八話 持つ者、失った者
「ヴィタに合わせたい奴がいるんだ。」
本を読む僕にディルックが話しかける。
「誰?」
「お前と同い年の奴だ。」
「そう?じゃあ連れてきてよ、僕はここで本を読んで待ってるよ。」
僕はまた読書を始める。するとディルックは僕の本を奪い上げる。
「何だよ。会うから連れてきてよ。」
「ついでだ、行くところがある。」
行くところがあるって、何だよ。
「分かったよ。」
ぼくは気だるげに立ち上がり家を後にした父の背中を追う。
「で、どこまで行くのさ。」
「ボルトン森林だ。」
「え?あそこ危険区域とかじゃなかった?」
「まあな、」
ボルトン森林とは狼人(ワーウルフ)の生息区域であるカース領の北東に位置する森林で普段狼人(ワーウルフ)は足を踏み入れない場所である。そんな森は人からは暴猪(ページボア)が生息している区域とされ、危険視されているとか。
「何でまた?」
「まあついてからのお楽しみだ。」
なんかこの会話に既視感があるような、、、
「ここら辺で待ち合わせしているはずだ。」
「父さんの言う僕に合わせたい奴?」
僕たちは村でてすぐの裏山には行ってく、この裏山の先にボルトン森林の入り口があると言われている。
「ああ、多分もう来ている頃だ、ヴィタ周辺を見て回ってくれ。」
周辺って言われてもな、周りには木しか無いんだが
「分かったよ。」
僕は周囲の探索を始めたが中々見つからない。
もしかして父さんバックれられたのか?
僕は周囲見ているはずがいつの間にか身に覚えのある場所に来てしまっていた。ここは周囲を一望できる綺麗な場所、そして彼女が眠る場所。僕の目の前には墓標が建っていた。
あれからもう2年か、彼女の死を目の前にしてこの世界の残酷を知れた、家族の気持ちも知れた。僕は改めてこの墓の前にいるとただただ立ち竦めることしかできなかった。
「何やってんだ僕は、」
僕は彼女の墓で手を添える。これは彼女からしたら自分を殺した男の息子が自らの墓で手を合わすと言う無礼極まりないことなのだが、今彼女の存在を知っているのは僕だけなのだ。誰かが彼女の死を敬わなければいけない。
「勝手ながら失礼しました。」
そうして僕は墓を後にしようと振り向いたその背後には、僕を睨みつける青年が立っていた。
うぁっ!びっくりした。
「何も言わずに背後に立つなんて失礼な奴だな。お前の父さんの言ってた僕に合わせたい奴か?」
「・・・」
何とか言えよ。
「お前は誰の死を目の前にしたのか?」
その青年は墓を指差し僕に問いかける。
「ああ、だから何だよ。」
「羨ましいよ。」
「なんなんだよお前。」
この青年の目を見ていると僕の背後にある彼女の墓が薄ら笑いをしている様な気がした。
「俺は父さんの死に立ち会えなかった。そばにいたのは俺じゃなくてお前の父親だったからな。」
「何を、」
するとその青年は目の前にある彼女の墓を蹴り上げた。
「お前だけが感傷にひたんじゃねぇ!俺の父さんは遺体すら見つかってない!だから俺は何かの前で悔やむことも出来ない!何のに、お前は!何も奪われていないお前だけが!」
何度も何度も、彼女の墓を足蹴にする。
「辞めろ、次蹴ったら殺すぞ。」
その青年の首に爪を突き立てる。
「やってみろポンコツ。」
「お前あれだろ?逆恨みだろ?」
「だまれ。何も知らないくせに」
「父さんは人に恨まれる様な人じゃない。理由はそれだけで十分だ。」
「うるさい。」
「それにお前のその行動に答えは出てる。恨んでいる父さんではなくまだ弱い僕を責め立てるなんて、理性の働いてる臆病者が僕に父を語る資格があるわけないだろ。」
「あと教えてやるよ。本当に恨んでる奴はな、何も恐れないんだよ。だって命を刈り取るなんて女子供でも死に物狂いで殺しにかかれば誰だって殺せるんだから。」
「殺してやる。」
青年は憤怒の怒りで僕を睨みつける。
「俺を恨むなんてお門違いも甚だしい。」
