「いい? 開けるわよ? アルファは防護スーツ、オメガは外部大気用ラッピング、それぞれ装着できてるわね?」
「はい!」
「準備完了です」
その日ははじめての地下都市の外への外出訓練だった。
あらゆる障害を想定して万全の体制で望まねばならなかった。
「エアロック操作して」
「了解、都市側エアロック閉鎖完了、外部大気への置き換え開始します」
二重構造のエアロックが操作され、外部大気へと置き換えが始まる。数十秒ほどの間にエアロックの内部の大気は澱んでいく。
「エアロック準備完了。外気側エアロック開放します」
外へとつながる扉が今こそ開けられたのである。
――ゴオォン――
重い音を響かせて扉が開いていく。外部へとつながる唯一の扉だ。
電動式の移動用車両に乗り、3人は外へと向かう。運転するのはオメガの役目だ。
そして――
――アルファはその光景に絶望した――
言葉をなくして呆然としている。それから数分ほどしてようやくに言葉が発せられる。
「これが外の世界?」
アルファが〝現実〟を目の当たりにして発したはじめての言葉だった。
「生命は特殊奇形化したものを除いてほぼゼロ、大気の汚染度もレッドゾーンです。スーツなしでは通常の人は1分と持たないでしょう。わたしやアルファなら1時間位は持つでしょうけれど」
オメガが冷静に分析する。それもまた残酷な現実である。
紫暗く淀んだ雲が行き交う空。
赤く焼けて錆びきった大地。
海は無く、海岸線ははるか先まで後退している。
緑もなく、あるのは枯れてくちた残骸が僅かに――
それはまさに〝死の世界〟
――これにアルファは立ち向かわねばならないのだ。
現実を知った。
そして恐れた。
「無理だよ」
それがアルファが外の世界を見て口にした結論だった。
予想できた事態だった。その女性も覚悟はしていた。
移動用車両がエアロックへと戻ってくる。沈んだ表情のアルファとその女性の様相に誰もが事態の深刻さを即座に理解した。
何も問えずに、黙々と受け入れ作業が進む。
エアロック内の大気が入れ替えられ、そのまま3人の洗浄工程が始まる。
そして、地下都市内部側へと移動し、防護スーツを外していく。
呆然と佇むアルファに誰も声をかけられない。
蒼白の表情の彼女を前にして動いたのはオメガであった。
「彼女と二人きりにしていただけませんか?」
オメガの求めに皆が戸惑った。その女性が真意をただす。
「どう言うこと?」
「私がアルファと話してみます。お時間をいただきたい」
それは常にアルファと時間をともにしていたオメガだからこそ出せる言葉だったのだ。
「いいわ。好きになさい」
「ありがとうございます」
オメガから礼が口にされる。そして、二人の対話が始まった。
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