一話 階段
拭いきれぬ罪悪感を背に僕は学校へと向かう。ギラギラを指す太陽の光は、より一層僕を不安にさせる。僕の体からは変な汗をかいているのがわかった。
「どうしてこうなってしまったんだろう。」
自らを刺し照らす太陽を見て、僕はこれまでの記憶を辿る。
今回死んでしまった〇〇は僕の高校のクラスメイトで初めのうちはクラスの中心人物に位置する人だった。でも〇〇は嫌な奴だった。それは死んでしまった人だとしてもこの考えは変わらない。
なぜなら僕は彼から軽いイジメを受けていたからだった。毎日だるい絡みをしてきたり、しまいには背中を殴りくけるという暴力的なことをされていたからだった。でも彼自身その自覚は無かったのかもしれない。よくある男同士での面白くない「ノリ」を演じていただけなのかもしれない。でも確実に僕の中にはフツフツと湧き出る怒りは溜まっていった。そんなある時、いつものように〇〇が挨拶がわりのパンチを僕の背中に与えた時に怒号が響き渡った。一瞬、意図せず僕が怒りのままに叫んだのかと思ったがそれは違った。
いつものように殴られる僕を見てクラスメイトの1人が〇〇に掴みかかっていた。それが円滑に回っていたクラスの歪みを生んだ。
怒号をあげた1人のクラスメイトはいつも〇〇と一緒にいる××だった。〇〇は少し驚いたのか「落ち着けよノリだろ?」とかほざいていたが、××は止まらなかった。「いつも見てきたが胸糞悪いんだよ。お前に同じことしてやろうか?」怒りに満ちたそんな××の言葉に圧倒されたのか〇〇は僕に「悪かったよ」と一言いいその場はおさまった。でもそのままでは終わらなかった。次の日から〇〇はクラスメイトから無視されるようになった。僕も××も他のクラスメイトも、彼の悪行を知っていたが行動にだせなかった生徒が皆、彼に刃を向けたからだった。その後は階段を落ちるようにコロコロと〇〇の立場は無くなっていった。初めのうちは無視、次に物を隠す、そして暴力へと彼が僕にしていたエスカレートした「ノリ」のように一瞬で彼へのいじめが始まった。初めのうちは困惑していた気弱な生徒もいじめに加わり、クラス一丸となって彼をいじめていた。気弱な生徒もまた〇〇にこき使われ暴力を振るわれていた事の恨みなのか彼を酷く扱った。僕はその時見ていただけだった。何も言わなかった。止めもせず見ていた。彼が壊れていく様をただ見ていた。何度も彼は救いの手を僕に求めてきていた。でも僕は怖かった、めんどくさかった、関わりたくなかった。この負の流れのを逆流を起こしたくなかった。この時何度も思った「僕って弱いなぁ」と
「あのすみません。」
びっくりした。急に背後から声をかけられる。
後ろを向くと40代ぐらいのおばさんが立っていた。
「はい、どうしましたか?」
僕は無理をして気さくに返答する。
「△△高校ってこちらの道であっているのでしょうか?」
ああ学校関係者か、
おばさんは正面にある太い道を指し、僕に尋ねる。
「はい、あってます。この細い道に入らなければ着きます。」
おばさんは大きなボストンバックを手に抱えている。
「足元に木の根があったりするので足元に気をつけてください。」
「ありがとうございます。助かりました。」
「いえいえ。」
おばさんは僕に軽くお辞儀をして足早に去っていった。
その後は考えにふける間もなく僕の通う高校へと到着する。
校門にはマスメディアなどの記者やどこかのアナウンサーがテレビの中継をしていた。僕はそんな人らを足早に抜き去り学校内へと足を踏み入れた。
少し肩の力が抜け自分のクラスの下駄箱に行き、校内用のサンダルに履き替える。その時僕は周りの視線に気づいた。少し考えれば当たり前のことだった。いじめによって自殺者が出たクラスの人間を見ない方がおかしい。周りの視線は僕を犯罪者を見るように睨みつける。自分の通う高校の評判を落とし、悪評としてマスメディアに取り上げられ、不満に思わないはずもない。
僕は俯きながら彼ら彼女らの視線を掻い潜り自分の教室の前に立った。ドアの窓から教室の中を伺う。中には僕以外の人間が揃い、張り詰めた空気の中皆前を見つめていた。僕は素早くドアを開け自分の席へと着いた。震える手を膝に置き、姿勢を正す。そこで初めて前を見た。
そこにはさっき道を尋ねてきたおばさんが立っていた。
えっ、どうして、、
既視感があった。さっき道を尋ねてきた時から、でもここで確信した。この人は朝のニュースと泣きかけんでいた〇〇の母親だ。全身の血の気が引いていくのを感じる。青ざめた顔を下げ下を向く。
サッサッサッ
足音が僕めがけて近づいてくる。
その足音は僕の髪の毛を掴み上げ、僕の視線と合わせる。
そこにはおばさんの顔をが目の前にあった。
一言おばさんは尋ねた。
「あんたも息子の死と関わっているの?」
「はい。」
「そう。」
そういうとおばさんは僕の髪の毛を離し、教卓に立った。彼女はボストンバックから何か取り出し、僕たちに語りかける。
「あなたたちに息子を返せとは言いません。私があなたたちにどう言おうが息子は帰ってこないから、でも息子の手紙で貴方達が私の息子をいじめていた事を知っています。酒井剣優、息子の手紙にはコイツだけは許してほしいた書いてあったのよ。でもね、みんな死んでちょうだい。何故なら貴方も含めて息子を殺したのだから。」
「すみません、許してください!!」
「助けて!!」
「お願いしますお願いします。」
「罪を償うから許して!!」
「俺はやってない、やってないんだ、無実だ!!」
な、何が起こっているんだ!
クラスメイトが皆大声をあげて懇願する。
カチッ
ピピピーピピピーピピピー
おばさんのボストンバックの中から音が鳴る。
「皆死んでちょうだい。」
「イヤァーー助けて!!」
「お願いします、お願いします。」
「俺はやってないって!!」
「おかぁーさん、」
「許してくださっ
次の瞬間、爆風が僕共々吹き飛ばされる。僕壁へと叩きつけられる。
「ウーーーーーーーーー」
僕は響き渡るサイレンの音で目が覚める。薄れゆく意識の中で僕の目に映ったものは、クラスメイトの残骸とおばさんの頭部だった。
ど、どうして、、あぁぁぁぁ
声を出そうにも出せない、息が吸えない、息を吸おうとするとヒューヒューと音が鳴り、ビチャビチャと僕の体から血が流れ出る。
僕は最後の力を振り絞り近くに転がるモノを抱き抱える。
ああ、もう疲れた寝よう。
僕は瞼を閉じた。
永遠に。
「おい!誰が生きてるか!!、」
「なっ、なんて事に、、」
「とりあえず息をしているものから処置をしろ!まだ助かるかもしれない!!」
「は、はい!」
「くっどれも酷いな、」
「なっ、これは、」
助けにきた救急団員が見たものとは下半身のない遺体が人間の頭部を抱き抱えるという異様な光景だった。
「以上が本日のニュースでした。ご視聴ありがとうございました!!」
最後ににっこりとキレイなアナウンサーが笑った。
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