アルファとオメガ、二人の姿はアルファのために用意された生活スペースの中にあった。
白い室内の中にソファーが一つ。アルファをそこへと座らせると、オメガは片膝をつき視線を下げてアルファと同じ目線になり語り始める。
「アルファ」
「………」
オメガの問いかけにアルファは答えない。それでもオメガは問いかける。
「私にあなたへ提案があります」
「提案?」
「まずは外の光景は忘れてください」
「――無理だよ」
アルファがか細い声で答える。
「心に焼き付いて怖くて仕方がない」
「そうですね、私もです」
オメガがもたらしたその言葉、アルファに驚きをもたらした。
「え?」
「表情を浮かべないので本心が周りに伝わりにくい。ですが私にとってもあの外の光景は恐怖以外の何者でもない」
そしてアルファは気づく。
「あ――」
オメガがその本心を言葉以外で伝える術を持たないということに。
そしてアルファは思い知る。
オメガは強いのではない。強く見えているだけなのだと。
「……ごめんなさい」
「何を謝るのですか? あなたは悪くない」
そしてオメガはつぶやいた。
「悪いのは――」
だがそれ以上は声として聞き取れない。オメガは話題を切り替えるように新たに声を発する。
「アルファ、私から提案があります」
「え、提案?」
不思議がるアルファにオメガはつげた。
「〝コンサート〟を開きませんか?」
「コンサートって――なに?」
アルファが不思議がるのは当然だった。もうすでにその世界では行われていなかった物なのだから。
「かつてこの星で存在していた文化的行事の中にあった行為です。多くの人々を集めて、その人達の前で歌うのです」
「歌う? だれが?」
「あなたです」
シンプルにして明快な答えだった。
「今、この世界で歌声を持っているのはあなただけです。そのあなたが人々の前に立ち、歌声をもたらすのです」
「私が――歌う?」
「はい」
「みんなの前で?」
「はい、そのとおりです。必要な準備は私がいたします」
その言葉は励ましだった。あまりに明快すぎる励ましだった。そして、アルファは決断する。
「わかった。やってみる」
「それでいい。いきなりこの世界のすべてを変えるなどというのはあまりにも無謀すぎる。ですがこの地下都市の中でなら――」
その言葉の意味をアルファは感じとる。
「わかった。今の自分でできることから――だね?」
「そのとおりです」
そして、オメガは立ち上がりながらアルファへと右手を差し出す。
「二人でやってみましょう」
「うん」
ようやくにアルファは笑った。オメガの右手を握りしめ、ともに立ち上がる。
そして、彼女は笑顔を取り戻したのだ。
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