フルフェイスの面を被った、バニーガールに説明を受けた。混乱する頭で、どうにか内容を理解した俺の口から言葉が漏れる。
「異能力を貰って、それでダンジョン攻略? 報酬がお金?」
先ほど受けた敗北感や怒りは何処かに飛んでいってしまった。異能力。俺の大好物だ。三十二歳にもなって未だに厨二病なままの俺にとって、この展開はまさに願っていた夢のような内容だった。ついつい勢い込んでフルフェイスに尋ねる。
「そ、それで? 俺の能力って何ですか?」
すると一台のスマートデバイスを渡された。スマートデバイス。つまり多機能端末のことだ。スマホやタブレット端末なんかがその代表だ。まぁフルフェイスに渡された端末は見た目がまんまスマホなのだが。
俺は素直に端末を受け取る。
「これは?」
「それには色々な情報やアプリが入っています。いちおう口頭でも説明は受けていますし、お答えしますが、そこにも各種説明は書かれています。暇な時にでも目を通しておいて下さい」
俺は端末の中にあるアプリの一つにステータスなるアイコンが有ることに気が付いた。さっそく起動してみる。
そこには能力の名称とその特性が書かれていた。
能 力:マジックハンド
ラ ン ク:G
破 壊 力:G
スピード :G
射程距離 :G
持 続 力:G
精密動作性:G
成 長 性:A
なんか成長性以外が最低な感じがするのだが?
そう思った俺はフルフェイスに尋ねてみた。
「なぁ。俺の能力のランクが『G』で、その他も成長性以外『G』が並んでいるんだが?」
するとフルフェイスが説明しくれた。
「『G』は苦手を意味しています。能力を成長させればステータスも伸びると思いますよ?」
「疑問形かよ!」
「成長のためにはお金が必要です。成長性が高いということは逆に言えば成長させやすいということに繋がります」
「えっと、つまり?」
「成長にかかる金額が安くて済みます」
「お金かぁ。現状、持ってねぇなぁ」
「はい。そこでモンスター退治です」
「低い能力で倒せるの?」
「……がんばれば」
「おい!」
強くなるためには、お金が必要で、そのためにはモンスターを退治しなきゃいけないわけで。でも能力は最低で。あれ? 詰んでんじゃね?
フルフェイスに白い目を向けると、フルフェイスが何でもない様子で口を開いた。
「当ダンジョンの中央には酒場がありまして、そこで仲間の募集をしてらっしゃいますよ?」
「あぁ…… 俺。今まで友達とかいなくて、そういうコミュニケーションって苦手で……」
「大丈夫です。そういう方のために斡旋所もあります。尋ねてみると良いですよ?」
いちおう頷いておいた。多分、使わないと思う。
だって俺の能力、ゴミなんだもの。
「それで? 能力ってどうやって使うの?」
「使い方は簡単です。能力を使うと念じればいいので」
俺は言われて、頭の中でマジックハンドを使うと念じてみた。イメージとしては玩具のマジックハンドだ。すると自分の手の中に、本当に玩具のマジックハンドが生み出された。先の方が二又に分かれているタイプのやつだ。
「……で? これって何に使えるの?」
「…………」
俺の疑問に今まで丁寧に答えてきたフルフェイスが沈黙した。
「て、え? なにか答えてよ!」
「具現化系の能力は、具現化する対象のイメージ次第では変化させることが可能です。例えば透明にできたり。五本指に出来たり」
お? 思いがけず有用なアドバイスが来たのでさっそく試してみる。すると透明のマジックハンドが出来た。そこで玩具ではなくて自分の手を伸び縮みさせるイメージをしてみる。すると透明のリアルな手を伸び縮みさせることができた。
「けどこれって何に使えるの?」
「……えっとパンチをする時にリーチが伸びる?」
フルフェイスも自信がないようだ。
「え? モンスターに素手で殴りかかるんですか?」
「……死にますね」
「おい! 死にますねじゃねぇよ!」
「まぁ、他に応用が効くかも知れません。いろいろ検証してみることを勧めます」
俺は溜め息を吐いて頷いた。応用。効くと良いなぁ。
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