ウサギに拉致されてからのダンジョン攻略

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007:ハルの能力

公開日時: 2020年11月28日(土) 16:46
文字数:1,350

 渡来遥は自分のことを「ハルと呼んで下さい!」と言ってニッコリと微笑んだ。愛称で呼ぶことに少し戸惑いつつ、それでもそう呼べと言われたからには呼ばないわけには行かず、俺は質問を始めた。


「ハルさんは――」


 さん付けで呼んだら彼女自身に遮られて訂正された。


「呼び捨てでいいですよ」

「えっと、じゃあハル……ちゃん」

「いえ、呼び捨てで」

「はい。ハルに質問があるのですが?」

「はい! 何でも聞いて下さい!」


 俺を選んだ理由を尋ねた。


「俺の能力はマジックハンド。つまりただの玩具だ。それなのに何故?」


 するとハルはニッコリ笑って答えた。


「正直な話をすると、ジンさんの能力は当てにしていません」

「え?」

「いえ。むしろ役に立たないことを気にしてもらっているほうが私には都合が良かったんです」


 俺は突然のハルの言葉に戸惑い言葉を飲み込み、彼女の真意を待つ。


「私の能力は『サモン』という私のよく知る物を召喚する能力です。今お見せします」


 そう言ってハルが召喚を始めた。すると彼女の手元に一丁のアサルトライフルが現れた。


「銃……」

「はい。手にとって見て下さい。ちなみに今その銃には弾は入っていませんが、それでも銃口は覗かないように。銃を扱う際の鉄則です」


 俺は言われた通り銃を手に取った。そして眺め回す。


「これって……?」

「はい。今の私の能力のランクでも人数分以上の数が出せます」

「つまり、俺でも戦える……」

「はい。銃の扱いには習熟してもらいますけど」


 唖然とする俺。能力って、その人の能力は、その人自身しか使えないと思っていた。思い込んでいた。でも、そうか…… 譲渡できるのか……


 盲点。俺が神薙さんと高橋くんを見る。彼女らもハルの能力の恩恵に預かっての、あの戦績なのか。理解して納得した。そこで、も一つ疑問が。


「さっき、言っていた能力が役に立たないことを気にしている方が都合がいいっていうのは?」


 ハルが苦笑いを浮かべて答える。


「私の指示に従ってもらえるからです。私は私の思い通りに動く部隊が欲しいんです。四人一組の部隊が」


 俺はハル以外の二人を見る。どう見ても戦うということとは無縁の二人だ。性格は内向的で男性だからとか年上だからとか言って主導権を握ろうとする性格には見えない。衝突すること無く指示に従ってくれるだろう。


 俺は納得した。そういう意味では俺は少し例外かもしれないが、それでも能力が玩具を具現化させる程度のチカラしか無く基本的に無力な存在だ。ハルの能力による支援がなければダンジョンで生き抜くことができない。


 俺はハルを見る。彼女は少し申し訳無さそうな様子ではあるが、でもこれは必要なことと割り切っている風でもある。年下の女性に戦闘の指揮を任せるのに抵抗があるか? 俺は自問自答するが、すぐに答えを出す。


 全く抵抗がない。というか俺がリーダーをやるという選択肢は始めから無かった。能力の問題じゃない。


 チームの命を預かるという責任感とか、その重みとかに耐えられないからだ。リーダーシップの欠如。


 それを自覚している俺は、素直にハルに頭を下げた。


「俺に、戦える力をください。ダンジョンで生き抜くための知恵とチカラを!」


 ハルがそんな俺を見つめながら、「ジンさん。よろしくおねがいします」と言って微笑んだ。


 こうして俺は、ハルのチームに入ったのだった。

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