うだつの上がらないエッセイ集(2)

思いつきで気楽に更新します。基本的に一話完結なので、お好きなページをご覧いただけると嬉しいです。
月澄狸
月澄狸

偽善者とスッポン

公開日時: 2022年1月8日(土) 17:59
文字数:947

 私は、生き物を悪口に使われたり、見下したような言い方をされるのが苦手です。「まるで豚だ」とか「そんなことでは猿と同じだ」とか「虫けらみたいに」とか。


 現時点では殺生をせずに生きていくことはできませんが、生き物を犠牲にする中で、命を見下したり軽く見たりするのではなく、まず感謝と敬意を持つべきだと思うのです。



 そんなある日。SNSのコメントで、フォロワー様から私の作品を褒めていただきました。


 私は喜び、と同時に照れ、反射的に「いやいや、◯◯さんの美しい作品と比べたら私のなんて、月とスッポンですよ!」と書いて返信しようとしました。


 そしてはたと気づきました。

 ……スッポン?


 おっと、なんということでしょう。無意識に生き物を貶めることわざを使うなんて!



 あやうくマイルールを破るところでした。危ない危ない。


 送信していないからセーフにしましょう。と、私はいつもの「人に厳しく自分に甘く」のスタイルで考えました。

 すぐにコメントを書き換えることにします。



 しかし、「いやいや私のは◯◯さんの作品ほど素晴らしくありませんよ」みたいな言い換え文を何度か書いてみても、最初に浮かんだ「月とスッポン」ほどしっくりきません。何か嫌味っぽいというかわざとらしいというか、言い回しがピタッとこないのです。


 ああでもない、こうでもない。

 うまく決まりません。



 ……ああ、もう別に良くない?

 月とスッポンを使ってしまおうか。


 いやいや、そんなことはできない。



 私は自分を奮い立たせるため、「スッポン 可愛い」で画像検索をしました。

 手のひらにすっぽりと納まるほどの、可愛らしい子スッポンの画像がたくさん表示されます。


 私は、子どもの頃に友達に見せてもらった子スッポンを思い出しました。

 スッポン料理のCMや番組に出てくる可愛いスッポンを頭に浮かべました。


 ……そうです、スッポンの可愛さを前に、私の美学を破るわけにはいきません。

 スッポンを裏切るくらいなら、嫌味な人間になった方がマシです。


 私は不自然に嫌味っぽいコメントを書き上げ、返信しました。



 ふう。謎の達成感。


 スッポンよ、私は負けませんでした!

 何にか分かりませんが。



 こうして、偽善者である私は、何も大層なことはしていないくせに、言葉上で何かを言ったの言わないのと日々一喜一憂し、偽善者活動に励むのでした。




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