さて。初級ダンジョンの一つである市街地ダンジョンにはだいぶ慣れ、後はボスを見つけて倒すだけとなっている。
なので、もう一つの初級ダンジョンも訓練場所に加わえることになった。
それは森林ダンジョンだ。
この森林ダンジョンだが、初級とは言えかなり危険なダンジョンとなっている。ただし出てくるモンスターは驚異とならない。ゴブリンやシンリンオオカミが出てくる程度だから。それも単体でだ。それらは基本、銃で狙撃して終わりだ。見通しが悪いという欠点はあるが、それでも至近距離での戦闘も問題にならないほど驚異にならない敵ばかりなのだ。
問題なのは遭難する可能性が常につきまとうということ。
そう。フィールドそのものが脅威。
実際、遭難者が相次ぎ、この初級の森林ダンジョンはいわゆる「美味しくないダンジョン」と言われて倦厭されている。リスクは高いのにお金は稼げないのなら当然そうなり、初級なのに未だ攻略情報が全部開示されていない。
つまりボスの情報が無いのだ。
ハルが宇宙船内にある宿泊施設「白の間」のロビーで俺たちに、この美味しくないダンジョンの攻略を目標に据えると話したのは、船内時間で三週間という時が過ぎた頃だった。
「皆が銃にだいぶ慣れたようだし、そろそろ違うフィールドを体験するのもいいかなって思うの。そこで初級の森林ダンジョンの攻略を目指したい思っています」
そんなハルの提案に無気力で無関心な高橋和《たかはしかず》は頷いた。どうでもいいのだろう。俺はヒメへ視線を向けた。
「ヒメはどう思う?」
するとレモンティのストローを口に入れようとしていたヒメが顔を上げて言った。
「遭難しない方法があるなら構わないと思います」
俺は同意してハルを見る。すると彼女がニヤリと笑った。
「大丈夫よ。実は良いものを召喚できるようになったの!」
そう言って彼女が出したのはGPS端末。俺はハルに尋ねた。
「使えるの、それ?」
ハルが照れたように笑う。
「それを確かめに行きます」
なるほど。使えれば御の字だな。というわけで初級の森林ダンジョンへも潜ることとなったのだった。
森林ダジョンは秋の日本の山のような様相だった。
散策にはもってこいの気温と湿度で非常に快適だ。
雑木林の中を一定の間隔を開けて前進する。常にお互いが視界に入る位置で、いざとなればすぐにバックアップできる間合いだ。
それでも籔による死角が多い。
「ハル?」
しばらく歩いて俺がハルに問う。すると親指でグッドのハンドサインが出た。どうやらGPS端末は使えるようだ。入口の扉をスタート位置に設定して、山を登るように移動を開始した。
山を登るのは、見晴らしが良いから。高い場所からボスの居そうなエリアを確認するためでもある。
「まずはボスが何処に居るのかの確認。そしてボスの正体の確認。できれば初見の敵でないと嬉しい」
というわけで山の頂上を目指して、俺たちは歩き始めたのだった。
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