ったお前らを助ける奴は誰もいないぞ!」
「はい。」
「最悪だな、」
男は大きなため息をついた。
「分かった受けよう。」
「有難うございます。」
「では失礼します。」
「ああ、」
「あ、一つ言い残したことが、その奴隷は捨てて女の奴隷にしては?」
「うるさい、黙って失せろ。」
「ハハッでは、失礼します。」
騎士団の男はここではよくある面白くもない奴隷ジョークをし、去っていった。
「おいフィン早く仕事に取り掛かるぞ。」
「はい親方。」
「はぁ、忙しくなっちまった、」
その日町外れにある工房から、火が消えることは無かった。
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「ヴィタ!組み手の時間だ!」
窓の外から父の声が聞こえる。僕はすぐに読んでいる本を閉じる。
「待っててすぐに行くよ、父さん。」
僕は本を机の上に置いた。
その本の題名は「ルイ王国一般言語」と記されてる。
「おはようヴィタ。」
「おはようアルナ。」
「全く、今日も精が出るわね。」
呆れ顔をしながらアルナは会話を続ける。
「まあね。行ってきます。」
「フフッいってらっしゃい。」
あれから2年が経った、今でも母さんは変わらずとても綺麗だ。もちろん父さんも変わりはない、顔の傷を除いてはね。
「よし、やるかヴィタ!」
父さんは両手に鋼の小手をつけ、庭で待っていた。
「はは!何さ、小手を新調でもした?」
「お前相手だと皮の小手では申し分無いからな。」
「じゃあ始めるぞ!」
「おうよ!かかって来い!」
訓練が始まった。
ディルックは鋼の小手で覆われた拳で僕の顔面ストレートに放つ。その拳は僕の頬を掠める。既の所で交わしたが体制を崩したその隙にディルックは僕の鳩尾を右足で蹴り上げる。
「うっ、」
「ヴィタ!良いのが入ったぞ?もう終わりか?」
「まだまだ。」
僕はディルックの足を掴む。
するとディルックは追い打ちをかける様に追撃を仕掛ける。
ガキっ!
次の瞬間生々しい音と共にヴィタの左足がディルックの顔面へと放たれた。
「これ何回目だよ父さん!」
「つっ、相変わらず良いの持ってるな。」
「近接戦は父さんだけの得意分野じゃ無いからね!」
「何言ってんだヴィタ!お前はまだまだだ!」
ディルックは再びヴィタに殴りかかる。
「いいよ!また良いカウンター合わせてあげるから!」
この様にディルック家では日々庭で肉弾戦が行われていた。
「はぁはぁ、疲れた。」
「ヴィタは体力がないな。」
「無茶言わないでよ。もう一時間は経ってるよ?」
「ははっ、何言ってんだ。半刻は戦える様にならないとダメだ。」
「ははっ」
めんどくさいな
「おいヴィタ、今「面倒くさい」とでも思ったろ!」
「いーや、」
バレたか、、
「嘘をつけ。」
「まあね」
「全く、、そう言えばここ二年間訓練一度もサボってないな、どうしたんだ?」
「うーん、まあある程度は強くいてあげないと父さんと母さんが心配かなと、、」
「ははっ、何心配してるんだよ。何かあったら俺たちが守ってやるから心配すんな。」
父さんは笑いながら僕の頭を撫でる。
「はいはい、」
「よし!立て!」
「あい。」
「これで訓練は終わりだ。」
「やった。」
僕は家の中へと駆け出していく。
「背伸びたな、」
ディルックが僕の後ろでぼそっと言い放った。
「ん?まあね。」
確かに背は伸びたな、2年前は140cmぐらいだったけど今はもう170cmはあるかな?やっぱり狼人(ワーウルフ)は成長が早いな。それに今日で四歳、青年期に入る。もう時期か、、
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*フィン…若い人間の奴隷。
*ティアブル…黄良金波(おうりょうきんぱ)の店主、天才鍛冶屋で彼が作る武具には魔力が宿ると言われる話がある。
*ヴィタ…主人公。あれから2年が経ち四歳を迎えた。
*ディルック…主人公の父親。大柄な朱色の狼で強く村の番人。人の姿に成ることは滅多に見ないが一度変体すると村では女性の悲鳴が鳴り響く。2年経った今は顔に酷い傷がある。
*アルナ…主人公の母親。青髪の美しい風貌をし誰にでも優しく村一番の人妻。スタイルは胸は無いが抜群のモデル体型。2年経った今でもその容姿には変わりはない。
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