「いえーい!めっちゃホリディ!!」
隣の席の先生がウキウキしながら歌っている。
神戸《かんど》 誉《ほまれ》先生。数学を担当している女性教師だ。数学を教えている人にしては理的でもなく、その時の感情が表に出やすい。
今もバーベキューが楽しみだからなのかとても元気に歌っている。バスの中だというのに。
「ほら、加茂川も歌おうぜ!」
なんかテンション高くなって暑苦しくなっている。正直うざい。クラスメイトと隣になるのが嫌だからってこの席を選んだけど、少し後悔している。
「あ、はい。そっすね」
「なんだ?元気が無いじゃないか。もしかして……宿題が終わりそうにないとか?」
「先生は僕をなんだと思ってるんですか」
「ぼっちな陰キャでしょ?」
「……」
何も言い返せなかった。
「良し、それでは班ごとに場所を決め、その後は肉を焼く準備だ!」
『おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!』
元気だなおい。うちのクラスは陽キャの集まりなのか?あ、委員長と竜田も叫んでる……なんで?そういうタイプだっけ君たち。
「いくよ、みんな!!」
「「おぉぉぉ!!」」
「……おー」
もう、なんか、どうでもいいや。
「おぉ、美味しい!」
「やっぱり外で食べるお肉は美味しいね〜」
「かゆ……うま……」
委員長はポンコツ、千葉さんはギャル、竜田は天然なので、僕がお肉を焼く係になった。これは、珍しく僕から意見したことだ。
「加茂川くんはスゴいね」
「天才的?」
「完璧で究極!」
「……お肉だし、普通に焼いたら誰でも美味くできますよ」
内心では喜んでたりする自分もいる。面と向かって褒められることなんて親と先生以外に無かったから今にも爆発しそうだ。
僕は照れ隠しも兼ねて、食べ頃なお肉を渡していく。
「こ、これ、焼けたから……どうぞ」
照れに陰キャ特有の緊張癖が重なり、より不審者っぽくなる。流石にこればかりは今すぐにどうにかできるものではない。
「ん、加茂川も食べるべき」
そう言うと竜田は僕が差し出そうとしていたお肉を逆に差し出してきた。そう、まさかの拾い箸をしてきたのだ。驚きだ。
マナーとかにも驚いたが、差し出されてもどうすればいいのか……。このままだと気まずいし、仕方ない。恥ずかしいが食べるか。
「ナイス食いっぷり」
そこから先は恥ずかしさでいっぱいいっぱいだったので、ひたすら焼いて、偶に自分でそれを食べることだけに専念した。
「遊ぶぞー!!」
「「「おおおおおおお!!」」」
……なぜか神戸先生もまざって水鉄砲で遊んでいる。
「ふはははは!教師の圧力に屈するのだ!おりゃぁぁぁぁ!!」
ガトリングの水鉄砲とかあるんだな、今の時代。凄いな。というかセリフが一々小者っぽいんだよ。
「負けないよ!委員長アターーック!」
「カワカワビーム?」
「ゆびでっぽー」
……楽しそうでなによりだ。僕はバレないうちに退散しよう。
「どこに行こうというのだね、加茂川」
「いや、あの〜……」
しまった、先生にバレた。くそ、言い訳しないと……。
「総員!加茂川を……撃てえええええ!!」
「「「イエッサー!」」」
言い訳する火まもなく、撃ち殺されてしまった。こういう人がいるから、終わるはずの戦争も終わらないんだろうな……はぁ。
「おかえりソウスケくん……って、びしょ濡れじゃないか。先に風呂に入ってこい。
改めて、おかえり。私が作った料理だが……見てみろ。疲れているだろうからにんにくが効いたチャーハンを作ったぞ。もちろんそれだけじゃない……ニラの野菜炒めに味噌汁!栄養面も疲労回復面も完璧だ!はら、食べてみろ。
……お、おいどうした?なんだその顔は。何故真顔なんだ?美味しくないのか?……ま、不味くはないって、それ美味しくもないってことか!?おい!ちょっ!真顔で食べるな!怖いだろ!!」
今日学んだこと。陰キャにはやはりああいうテンションは合わない。そして、葵さんの料理はどれも説明し難い味をしている。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!