「来いよ。」
「辞めろ!!」
僕と青年の間に入り、ディルックが僕らを静止させる。
「もう終わりだ。先を急ぐぞ。」
「うるさい!離せっ!」
青年はディルックの手を振るい払い森の中に入って行った。
「先に行ってろ!今度は探させないでくれよ!」
ディルックはそう青年に言い放った。青年は何も言わず森の中に消えていった。
「あいつ、何なんだよ父さん。」
「悪いな、、」
「何なのさ、父さんも、それにアイツはなんで父さんを恨んでいるの?」
「ああ、それはな、前の戦争でアイツの父さんを守れなかったんだ。」
ディルックは頬にある大きな傷跡をなぞる。
「父さんは悪くないよ。戦争なんだし誰が死んでもおかしくない!父さんも大怪我をしてたんだ。」
「それで、家族を失った人が納得すると思うのか?」
「うん。」
「お前は強いな。でもカーブはそうじゃなかったんだ。たった一人の家族を失って心が黒く染まってしまった。決してアイツが悪いんじゃない。弱くもない、ただ今は時間が必要なんだ。」
「ごめん父さん。言いたいことは分かったけど納得はしないよ。僕がそれを受け入れたら父さんを悪者にしている気分になるから、」
「そうか、」
「で、アイツと友達になれそうか?」
急に突飛しもない事を言う父さんに少し笑みが溢れだ。
「無茶苦茶だね。」
「ははっまあな。辛いことがあっても友達がいれば何とかなるからな。」
「で、なれそうか?」
「ははっ、無理。」
「だよな。」
「うん。」
そうして僕たちはボルトン森林へと足を踏み出した。
どうやら到着した様だ。
「ここ?」
ボルトン森林とは崖の下にある巨大な窪地に生い茂る森林ことだった。
「ああ、この下がボルトン森林だ。」
下を見ようと崖の隅に立つとパラパラと下へ足場の砂が落ちていく。
あぶないなここ、
「カーブ、ヴィタ、近くにこい。」
近寄るとディルックの右腕、左腕に捕まった。
「何だよ。」
「・・・」
「じゃあ明日の明朝までには帰ってこい。」
「ん?」
「今なんて?」
「あと喧嘩すんなよ。」
ドンッ
僕らは背中を押され、崖の下へ落ちていく。
「あれ、まって、これ、死ぬ!!」
と怯える僕。
「うああああああああああああ」
と叫び散らかすカーブ。
そうして二人は落ちていった、最後に体にとてつもない衝撃が走り、そこで意識が途絶えた。
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*ディルック家*日常編*
日々家で本ばかり読むヴィタにアルナが呆れながら話しかける。
「ヴィタ、あなた友達を一人でも作りなさいよ。」
「いやいるって、」
「どこのこの子よ言ってみなさいよ。」
「アルバスとゼス。」
「同年代の子よ!」
「何でまたあんなおじさん達と仲良くなってるのよ!」
普段白い肌のアルナだったが顔を真っ赤し染めて声を上げる。
「何でって、言う事聞いてくれるから。」
「全くもう!!!」
「今日はご飯は抜きよ!!」
「なんだだーーーー!!」
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*ヴィタ…主人公。あれから2年が経ち四歳を迎えた。
*ディルック…主人公の父親。大柄な朱色の狼で強く村の番人。人の姿に成ることは滅多に見ないが一度変体すると村では女性の悲鳴が鳴り響く。2年経った今は顔に酷い傷がある。
*アルナ…主人公の母親。青髪の美しい風貌をし誰にでも優しく村一番の人妻。スタイルは胸は無いが抜群のモデル体型。2年経った今でもその容姿には変わりはない。
*カーブ…ヴィタと同い年の青年。前の戦争で父を失い、人間と当時弱かった己と父を守れなかったディルックを恨んでいるようだ。
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